『追放者達』、散策する・3
マロバス商店にて買い物を終えた『追放者達』一行。
次なる目的地として定めていたアクセサリーショップへと目指して、再び移動を開始する。
と言っても、宿からマロバス商店まで移動して来た時程に、通りを歩いて行く訳では無い。
ほんの少し、それこそ同じ通りを数軒程横方向へと移動するだけで事足りてしまう程の距離に、仲間達をアレスは誘導して行く。
その結果、大きく張り出した庇の下に広げられた台座に嵌る無数の指輪やイヤリング、ネックレスと言った装飾品が並ぶ、かなり奇特な店構えをした店舗へと到着する。
その外観に、唖然とするアレスを除いた『追放者達』。
「…………その、何と言うか……大胆な、店構えであるな……」
「随分と、人の善意、ってヤツを過信してる店みたいね」
「信ずる心は素晴らしいとは思いますが、その……流石に無用心が過ぎるのでは……?」
「なのです。
この街って、こんなに無防備に振る舞っても素寒貧にされない程度には、治安が良かったりするのです?
まぁ、平気でリーダーに喧嘩吹っ掛けられる程度には平和ボケ出来る環境みたいなので、否定は出来ないのですが」
「それにしても、この販売スタイルは中々に『異形』だとオジサン思うんだよねぇ。
確かに、こうした方が人目を引くし、そうなった方が売れ行きは確実に良くなる上に外なら陽光でモノの判別もし易くなる。
それは、分かる。分かるんだけど、ねぇ……」
大胆過ぎる店構えに、戸惑いの声と渋面を浮かべるメンバー達。
こんな、ちょいと取ってしまえば簡単に逃げられる様な状態に商品を置いておくだなんて、といった常識的な批判や、それでもこうして商売していけるだけの何らかの防犯措置は取れているのだろうか?といった技術的な疑念が渦巻き、何とも言えない表情を浮かべている。
そんな彼ら彼女らに向けて、さも『自分は全て知っています』と言わんばかりの様子にて悪い笑みを浮かべて見せるアレス。
「そうか?
本当に、そう思うか?
なら、盗ってみればどうだ?
そうすれば、何でこんな事してるのか、何故こんな事が出来ているのか、全部解決するぞ?」
「…………いや、やらんぞ?
当方は、絶対にやらんからな?
そなたのその物言い、確実に何かしらの仕掛けが在るのであろう?しかも、碌でも無いヤツが」
「ええ、私も遠慮しておこうかと。
確実に、何か起こる、と確信されている時の物言いですので、絶対に私はやりませんよ?」
「オジサンも、酷い目には遭いたくないから、止めておこうかなぁ〜」
「じゃあ、アタシも」
「ボクもなのです!」
「なんだ、残念。
久しぶりに、『アレ』が見れると思ったんだがなぁ……」
悪い顔をして不穏な言葉を呟くアレス。
そのただならぬ雰囲気と、わざわざ買えるだけの金額を持っているのに犯罪を犯さなくてはならない理由は無い、という点からアレスによる提案(窃盗)をかなりガチ目に拒否して行く一同。
そんな彼らへと、唐突に店内から声が掛けられる事となる。
「…………人の店先で、随分と物騒な相談をしてくれるな。
久方ぶりに顔を見せたと思ったら、また悪巧みか?
しかも、今度は仲間まで巻き込んでだなんて、流石に見過ごせんぞ……?」
「よう、ヴィーネ。
相変わらず、ゴツくてハゲてるな。
以前から思ってたが、その図体でどうやってここまで小さな品々作ってるんだ?本気で魔法でも使ってるんじゃないだろうな?」
低く、野太く、威圧感を含んだその声と共に姿を現したのは、一人の巨漢。
種族的に大柄になりやすい中でも長身なガリアンに匹敵し、身長も平均的な只人族の中では正しく『巨漢』と評するに値するであろう身長と、ソレに見合っただけの身体の分厚さ、逞しさを持つ人物が陽の光の元へと歩み出て来たのだ。
特に殺気や敵意の類は無かったので、別段構える様な事はしていなかった一同。
だが、唐突に登場した人物の人相がハゲでヒゲで強面な巨漢であった事もあり、外見で差別する様な器の小さな事は欠片もするつもりは無い一行であってもその驚愕は大きく、思わず息を呑んだり得物に手を掛けたり、といった行動を取ってしまう程であった。
ギロリ、と効果音が聞こえて来そうな程に鋭く、硬い視線が彼らの方へと向いて行く。
そこには特に何かの色が浮かんでいる訳でも無く、ただ単に遠く薄い関係性の在る相手、として捉えている事のみを伝えて来ていた。
「…………あんたらが、こいつの今の仲間か?
噂は、ここまで届いてる。
かなり活躍している様子だが、あまり騒ぎは起こしてくれるなよ。
でないと、こいつだけならまだしも、その仲間まで、となると流石に手に負えないからな……」
「分かってるよ。
さっきのは、流石に冗談さね。
売れ行きは相変わらずみたいだし、安心したよ。
取り敢えず、幾つか見せて貰うけど大丈夫だよな?」
「…………今のお前なら、幾らでもその手の店に行けるだろうに、酔狂な。
見たければ、勝手に見ろ。
だが、盗るのだけは止めておけよ?
でないと…………言わなくても、分かるな?」
「あいあい、分かってるっての。
流石に、今なら負けないつもりではあるが、あんた相手だと誇張抜きにして殺し合いになりかねんからな。
そいつはゴメンなんでね、止めとくよ」
「…………そうしろ。
俺は、奥に居るから、決まったら呼べ」
そう言って視線を切ったヴィーネと呼ばれた人物は、その場で踵を返して店の奥へと戻って行く。
その足取りは体型に反比例して軽く、静かで、巌の様な体型からは考えられない程に靭やかで軽やかなモノとなっていた。
身体の運び方それ一つを取っても、先の決闘にてアレスと戦ったアスランよりも高い実力を持っている、と容易に見て取れるヴィーネの後ろ姿に、困惑を隠せないヒギンズを除いた一行。
一方、何かしらの心当たりが在るのか、顎に手を置いて考え込んでいたヒギンズは、一人感慨深そうにしていたアレスへと向けて言葉を放つ。
「…………ねぇ、リーダー?
もしかして、彼。
得ている職業って『暗殺者』だったりするかい?」
「!良く分かったな!?
そうだけど、何でそう思ったんだ?」
「ん?リーダーとの会話の内容と、身体捌きの癖?」
「…………と、言いますと?」
「多分、彼ってリーダーの暗殺者としての師匠か何かなんじゃないかな?少なくとも、動きの参考にする程度には彼の事を知っていて、そういう動作を見られる近さに居た、って事は間違い無いよね。
それと、さっきリーダー言ってたでしょう?『殺し合いになる』って」
「…………成る程、少なくともリーダーが命の保証が出来なくなる、その程度以上の実力を有している、と言う訳であるか」
「はい、正解。
だから、その『実力も理解している』って点も加味して、師匠か何かだったんじゃないかなぁ~?とね?
それと、多分だけどここで商品盗ったら彼が追い掛けて来る、って話なんじゃないかい?多分だけど、ね?」
そう問い掛けるヒギンズに対してアレスは、言葉で応える事はせず、ただただ笑みを深めた後、そのまま店の奥へと入って行ってしまうのであった…………。
なお、店に並べられている商品はどれも緻密で精巧な造りをしているモノばかりであり、外見と相まって店長が作っているモノだ、とアレスからのカミングアウトを聞いた上でも、ソレを『追放者達』のメンバーが信じる事には、ヒギンズを含めた上でも大分時間が必要となるのだが、それはまた別のお話……。
ゴツいオッサンが意外な程に繊細な趣味やら技術やらを持ってるのって結構好き