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『追放者達』、相談する

 


 只人族ヒューマンが主導して治めている国家の中では、最大規模の国土を誇るカンタレラ王国。



 その首都であるアルカンターラは、数ヶ月前に魔族による直接的な襲撃を受けていたにも関わらず、施設や人員に被害が出るよりも前に『とある冒険者パーティー』によってそれらが撃退された事により、昨今頻発している魔族とそれに率いられた魔物による被害が増加している国家や組織からは、ある種の羨望の混じった視線や意識を向けられている都市でもある。



 そんなアルカンターラも世間と平等に季節は移ろい、白い雪と共に冬が訪れていた。



 大陸の中でもやや北よりに位置しているカンタレラ王国では、比較的良く雪が降る。


 国土の中央付近に在るアルカンターラも、他と比べるとそこまででは無いとは言え、やはり降る時は降るし、積もる時は積もる状態となってしまう事になる。



 街並みは軒並み白く染まり、道にも馬車での往来を躊躇う程度には雪が積もって人の行き来も少なくなり、寒さを遣り過ごす為に家族や友人達と家に籠って過ごす事が慣習となっているアルカンターラの一角。


 かつてはとある貴族家の所有していた建物であり、半年程前には突如として認定された『超小型のダンジョン』として一部の冒険者達の間で話題となっていたソコの『住人達』も、他の一般家庭と状況を同じくして外には出ずに一部屋へと集まっていた。




「…………いや~、しかし大分降るなぁ。

 これは、また積もるんじゃないのか?」



「……うむ、そうであるな。

 この調子であれば、明日か明後日位には屋根の雪を下ろしてしまった方が良いかも知れぬ」



「食料や嗜好品の類いは買い込んであるからあんまり出る予定は無いけど、それでも玄関が埋まったりされると厄介だからねぇ。

 流石にこの物件が重みで潰れる、なんて事は無いだろうけど、やっぱり玄関ごと魔法で吹き飛ばす、なんて事態は避けたいから、様子を見ながら後でやっておくとしようかなぁ……?」




 しんしんと積もる雪を窓から眺めながら、アレス、ガリアン、ヒギンズの男性陣三名が夢の欠片も無い様な現実的極まりない事を口にする。


 それに対し、半ば呆れた様な視線を向けながら、同じく一室に集合している女性陣三名も、呼応する形で口を開く。




「……全く、野郎共と来たら風情もへったくれも無いじゃないの。

 もう少し、夢ってモノを理解するつもりが無いのかしらねぇ?」



「ですが、やはり現実的に問題は常に付きまといますよ?

 とは言え、目の前の光景に欠片も幻想を抱く事無く、即断にて危険性のみを判断なされるのは如何なモノかと思わない訳でも無いのですが」



「なのです!

 ……でも、あの子達みたいに、全力でこの季節と雪とを楽しまれると、それはそれで微妙な空気になりそうなのですけど、ねぇ……」




 とは言え、住人の全てがそうやって籠っている訳では実は無い。


 ナタリアの言葉に従って視線を窓に向けた女性陣の視界には、八匹の緑を基調とした迷彩模様をした森林狼達や、周囲からは浮かんで見える程に目立っている黒い体毛で身体を覆っている月紋熊と言った『住人達』が、白く染まった庭を元気に駆け回って無邪気かつ全力にて雪と戯れている。



 …………遠目に見ても、その大きさが目の錯覚かな?と二度見する事を強要される程の巨体であったりだとか、ふざけて取っ組み合いになっただけで近くの木々の梢から、溜まった雪がドサドサと落ちる程に地面に衝撃が走ったりもしている様子だが、ソコは彼らのテンションが上がってしまっているがため、だと言う事にしておこう。


 彼らとて、時には開放的な気分になり、普段からしている窮屈な思いから解き放たれたい、と望む事も多いのだろうから。



 そんな彼らの姿にホッコリしたり、近所迷惑にならないかな?と少々心配したりしながら暫く眺めていた女性陣であったが、その後に視線を自分達のリーダーたるアレスへと戻すと、それと呼応する形で雰囲気を変えたガリアンとヒギンズと共にこの場に集まる様に声を掛けて来た張本人であるアレスへと言葉を向ける。




「……それで?当方らをこうして呼び集めたのは、一体どの様な用向きなのであるか?」



「私はアレス様と共に部屋に居りましたからともかくとしましても、他の皆様はそれぞれの部屋にて別れて居られましたのですから、ソレを理由も無しに集合させるのは些か横暴かと……」



「そうそう。

 アタシ達だって、雪で外に出れないとは言っても、それぞれでやりたいことだって在ったんだから、こうして集めたんだったらさっさと事を済ませて欲しいんだけど?」



「もしくは、手早く理由の説明位はして欲しいよねぇ。

 別段、物資が尽きそうだから、その節約の為に、とか言う事じゃ無いんでしょう?」



「なのです。

 そこら辺は、ボクが降り出す前に充分確保しておいたから、まだまだ問題は無いハズなのです!

 暖炉にくべる薪も、日常的な消耗品も、こんな冬の始まりみたいなタイミングで尽きるハズは無いのですよ?

 もちろん、食料も生鮮・保存問わずにタップリと残ってるハズなのです」



「……と、言う訳であるからに、ソレ以外の用向きにて当方らを呼んだのであろう?

 なら、早い処口にするのである。

 当方らとて、時間は在っても暇では無いのであるぞ?……主に、それぞれの相方に狙われて、と言う事では在るが……いや、何でも無い。何でも無いのであるぞ?であるからして、その手にした縄を下ろそうか?な?な??」




 最後の最後で失言し、何やら据わった目にてアイテムボックスから取り出したらしい、妙に使い込まれた雰囲気の在る縄を手にしたナタリアにジリジリと間合いを詰められ、毛皮を纏っていても分かる程に冷や汗を流しながら後退るガリアンと、彼の半分ほどしか無い身長ながらも圧倒的な威圧感を醸し出しながら彼へと迫るナタリアの姿を横目に見ながら、他の面々も意見に同意する様に頷いて見せる。



 呼んだ以上は用事があって然るべき。


 ならば、早くその用事を済ませる事こそが最重要な事であり、最優先して済ませるべき事なのではないのか?



 そんな指摘を受けたアレスは、それまで竈を兼ねた暖炉に掛けられていた夕食でもある鍋をかき混ぜていた手を止め、お玉を握り前掛けを着けた状態のままで背後に在る彼らの方へと向き直り、促されるままに真顔にてこう口にするのであった。




「……うん、まぁ、確かにその通りなんだけど、取り敢えず一つ良いかな?

 ……なぁ、俺達って、これから何をしたら良いと思う?」




「「「「「………………はい……?」」」」」




 その真剣な表情とは裏腹な酷くふざけている様にも聞こえる言葉に対し、気勢を挫かれてしまう形となった面々は気の抜けた言葉を返事の代わりに漏らす事となってしまうのであった……。




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[気になる点] 序盤から燃え尽き症候群?とツッコミ入れる自分がいる。
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