『追放者達』、散策する・1
様子が気になった為に、一度宿へと向かったアレス達『追放者達』のメンバー達。
するとそこでは、まるで野生の欠片すらも失ってしまったかの様に腹を剥き出しにして寝転がるナタリアの従魔達の姿が存在していた。
広々とした獣舎の中には、他の冒険者が預けたのであろう従魔と思わしき動物や、魔物と思われる姿もあった。
一応、ある程度までの大きさと、テイムした主に対して絶対的に服従している事を証明出来れば、こうして街の中へと魔物であっても連れて入る事は出来るし、宿に預ける、という事も出来はするのだ。
そうした、他の従魔達は、総じて獣舎の隅の方へと引っ込んでいる様子。
毛並みが乱れていたり、項垂れていたり、キュンキュンと鼻を鳴らしていたり、と、どうやら彼らに格付け的に挑んで敗北し、ど真ん中を奪い取られたみたいであった。
実力的に考えれば、まぁ当然の事か、と特に咎めるつもりも無く、入口として切られていた冊に掛けられている扉を開いて中へと踏み入る『追放者達』。
すると、それまで項垂れたりして消沈していた他の従魔達が頓に活気付き、牙を剥き出しにしたり唸り声を上げ始めたりする。
舐められない様に、侮られない様に、と言った張り合い的な行動だったのだろうが、それらのいじらしいまでのプライドを守ろうとしての行動は、いち早く気付きて眠りから飛び起き、尻尾を振り回しながら彼らへと向かって飛び掛かって行った森林狼達の姿によって無惨にも粉々に打ち砕かれる事となる。
野生を忘れ、完全に飼い馴らされたケモノの末路であろうそれらを振る舞いを見せながらも、実力でも群れの規模としても絶対に勝てない、と悟らされてしまっていた相手の行動に、思わず絶望から目の光が消えてゆく他の従魔達。
しかし、そんな事には関わるつもりは無い、そもそもそんな事は知った事では無い、と言わんばかりのスタンスにて彼らは、自分達の処の従魔の様子を確認し、一通り撫で回してから再び街並みへと足を向けて行く。
なお、撫で回されるだけ撫で回され、腹を出してアヒアヒ言わされていた森林狼と月紋熊達は、周囲の従魔達をジロリと一睨みしてから再びど真ん中の一等地へと向かうと、そこでまた鼾を掻きながら爆睡していたりする。
そうして宿を後にしたアレス達は、予め……と言ってもほんの少し前に決めたばかりだが、このアルゴーの内部を散策する事にしていた。
暮らしているだけであれば、それなりに長く住んでいた事になるアレスの先導により、あちらこちらと見て回って行くのだが、ソレにはそれなりに準備も必要になる様子。
「取り敢えず、行き先はある程度絞らせて貰うぞ。
対外的に張り合っての称号とは言え、カンタレラ第二の都市、の称号は伊達じゃないからな。
当ても無くぶらついたとしたら二日三日じゃ回り切る事も出来やしない。
そんな訳で、先ずはリクエストの在った『食べ歩きも出来る様な屋台街』と『ゆっくり足を休められるカフェ』は確定として他にはどんな所に行きたいよ?大体あったハズだ」
「うむ、そうであるなぁ……。
流石に、まだ日も高く在る時分に賭場を紹介して貰う訳にも、一応とは言え依頼された事の在る状態で赴く訳にも行かぬであろうし、そちらの楽しみは後に取っておくとして……当方としてはその程度であるが、皆はどうであるか?」
「私は、そうですね……お酒、は夜にでも嗜めば良いので酒屋は後でも構いませんし、他には特に……あ!
でも、何処かで書店に寄って頂ければ嬉しいです!
手持ちの品は大体二度三度と読んでしまっているので、そろそろ新作を仕入れたいのです。新たな街では新たな作品との出会いも期待出来ますし、ね!」
「なら、ボクとしても本屋さんには行ってみたいのです!
それと、従魔向けの装具店とか有ったりするのです?
そろそろ、あの子達のブラシとか新調したいと思っていたので、丁度良いのです!」
「なら、アタシはアクセサリーでも見に行きたいかしら?
最近、お金はそれなりに入って来てるから、ノミ市の類いで掘り出し物狙わなくても良くはなったんだけど、ソレはソレとして個人的に気に入ったヤツがあんまり見付からなくってさ〜。
だから、場所が変わったのなら或いは、ってヤツ?因みに、ただの装飾品としてオシャレする為に欲しいんであって、別段装備品としては探してないって処はちゃんと理解してよね?」
「なははっ、流石にその辺はリーダーだってセレンちゃんと付き合ってるんだから、わざわざ釘刺さなくても理解はしてると思うよぉ?
とは言え、オジサンはどうしようかなぁ……?
以前なら武具目当てでノミ市巡り、とかもしていたけれど、今となっては収集してるモノの制作者から直接買えるし、何ならリクエストすら通るから今更漁る必要は無いしなぁ……。
どうせ酒屋にはもう寄るんだろうし、だったら肴として合わせられそうな乾物屋とかに心当たりは有ったりするかい?
前から、リーダーが自作してくれたりしていたけど、偶には外で買って試してみるのも一興だとオジサンは思うんだよねぇ~」
「了解了解。
なら、行き先に『酒屋』『本屋』『小物屋』『アクセサリーショップ』『乾物屋』を追加、って事で良いな?
なら…………先ずは近い順で小物屋とアクセサリーショップから見て回るか?
その次辺りに本屋を挟んでから酒屋と乾物屋、その後に休憩も兼ねてカフェに寄って、最後に屋台街で食べ歩き、なんてコースでどうよ?
ガリアンには悪いが、まぁ…………後でそういう場所には連れてってやるから、今は我慢してくれや」
「その様な段取りならば、当方に異議は無いのであるよ。
勝っても負けてもそれ相応に愉しめるのが賭場という施設なのである故に、手持ちで程々に楽しませて貰うつもりである。
…………それと、約一名同行者は追加でよろしいか?何やら、先程からチラチラソワソワとしている中年が視界に入って来るのがキツいのであるよ……」
「………………分かった、分かったからそんな顔するなってオッサン!
あんたも連れて行ってやるから、そんな中年男性が浮かべて良い訳が無い表情浮かべながらこっちを凝視するのは止めろって!気色悪い!?」
「ちょっと、それは酷いんじゃないかなぁ!?
これでも、オジサン必死に頼んでいるつもりだったんだけど!?」
「そうよそうよ!
幾ら、中年が浮かべてちゃキツい顔してたとしても、そういうのって直接指摘したらダメなんだからね!
せめて、キモカワイイとか、ブサカワイイとか、そういう表現をしてあげないと、この年頃のオッサンは直ぐに拗ねちゃうから扱いが面倒臭いのよ!」
「……………………ねぇ、タチアナちゃん?
さっきの言葉、タチアナちゃん的にはフォローしてるつもりだったのです?
でも、当の本人にはクリティカルヒットしてるみたいで、血を吐きながら胸を抑えて蹲っているのですよ?」
「流石に見ていられないので、取り敢えず回復致しましょうか?
まぁ、加齢までは治せないですし、加齢臭の類いも私ではどうにもならないので不可能なのですが」
「あ、とうとう倒れ込んで痙攣し始めたのです。
これは、もうダメみたいなのです?」
そんな、ワチャワチャとした陽気なやり取りを挟みつつ、もののついでに移動を開始した一行の姿からは、ほんの少し前までの殺伐とした凄惨な空気は欠片も存在しておらず、最早その時の事なんて記憶に残りすらしていない、と言わんばかりの様子となっていたのであった。
タイトルからも分かる通りに、ここから暫くは日常回的な感じになります
観光を楽しむ主人公達をお楽しみ下さいませm(_ _)m