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『追放者達』、組手?に巻き込まれる

 


 死んでも恨み言なんぞ零してくれるなよ。


 その言葉と共に、長老の手に一振りの槍が握られる。



 造りとしては、割りと変哲も無い、突く事も斬る事も出来るタイプの槍。


 …………しかし、ソレを創る際に使った素材の影響なのか、全体的に黒く澱んだオーラの様なモノを纏っている様にもアレス達には見えてしまっており、あからさまに『ヤベェやつ』だと理解させられるモノとなっていた。




「……………………お、おいおい。

 じい様よ?

 いきなり『参號』は、ちょいとやり過ぎなんじゃないかなぁ、と思うんだけど、どうかなぁ?

 せめて、『七號』位から始めないかぃ?」



「なんぞぉ?

 お主だけでなら『七號』辺りから始めるのも悪くは無い、とは思うがのぅ。

 お主の仲間の連中もちと試してやろうか、としておるのじゃから、ここから始めるのが当然であろう?

 お主らも、仲間が欠けるのが嫌であるのなら、精々抗って見せる事だのぅ!」




 アレス達では理解出来無い、確実に身内のみで通じる単語を交えた会話。


 しかし、その内容はあまりヒギンズにとっては都合の良いモノでは無かったらしく、彼のこめかみからは冷や汗が伝っているし、長老は長老で禍々しい雰囲気を纏った槍を低く構え、その穂先をアレス達の方へと向けて来ていた。



 唐突過ぎる展開に、流石のアレス達も理解が追い付かず、半ば呆然とする事となる。


 が、会話の流れや発せられている雰囲気等から、このまま棒立ちしていては、まず間違いなく殺されるか、もしくはそれに準ずる扱いを受ける事になる、と半ば本能的に察する事は出来ていたので、戸惑いは残りながらも各自で得物を構え、戦闘態勢へと移行して行く事となった。




「…………あぁ、もうっ!

 こうなるだろう、とは思っていたけど、だからって本当にこうするとは思って無かったんだけどなぁ!?

 取り敢えず、じい様の得物の銘になってるのは『強さの順』だ!

 だから、あの『参號』銘だけで言えばじい様の手持ちで三番目に強力な得物、って事になるけど、厄介さで言えば『壱號』を上回っているから、気を付けて!

 まともに攻撃を受けると、()()()()()()()()()から!」




 ソレを目の当たりにしたからか、何処か諦めた風にヒギンズが言葉を放つ。


 自らも得物を構えながらのそのセリフは、何処か必死になって叫んでいる様ですらあり、普段の飄々とした態度は何処かに行ってしまっているのが容易に見て取れていた。



 故に、先の発言の内容を問い質すよりも先に、得物の切っ先を老人へと向けて行く。


 特に、呪い云々については本当に詳しく聞きたいし、聞かないと不味い事になるだろう、とは一行が揃って抱いた思いであったが、それよりも先に構えて見せないと本当に殺される事になる、と本能的に悟ったが故の行動であった。



 そんな彼らの様子を目の当たりにしたであろう長老は、満足気に一つ頷いて見せる。


 まるで、孫が初めて友人を連れて来た、とでも言いたげなその動作とは裏腹に、一切殺意や敵意を覗かせないままに、こちらへと向けて『そのままでは殺すことになるぞ?』と明確に伝えて来る、と言う、何とも奇妙で達者な真似をして見せていたのだが、特に前兆らしき前兆すら見せる事無く、その場から大きく踏み出すと同時に手にしていた『参號』と呼ばれる槍をヒギンズ目掛けて突き出して来る。



 が、流石に今回は前回の投擲とは異なり、ガリアンの割り込みが成功する。


 精神的な備えが出来ていたからか、それとも既に戦う事が前提となっていたからかは不明だが、兎に角防御する事に成功したが、しかしその直後、受け止めた攻撃を弾くでも、また受け止めきれずに吹き飛ばされる、でも無く、ガリアンの方からその場から飛び退る動作を見せる事となる。




「…………成る程、呪いを貰う、とはこの事であるか……」




 直前まで盾を構えていた腕を掲げて見せるガリアン。


 そこには、盾、と言う絶対的な防壁にて防いだ上に、確りと防具まで付けていたにも関わらず、貫通したかの様に負傷した右腕がそこにはあった。



 しかも、そこから滴るのは真っ当な血液、と言う訳では無く、何故か黒く濁った血液と見られる液体。


 相当の痛みを齎すモノであるのか、獣の顔を持つがそれなりに表情が変化するガリアンの顔が強張り、痛みを堪えているのを窺う事が出来ていた。



 慌ててセレンが回復魔法を掛けて行く。


 当然、その間も強襲をかましてくれた老人からは視線を外さず、盾も防具も破壊せずに肉体に直接ダメージを入れてきた攻撃を警戒し続ける。



 それと同時に、アレスはリーダーとしてこのままでは不味い、と判断を下す。


 現状、狭い建物の中に居るが故に、相手方も得物を大きく振るう事が出来無い状況となってはいるが、同様に彼らも大きく展開する事も、従魔達を参戦させる事も出来無い状態となっている為に、メリットよりもデメリットの方が大きい、と判断をした為に、一旦建物の外へと逃れる事に決定する。



 とは言え、ソレを相手方が何もせずに見送ってくれるか、と言うのはまた別のお話。


 元より、この建物から逃さん!とか決められていたのであれば確実に猛追撃が入るだろうし、何かしらの妨害がなされる事を前提として考える以上、やはり殿の類いは必要だろう、と仲間達へと退避を命じながら、アレス自らは得物を抜き放って長老へと目掛けて飛び出して行く。



 当然の様に、それに反応して見せる長老。


 槍の間合いギリギリの場所から投擲した短剣は複雑ながらも流麗であり、目で追えさえすれば間違いなく芸術として見る事も出来たであろう槍さばきにて全て叩き落される事となったが、その隙にヒギンズを含めた全員が玄関から脱出する事に成功する。



 そこで仕切り直し、と行きたいのがアレスの偽り無き本音であったが、流石にそうはさせてくれないだろう、と短い付き合い(?)ながらも否応なしに理解してしまっていたが為に、迎撃の為に突き出された穂先を紙一重で回避しながら、躊躇い無く長老へと目掛けて刃を振り下ろす。


 迷わずに命を取りに来たその心胆を称賛してか、それとも自らへと向かって迫りくる刃の煌めきに感じ入るものがあったからかは不明だが、白眉に隠れた長老の目が僅かながらも見開かれる動きを見せる。



 が、しかし、あいも変わらず老人とは思えない程に力強く、それでいて長く永い修練の果てを思わせる槍使いにて突き出していた穂先を戻し、アレスの放った刃を受け止めてしまう。


 種族の特性上、老化による身体能力の低下が発生せず、寧ろ向上して行く傾向が強いが故に、闘争に身を浸しつつもその道中にて刃に倒れず、技術を磨き続けてきた様な手合であれば、常に全盛期にて最高の一撃を放てる達人の出来上がり、と言うモノを彼は今身を以て味わう事となっていた。



 本来ならば、広く大きなハズの槍の間合い。


 その懐も懐、最早長剣ですら満足に振るうのは難しく、短剣や拳が主に活躍する事となる距離であり、飛び込む事こそ難しいものの、ヒギンズとの手合わせに於いてはそこに飛び込む事さえ出来れば八割方は『勝ち』を取れる、といった間合いにて立ち回っているが、アレスの刃は未だに一度も長老の身体へと届いてはいなかった。



 寧ろ、その距離にありながらも、逆にアレスへと攻撃を仕掛けて趨勢を傾け、自らの優位な状態へと移そうとすらしてきていた。


 既にガリアンとの激突により、防御するのは不味い、と学習していたアレスはどうにか回避する事に成功していたが、達人の振るう絶技を前にして彼は、コレは本当に不味い事になってきた、か?と内心で自問自答する事となるのであった……。




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