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『追放者達』、宿へと向かう

 


 冬季とは言え、冒険者の生活に深く根付いているダンジョン故に、何時までも閉鎖しておくのは難しいので、早急な解決が望ましい。


 そう結論を付けたものの、かと言って今日明日にでもどうにかしないとどうにもならない、という訳でも無い為に、取り敢えず諸々の決め事を整えた今日は解散し、調子を整えてから調査に挑む、との予定に落ち着く事となった。




「じゃあ、先ずはどうする?

 確かアイツら(従魔達)は宿に先に置いてきてたんだよな?

 なら、様子だけでも見てくるか?」



「当方としては、それでも構わぬぞ?

 あれらがどの様な扱いを受けているか、それによって宿を変えねばならぬ可能性も有る故な」



「なのです!

 流石に、『Sランク』冒険者の従魔達に対して下手な事はしないと思うのですが、だからと言って過信は禁物なのです!

 まぁ、何事も無かったのでしたら、取り敢えず観光でもしておくのです?」



「アタシは、別にそれでも良いわよ?

 丁度小腹も空いてきたし、何処かでお茶するのも良いし、屋台なんかを狙って食べ歩き、ってのも悪くないんじゃない?」



「そうだねぇ。

 オジサンとしても、そういうのは嫌いじゃないよぉ。

 その街、その都市だけで出会える味を楽しみながら街並みを巡る。それも、出先でのみ出来る楽しみの一つだからねぇ」



「では、その様に致しましょうか!

 先程よりも、不躾かつ不遜な視線も減った様子ですし、今であればそれなりに快適に見て回る事も出来るかと。

 アレス様も、それでよろしいでしょうか?」



「俺も、それで大丈夫だよ。

 なら、今回の案内も任せて貰おうかね。

 これでもここはそれなりに長く住んでたから、俺でも普通に対応してくれていた店とか、そこそこ心当たりもあるんで任せて貰おうか」




 そんなやり取りを挟みつつ、冒険者ギルドの建物から宿へと向かって歩いて行く『追放者達』。


 あれだけの凄惨な情景を作り出した直後にも関わらず、平素と変わらぬであろう振る舞いを見せるその姿は、アレスの事を侮り、流れる噂を信じていた者達に対して深い恐怖を植え付けるのには十分なモノとなっていた。



 訓練所へと向かう時とは打って変わって、揃って視線を背けて行く冒険者や一般人。


 現時点に至る迄に、彼の事を嘲笑した事が有る、との自覚が在る者は、彼らと視線を合わせる事すらも恐ろしく、いつどの様にアスラン達の様に報復されるか分からない、と思い込んでいるのだろう。



 尤も、当の本人たるアレスにはその様な事を行うつもりは欠片も無く、ただ単に取っていた宿へと向かっているのみ。


 周囲から視線を向けられる事も無く、また自然と人々が逃げる様に移動して前方が開けて行く事にも、本人的には『過ごしやすくなってきたな』『なんだか今日は歩き易いな』といった程度にしか思っていなかったりする。



 そうして道を進む事も暫しの間。


 昼食を取っていた酒場も通り過ぎた彼らは、確保していた宿である『バエルの転寝(うたたね)庵』へと到着した。



 カンタレラ王国第二の都市として栄えているこのアルゴーでも、割りと上位の宿、として名前が通っている『バエルの転寝庵』。


 サービスが良い事や、宿としての規模の大きさでも名前が通る事となっているのだが、やはりその宿泊費は相応以上のモノとなる、という事でも有名な宿である。



 幾ら冒険者の実質的な最高峰である『Sランク』へと至っており、その気になれば幾らでも稼げる状態となっているとは言え、元々の気質的にはそこまで高いランクの宿を取る事に執心するハズが無い『追放者達』。


 そう言った意味合いに於いては、普段であればもう少しランクを落としてサービスの向上を狙ったり、食事のグレードを上げたり、と言った事に対して費用を掛けたりするのだが、今回ばかりはそうも言ってはいられない理由が二つ程。



 一つは、宿の空き具合。


 基本的に人の動きの少ない冬季は、宿も空きが目立つのか、とも思われがちだが、ここアルゴーや首都であるアルカンターラの様な冒険者人口の多い都市だと話が変わってくる。



 仕事の少なくなる、もしくはほぼ無くなる冬季の間を、それまでに作った蓄えによって宿へと長期滞在して過ごす、というのが、割りと冒険者のスタンダードな過ごし方だからだ。


 彼ら『追放者達』の様に少数精鋭とは言え確りと信頼を結べる程に強固な繋がりのあるパーティーであればまだ、パーティーハウスを共同で購入する、と言った様な手段を用いる事も出来る。



 が、普通はパーティー単位であったとしてもメンバー間でのイザコザは大なり小なり発生するモノだし、ソレが男女間のモノであれば尚の事そうなりやすい。


 なので、基本的にはパーティーハウスとして建物を所持していたとしても共同の物品保管所や会議室、宴会場として使われる事が殆どであり、彼らの様に共同生活を、なんて事はかなり珍しい部類の話となる。



 おまけに、そこまで出来るだけの資金力を持てるだけのランクになれば、短期的には定宿として長逗留した方が金額としては往々にして安く済む為に、寧ろ冬季の方が宿は埋まり易い状況にある、という訳だ。



 そして、二つ目の理由としては、彼らが連れている従魔達の問題だ。



 元々、従魔を預けられる様な設備を整えている様な宿は、冒険者向けとして売り出しており、当然の様にそう言った宿は他よりも埋まってしまい易い。


 彼らが連れている程に大きな群れを収容し、その世話に対応出来るだけの人材と規模とを兼ね備えている様な処は、尚の事さっさと埋まってしまい易い、という訳だ。



 なので、他の宿は大体埋まってしまっているだろうし、なら駄目元で最高峰の処から狙い撃ちにしてみようか、とのノリで突撃かましてみたら、ギリギリ泊まれるだけの空きがあったので滑り込む事が出来た、というのが事の次第だ。


 とは言え、彼らが『Sランク』冒険者である、との身分を出すまではかなり渋られる事となったし、出した後もアレスに対しては侮る様な視線と態度を取るスタッフも多く居た。



 が、流石はプロ、と称えるのに相応しく彼を見下す様な真似を欠片も見せていない者もそれなりに多く、寧ろ(おもね)る様な態度を取るスタッフが少なかった事が決め手となり、そのまま滞在する事に決定したのだ。



 尤も、それは全員が全員そうでは無い、というだけで酷い者は本当に酷かったが。


 何を思ったのか、アレスに対して擦れ違い様に肩をぶつけようとしたり、足を引っ掛けようとしたりと、子供のイタズラか何かか?と問い掛けたくなるような、程度の低い嫌がらせを仕掛けて来る様な者もいたのだ。



 まぁ、そんなアホ共は、自らぶつかって来て逆に吹き飛ばされる羽目になったり、引っ掛けようと出していた足を踏み折られてその場でのたうち回る羽目になったりしたのだが、特に問題になったりはしていない。


 発生した怪我の類いはセレンが痕を残す事すらせずに治してしまったし、目だけ笑っていないヒギンズによる何かしらの囁きや、ガリアンによる犬歯を剥き出しにした満面の笑み(迫力満点)によって全員が全員共に口を噤む事となっている為に、問題に『は』なっていないのだ。



 そんな『バエルの転寝庵』へと一時の帰還を果たした『追放者達』。


 未だに部屋へと戻って休みを取るつもりは無い為に、フロントへと寄る事はせず、そのまま裏に回って従魔舎の方へと顔を出す。



 するとそこには、広々として寝藁も敷かれている獣舎の中でも最大のソレのど真ん中を堂々と占拠し、他の冒険者達が預けていたのであろう従魔達を隅の方へと追い遣りながら、威風堂々とした様子にて腹を剥き出しにして寝転がり、俗に言う処の『ヘソ天』状態となっているナタリアの従魔達の姿がそこには在ったのであった……。




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