『追放者達』、槍使いに詰め寄る
ずっと温めていたネタ漸く解禁
「もしかして、預けておいた『聖槍』を取りに行った方が良いかなぁ?」
そう、何気無く零された呟きに、場の空気が静まり返る。
唐突過ぎる程に唐突に、かつ重大な雰囲気がする単語に反応した仲間達の状態が理解出来ていないのか、一人キョトンとした表情で他の皆を見回すヒギンズ。
しかし、状況はそんな彼を置き去りにする様に進んでおり、かつ事が事だけに迅速に運ばれていた。
具体的に言えば、ガリアンが然りげ無い素振りにて唯一の出入り口へと回り込み、セレンが万が一に備えて窓辺へと移動し、恋人としてお茶のお代わりを注ぐついでを装ってタチアナが隣へと腰掛け、その反対側にナタリアも入って挟み込んでしまう。
一斉に動き出した仲間達に、怪訝そうな表情を浮かべるヒギンズ。
しかし、笑顔のままでありながらも、何処か凄みの様なモノを漂わせながらアレスが真正面から寄って来た事に自らの失態を悟ったのか、今更ながらに慌て始め、必死に自らの言動を振り返っている素振りを見せていた。
が、それも僅かな時間のみの事。
彼としては、自らが何かしらの失言でもしたのか?と疑って記憶を探ってみたのだろうが、直近のセリフの中でセクハラに相当する様な事も、誰かの逆鱗に触れるであろう様なモノも含まれてはいなかったが為に、本当に心当たりが無く困惑するしか無くなってしまう。
そんなヒギンズへと詰め寄る形で距離を縮めたアレスは、彼の肩を掴んで顔を寄せ、視線を逸らす事を許さない、と言わんばかりの空気を醸し出して行く。
自らを真っ直ぐに貫く真剣な視線に、思わず思考の片隅にて『リーダーって『そっちの気』があったっけ?』と少々腐ったネタに走りそうになったヒギンズは己を叱咤して気を取り直すと、促す様に視線を返して行く。
「………………なぁ、ヒギンズさんよ?
あんた、さっきの言葉は一体どういう意味だ?
『聖槍』だなんだ、って聞こえたのは、俺の空耳の類いだった訳か?」
「…………は?え?せ、聖槍?
何のこと、って今更聞くつもりは無いけど、もしかしてさっきのヤツ、口から出てたりする感じかなぁ?」
「……………成る程?
つまり、元々聞かせるつもりは無かった、と?」
「…………あ〜、っと、その…………黙秘する、って選択肢はあったりするかぃ?」
「寧ろ聞くが、有ると思うか?」
「ですよねぇ〜!
……………………まぁ、コレはあんまり黙ってても意味の無い事だから言っちゃうけど、確かに『聖槍』って言っただろうし、オジサンが昔持っていたのも事実だよぉ」
「…………いやに、アッサリと認めたであるな?
そも、その『聖槍』とは、あの『聖槍』で良いのてあるか?」
「ガリアン君が言っているのがどの『聖槍』の事かは知らないけど、取り敢えず『昔々に在ったお話〜』で語られるヤツなら、その通りだねぇ」
その言葉に、俄に室内がざわつき始める。
ヒギンズの放った言葉の通りであれば、彼はかつて、『勇者』が『魔王』を討ち取った際に同行した者が振るい、かつ多くの『敵』を葬り去った、との伝説が今なお語り継がれて残る幻の武具である『聖槍』を所持していた、と言い切って見せたのだ。
それに対してガリアンは、驚きから目を見開くが、次の瞬間には平時のソレと変わらぬ態度に戻っていた。
何故か、と問われれば答えは一つ、ヒギンズの態度があまりにも平素のソレと変わりが無かったから、だ。
「…………教えるつもりが無かったと言う割りに、案外と平静を保ったままなのであるな?
おまけに、やけにアッサリと認めた事も、引っ掛るといえば引っ掛るのである。
…………ヒギンズ殿、貴殿は一体、何を隠しているのであるか?」
「隠している、つもりはオジサン的には無いんだけどねぇ。
まぁ、確かに隠していた事の一つや二つは確実に在るし、『聖槍』云々に関してもその一つだけど、コレに関しちゃもう言っちゃってるしねぇ。
隠しても意味無いし、何なら取りに行くのを手伝って貰おうかなぁ、とね?」
「…………取りに行く、ねぇ?
その言葉の言い回し的に、何処かに隠してあるか、もしくは預けてある、って感じに聞こえたけど、ソレってそんなに気軽に取りに行ける様な場所に置いてあるモノな訳?
それに、本当にソレ、使えるの?」
訝しむタチアナの言葉は、この場にいた全員の意思を代表するモノであった。
何せ、昔話に語られる『勇者』が使っていたとされる『聖剣』に並ぶ『聖槍』は、ソレを振るう者に対して相応の力を求める武具であり、詳細こそ明らかに伝えられてはいないが、求められる基準を満たせない者では振るう事すらも出来無いだろう、とは同時に伝えられているモノでもあった。
故に投げ掛けられた問いであったが、ソレを当然の事、としてヒギンズは頷いて見せる。
「あぁ、それに関しては両方問題無いよぉ。
預けてあるのは、この里の長老のじい様の所だし、オジサンはちゃんと『有資格者』ってヤツだからぁ。
何せ、オジサンの職業って、これまで黙っていたけど『槍使い』じゃなくて『聖槍の担い手』だからねぇ〜」
「………………あぁ!
だから、初めて顔を合わせた際に『一応は『槍使い』って事で大丈夫』と仰られていた訳ですね!
ですが、そうであるのなら、なおさら今になって『聖槍』を担ぎ出そうとなされるのです?
これまでも、それこそ私達のパーティーに加入された時にでも、持ち出す事は可能だったのではないでしょうか?」
「そっちに関しては情けない限りなんだけど、オジサン一回呪いで諸々下げられちゃってたでしょう?
で、その時一時的に『聖槍』も使えなくなっちゃってたし、だったら一層のこと預けてでも手元から離しちゃおうか、って思っちゃってねぇ。
それで預けたは良いものの、心当たりを当たっては外し、当たっては外し、を繰り返している間にすっかりその事忘れちゃってたし、その間の繋ぎに、ってつもりで使ってたこの槍も大分手に馴染んで来ていたから、わざわざ取りに行くのもなぁ、とか思ってたら解呪からの依頼見て打診、の流れだったから、正確に言うと『取りに行かなかった』と言うよりも『取りに行けなかった』『取りに行く暇が無かった』が正しいかなぁ?」
「…………で、ですが、それならそうと、かなり大胆な決断をしたのです?
だって、あの『聖槍』なのですよ?
詳しい効果は伝説では殆ど語られていないとは言え、もし本物が出た、と知られれば一体幾らの値が付いたのかすらも解らない様な逸品なのです!
それを、語り口からして顔見知りではあったのだろうとは思うのですが、よく他人に預ける事を良しとしたのです?」
「ん?あぁ、それに関しては大丈夫だよ。
だって」
あっはっは!と笑い飛ばしながらあっけらかんと語って見せたヒギンズに対して、口を端を引き攣らせながらナタリアが指摘を飛ばす。
が、それに対してヒギンズは、更なる爆弾発言によりこの場に追加で衝撃を与える事となるのであった……。
「だって、この里の人なら、ここに『聖槍』がある、ってのは誰でも知ってる事だからねぇ。
何せ、『勇者』と共に旅をして『聖槍』を振るっていたのは龍人族だし、その『聖槍の担い手』が造ったのがこの里だし、ついでに言えばオジサンが預けた長老は『先代の担い手』当人だから、持ち逃げなんてされる心配は無いから、その辺は大丈夫さぁ〜」
なお、かつてのパーティーメンバー達は、ヒギンズが『聖槍』を振るう姿は見ていましたが、ソレが『聖槍』だとは知らなかった様子(理由は後程)