『追放者達』、襲撃される
ヒギンズがカリュウーグ長老から『聖槍ミストルティン』を受け取ってから、数日が経過した。
その間、変わらずにアレス達は里の住民達からの『お願い』を聞いて奔走する事となっていたが、その合間合間に手にした『聖槍』の具合を確かめ、手に馴染ませ、またその性能を共有する為に、仲間内での手合わせを頻発して行った。
それにより、『聖槍』の基本性能は周知され、後は魔族に対する特効効果が有るのかどうか、を確かめるのみとなっていた。
…………いたのだが、アレス達からは不満が続出する事となっていた。
「…………なぁ、流石にソレズルすぎん?
ほぼほぼ反則みたいなモノじゃねぇかよ。
なんで穂先から魔法みたいなナニカが飛び出して来る訳?」
「何故に、攻撃の一瞬だけ柄が伸びて間合いが広くなる上に、防御までご丁寧にすり抜けて来てくれるのであるか?
しかも、毎回毎回、と言う訳でも無く、任意で起こすかどうかを決められるとか、巫山戯ているのであるか?」
「カリュウーグ様の持ち物や、これまで使用されていた槍に関しても相当な業物であり、素材有りき、とは言えども人の手で作り上げられるモノである、とは私も理解しておりましたよ?
ですが、その領域を超えたモノを振るわれますと、流石に……」
「ねぇ〜?
アタシらが走ってる所で馬車やら橇やら使われてる様なモノなんだし、何ていうか?やり合う以上は合わせなきゃダメなハズの戦闘用の規格が違う、合ってない、みたいな感じ?
ほぼほぼ反則、っていうか反則そのものじゃないの?ソレ」
「なのです!
ボクの所感では、そもそもがソレを持つ人とそうでない人を比べる事が間違っている、と思うのです!
普通は、その辺で木の棒を振り回している子供達と、道場に通う大人とで剣術の競い合いをさせる様な事はしないのです。
それとほぼ同じ程度の理不尽を相手に強いていると、一応は理解しているのです?」
半ば詰られる形にて、それらの言葉を浴びせ掛けられるヒギンズ。
彼の出身地であるこの里に伝わっているらしい、誠意を示す姿勢の一つである『正座』をして脚に掛かる負担からプルプルと震えているその姿は、シオシオとした表情も相まって哀れみを誘うモノと化していた。
とは言え、そこはヒギンズとしても言い分があったが為に、一通り萎れさせられてから、彼の反論が始まる。
曰く、それらの機能が付いていたが為に、それまでは基本的に使わない様にしていたし、取りに来る暇が無かった、との理由もあったが、今回の様に魔族に絡まれる案件が増えて来たが為に取りに来たが、ソレが無かったらやっぱり暫くはそのまま預けておくつもりであった、と。
ヒギンズ本人としても、この『聖槍』の性能が反則級のモノである、との自覚はあった様子。
故に、かつて『栄光の頂き』にて活動している間も、普段は普通の槍として振るい、いざと言う時のみその能力を開放する、といった使い方をしており、その時よりも地力の上がった今に至っては、そもそも『聖槍』自体を使うつもりは元々無かった、との事だ。
…………元より、伝説にて謳われる『聖槍』は、あり得ない様なモノとして語られていた。
初代『聖槍の担い手』にして勇者の仲間であった者は、元々力自慢であったが武術の類いはからっきしであり、スキルすらも持ち合わせてはいなかったのだが、『聖槍』を手にした途端に強大な魔物をバッタバッタと薙ぎ倒し、魔族すらも蹴散らし、魔王の喉元へとその穂先を届かせる、と言う程のサクセスストーリーを紡ぎ上げて見せていたのだ。
それだけの性能が本当に備わっている…………のかは些か疑問が残るが、しかしそう謳われるだけの事は有る、と納得させられるだけの性能はあったのだ。
そして、それだけの得物を既に達人と読んで差し支えないヒギンズが振るえばどうなるのか?はアレス達の反応を見て貰えれば、わざわざ説明しなくとも理解に不足は無いだろう。
尤も、それだけの得物を持ち出す必要に駆られて現在に至っている、とも言えるのだから、仕方ないだろう。
何せ、アレス達としても、向こうが襲ってくるが故に迎撃し、死にたくは無い故に奮闘しているに過ぎないのだから、向こうから来ないに越した事は無いのだし、それでも襲われるのだから対抗手段を持たないとならない、と言う訳なのだから。
そんな訳で、アレス達の中で一つの取り決めが為される事となった。
内容はズバリ、『聖槍』の使用制限について、の事である。
先に述べた様に、ヒギンズが振るえば凄まじいまでの性能を発揮する『聖槍』。
その外見は多少草臥れた変哲も無いただの槍、と言うだけのモノである為に、普段使いしても恐らくは周囲にバレる、と言う事にはならないだろう、と思われる。
…………思われるが、問題となるのはその破壊力。
本人の意志と技術である程度コントロールが利くらしいのだが、得物自体の外見が外見であるが故に、槍そのモノが特別なナニカなのではないか!?と思われ所有権の交渉を持ち掛けられる、ならばまだ良い方だ、と彼らは懸念しているのだ。
ぶっちゃけた話をすれば、無理矢理強奪を企まれたり、魔族との戦闘を強要されるか、もしくはソレを義務とされる様な立ち位置に無理矢理押し込まれるかのいずれか、を最悪の事態として見ている。
一つ目であれば逆襲し、根本まで滅ぼしてやるのは確定しているし、そもそもの話としてそれは襲われた側に認められている当然の権利であるが為にあまり心配はしていないのだが、問題は残る二つの想定。
それらをアレス達へと『強要』出来る、となると、対象はかなり絞られる事となる。
何せ、仮にも貴族と同じ扱いをされる『Sランク冒険者』に対してそう出来る、と言う事は、それだけの権力を有している者である、と言う事なのだから。
もしそうなれば、アレス達では対応に苦慮する事となるだろう。
勿論、彼らも各地に知人がおり、中には有力者も居る事からそれらのパイプを使えばある程度は対抗する事も出来るかも知れないが、それはあくまでも彼らの協力者が力を持っていると言う事に過ぎない。
故に、一度ならばどうにでも出来るであろうが、それが二度三度と続けば、流石に対処の仕様が無くなる。
彼らの知り合いとて、アレス達に対して友情や恩義や借りが在る為に手を貸してくれる事はあるだろうが、それらとて無限では無く、期限か上限が在るのだから、頼り切りになる様な盤面は避けるに越した事は無いだろう。
物理的に叩き潰せる相手であればまだしも、そういった事で相手を操る事を当然と考えている様な手合いに対して、彼らの取れる選択肢は驚く程に多くは無い。
故に、普段は何時もの通りの得物を使い、いざという時にのみ使用し、目撃者の口は出来るだけ封じる、と言う事で結論が出ており、それには実際に使用する事となるヒギンズも同意しており、そちらの条件は特に諍いや争いも無くすんなりと決まる事となった。
………………が、そうして取り決めがなされてから僅かな時間が経過した頃。
アレス達がその日の作業を終えて集合し、急速を取っていた部屋の外に面していた壁が、突如として爆発する事となった。
…………いや、その壁の向こう側から放たれていた魔力の波長をアレス達が見逃すハズも無く、またそうして下手人が居る以上、その現象は少なくとも『爆発』といった自然の生み出す何かしらでは無く、『破壊』と呼ぶべき人為的に発生させられた事柄である、と判断が出来たと言えるだろう。
当然、察知できていたが故に、全員が無傷で破壊された壁の方へと向き直る。
そうして、注目を集める事となった下手人は、毛むくじゃらな顔を歪めると、口を開いて言葉を言い放って行く事となるのであった……。
「漸く見付けたぞ」