『追放者達』、依頼を引き受ける
「はぁ!?
『ミクトラン遺構』で、だぁ!?なんで??」
アルゴーの冒険者ギルド支部長であるマレンコの口から出た単語に、アレスが過剰なまでの反応を示す。
それには、普段から泰然としているヒギンズやガリアンだけでなく、今回の一件での落とし所に納得の行っていなかったらしいセレンも驚いたらしく、それぞれ目を見開いたり肩を跳ねさせたりしていた。
「…………おぅ、ビックリした。
普段落ち着きのあるリーダーが、そんな反応するのは珍しいけど、一体どうしたんだい?
その、ミクトラン遺構、だったっけ?そこって、そんな反応をする程に、ヤバいダンジョンだったりするのかい?」
「……あー、その、何と言うか……事態としてはヤバい事になってるんだが……ダンジョン事態はヤバく無いと言うか……」
「何ぞ、それは?
随分と、そなたにしては曖昧な物言いをするのであるな?
この辺りの事情に関しては、完全に外様な当方にも分かる様に解説して欲しいのであるが?」
「そう、ですね。
私としましても、当事者である、というだけでは無く、従わせる相手に着けさせなくてはならない、といった条件が付いている下位のモノであれ、『支配』『魅了』と並ぶ禁忌として指定されている『服従』の効果を持つアイテムが出る様なダンジョンが、こんな都市の近くに存在している、なんて危険は見過ごせません」
「そうね。
アタシも、今回はほぼ蚊帳の外だったからイマイチ感情を入れ込ませられて無いんだけど、それでもどう言う点が不自然なのか位は説明して欲しいわね!」
「なのです!
どんな無茶な依頼を投げられる事になったとしても、事前に情報が在るのと無いのとでは、天と地ほども差が在るのです!
……ついでに、さっきセレンが口にしていた禁忌のナンタラってヤツの解説もお願いするのです!正直、その辺ボクは良く知らないのでイマイチ分かっていないのです!」
彼の反応を訝しんだ仲間達から、口々に説明を求められるアレス。
それに対して彼は、本来ならば説明するべき立場にあるマレンコへと視線を送るが、中年の偉丈夫は仲間に対しての事前知識として教えてやれ、と言わんばかりの態度にて腕を組み、沈黙を保ってしまう。
「…………まぁ、その、何だ。
取り敢えず、ダンジョン自体はヤバく無いんだ、ダンジョン自体は」
「…………と、言うと?」
「これは、良くある話だとは思うんだが、ダンジョンってのは適切に管理出来さえすれば、比較的良質な資源回収の手段になる、ってヤツは知ってるだろう?
で、今回出て来た『ミクトラン遺構』ってのは、その典型的な例、ってヤツなのさ」
「人の手で定期的に魔物を間引きし、魔石やアイテムを回収し、ついでに内部で発生した素材の類いも回収する、ってヤツ?」
「そうそう、それそれ。
そうやって、鉱山として利用されたり、駈け出し冒険者達がダンジョンに慣れたりするのに利用されたりするダンジョンなんで、当然危険度はかなり低い。
それこそ、俺達が記録更新した『ゾディアック』を冒険者の『Sランク』に例えるなら、ミクトラン遺構は大体…………『Eランク』位の難易度、かな?」
「なのです?
そう聞くと、随分と簡単そうと言うか……ちゃちいと言うか……そんな処から、効果的にはそこまででも無かったとは言え結構ヤバ目のアイテムなんて出てくるモノなのです?
ついでに、ボク達が攻略した現パーティーハウスは難易度的にランク付けするとどの程度なのです?」
「普通は出ない。
だから、ヤベェ、って話になってるのさ。
基本的に、ゾディアックランクのダンジョンで殺意マシマシの宝箱開けて出てくるかどうか、ってレベルな厄ネタだからな。
因みにそっちは体感的な事を言えば……多分『Bランク』の上位、程度には食い込んで来るんじゃないか?」
「『Bランク』、ですか?
でしたら、先程の連中でも踏破は可能、と見ているという事でしょうか?
でしたら、流石に少々過大評価をし過ぎているか、もしくはあちらの事を低評価し過ぎているかと……」
「いや、あくまでもソレは冒険者ランクで例えたら、って話だから。
そのランクに達していれば踏破可能、って話じゃないからね?
現に、俺達今なら『Sランク』だけど、今すぐゾディアックのアンタレス踏破してこい、って言われて『喜んで!』って二つ返事で突撃出来る、なんて自信無いでしょう?
少なくとも、俺はヤれと言われても『無理に決まってるだろうがよ』って返事する自信がある」
「まぁ、そうなるだろうねぇ。
で、話を本筋に戻すと、これまでは鉱山として使えていた低難易度のダンジョンから普段は出るハズの無いヤバいアイテムが出る、なんて有り得ない事態が発生したからその原因の調査を依頼したい、って所かなぁ?
でも、だとしてもなんでオジサン達にソレを依頼するんで?
言っちゃアレだけど、こう言う事態って地元の冒険者達が意地やプライドに掛けてどうにかする類いのモノなんじゃないのかなぁ?少なくとも、オジサンの経験則上ではそうだったんだけど?」
「そうさせてやりたい所は山々なんだが、如何せん実力の方がな。
確かに、『連理の翼』や『華麗なる猟兵』等に振るだけの高難易度の依頼はウチでも取り扱うが、逆を返せばその程度しかこっちには回って来ないって事だ」
「まぁ、要するにここは付近に強力な魔物が簡単に湧いたりする様な地点が無い、って事なのさ。
平和で発展し易かった、と言えば聞こえは良いけど、冒険者として鍛えるにしてもソレに見合うだけの条件を満たそうと思うと、このアルゴーだと都合が悪い、って事なのさ。
だから、ランクがホイホイ上がる様な連中はさっさと他に移るんで、アイツらみたいなのは珍しかったからそこまで高位の連中が残らない構造になってるんだよ」
「そう言う事だ。
だから、元々は鉱山に使える程に簡単なダンジョンとは言え、今中がどうなってるか分からん様な場所に送ろうと思うと、実力に不安が残る連中しかいないのさ。
比較的マシ、って奴らも完全に『当事者』だから使え無いしな。
そんな訳で、そちらに依頼を出したい、と言った次第だ。正直何時までも閉鎖してるのは不味いんでな、早めにどうにかしてしまいたいんだ。
協力を願いたい」
「因みに、ソレを私達が受諾する事のメリットはどれ程有ると?
この都市は、正直空気が良くは無いのであまり長く滞在するつもりは無いのですけど?」
「当然、報酬は払う。
原因が何であれ、事態がどうなっていたとしても、解決さえして貰えれば、な。
それと、原因について解明し、突き止めて貰えたのであれば、その難易度によって追加で報酬も出そう。
それと、冒険者ギルドの方で、そちらのリーダーに対する噂の火消しと、実態についての情報を広く流す事に尽力させて貰おう。
これで、満足して貰えるかね?」
「…………良いのではないか?
当方としては、さっさと終わらせてリーダーの噂も払拭させ、大手を振って華麗に通過して見せる、との流れが一番噂を信じて居た者達に対してダメージやショックが出る流れだと思うのであるが、如何かな?」
そうしてガリアンによって提案された案に対して、セレンだけでなくアレスからも反対意見が出る事は無く、ソレが『追放者達』の総意である、との決定が下される。
それと同時に、マレンコから発せられた依頼を受ける事も彼らの中では確定した為に、依頼の報酬やどの様な段階にて追加報酬が発生するのか、等の細かな条件を擦り合わせる事となるのであった……。