『追放者達』、擦り合わせる
獣の様な、人の様な、変な魔物が現れる。
ソレを子供達から耳にしたアレスは、何じゃそりゃ?と思うと同時に興味を引かれ、彼らに詳しく話を聞いてみる事にした。
その結果子供達曰く
・ソレは、全身が毛で覆われているが獣では無い。
・二足歩行をしているが、獣人族、と言う訳でも無い。
・衣服を身に着けていなかった為に、恐らく人間種族でも無い。
・腕が四本生えていて、近隣で一番危険な魔物を倒していた。
・ソレを遠目に見ていた人がいるが、その人は直感的に『気付かれた』と思って逃げ出した。
との情報が彼の元へと寄せられる事となった。
…………正直、何だそりゃ?と言うのが彼の感想であった。
話を聞く限りだと、獣人族に限り無く近いがそうではない、四本腕のかなり強い魔物、と言う感じであるが、正直それだと獣人族の中のフルフェイス型で変異種的な立ち位置に居る個人、と言う様にも思える。
そうであれば、全裸であった、と言う点にだけ、個人の性癖かそういう宗教に嵌まっているだけ、と説明を付けて目を瞑れば理論としては完璧だが、そう言った存在が本当に産まれうるのかをアレスは把握していない為に、自信を持って口にする事が出来ずにいた。
条件だけを見れば、魔族、との線も濃いといえば濃いが、そうであればこんな場所で見掛ける理由が思い付かない。
何せ、今現在アレス達が居るこの龍人族の里は、割りと人類の文化圏の端っこに位置している。
聖国がほぼど真ん中に近い場所に在り、カンタレラ王国や仙華国が比較的中央から少し端に寄った辺りに近い分布をしていて、その反対側の端っこにかなり寄っている位置、といえば大雑把な位置関係は把握して貰える事になるかと思われる。
そんな、人類の文化圏的に見て、かなりの辺境に近い場所に、魔族が来る理由とは如何なるモノか?
ほぼ中央に近い場所に対しても、何かしらの条件付きであろうとは言え、直接的な奇襲を仕掛けられる『何かしら』が在る彼らが、言ってしまえば『そんな場所』をわざわざ選んでうろつく理由なんて、本当に在るのだろうか?
…………心当たりが有るとすれば、僅かに一つ。
アレス達そのものの存在がその理由と成りうると言えば成りうるが、それも『強いて言えば』程度のモノであり、ぶっちゃけてしまえば彼らがここに居る、とバレていなければそもそもそれは起こり得ない。
であるのならば、なおの事何故?と思考がループする事となる。
恐らくは、何かしらの理由が在るのだろうが……と空転する思考でそこまで考えたアレスであったが、今は自分一人で居る訳では無い、と言う事を思い出す。
自らが口にした情報により、相手方が何やら考え込んでしまった。
その事実により、何か不味い事でも言ってしまっただろうか?と表情を暗くしながらオロオロしていた子供達を宥め、何でも無い、とアピールしたアレスは、取り敢えずは後で良いか、と思考を半ば放棄すると、忠告に従って里の外部では無く、また別の空き地を目指して移動を開始する事となるのであった……。
******
「────って感じの話を聞いたんだけど、皆の方では何かしら聞き及んでないか?」
そう問い掛けるアレスの声に、仲間達はそれぞれの反応を示す。
日中の作業が終わり、仮宿としているマレンコ宅へと集まる事となっていた仲間達へとアレスが何気無い雑談に混ぜて放ったその言葉であったが、それに対する反応は中々に劇的なモノとなっていた。
「…………うむ、当方も、ソレと似た様な話であれば耳にしたのである。
なんでも、この里よりも更に北、最早集落の類いも無い様な方角にて、その様な姿を見た、との話しである」
「私が聞いた話しでは、実際に遭遇した方がいらっしゃる、とか。
何でも、その時に御本人は死を覚悟されたそうですが、何もされずに帰って来れたそうです」
「あっ!アタシもそれは聞いたかも!
でも、アタシが聞いた話しだと、その直後?それと同時?に『違う』だとか『これではない』だとかの声が聞こえた、って流れだったと思うけど、それは別のヤツだったかな?」
「何なのです、それ?
まるで、怪談か何かみたいな流れなのですが、ボクが聞いたのとは別物なのですかね?
ボクは、何故か最近、起き出して来ていたハズの魔物が、この辺りで見掛けなくなってきた、って話なのです。
食肉になる種類すら、見掛けなくなったとかなんだとか?」
「…………え、えぇ〜?
何それ、オジサン知らないんだけど?
少なくとも、オジサンが住んでいた時は、そんな冬眠明けの熊、みたいな感じで出現・目撃される魔物、って感じのは聞いてなかったし、オジサンとしても見た覚えは無いヤツだねぇ」
「ふぅん?
じゃあ、割りと真面目に異変や怪異の類い、って事か?
これがただの魔物でした、って事なら、俺達に『お願い』が来て、って形になるだろうけど、その正体もよく分かって無いからなぁ。
形状とかから、誰か心当たりの在るヤツ居るか?」
その言葉には、その場の誰しもが首を振った。
二足歩行する個体、一見獣人族にも見える種類、腕が四本在るモノ、といった具合では心当たりも幾種類かありはしたが、それでもそれら全て、となると途端にそれぞれの範疇から脱し、とても心当たりとは言えない様な状態となってしまっていたのだ。
そうなってしまうと、恐らくは、と付く事になるが、真実は二つに一つ、『彼らが見た事も無い新種の魔物』かもしくは『何らかの目的を持って行動している魔族』と言えるだろう。
が、それはそれで、疑問が残ってスッキリ解決!とは行かないモノとなる。
何せ、前者に関しては自然に発生したモノであれば相当に手強い存在となるのは間違い無いし、そうでなく人工的、人の手が入った存在であった場合、目も当てられない状況になるのは分かり切っている。
少なくとも、人工的に姿や力を変えられた魔物、に関しては、アレス達は少なくない心当たりが在るし、その厄介さも重々承知しているのだから。
そして後者に関しては、前述した通りに何故ここに居るのか?との謎が出て来る事になる。
何も無いこの里に、ほぼ奇襲に近い形にて主要国の首都にまで出現する事を可能としている魔族が、何故?と。
何かしらを探している様な言葉を口にしていた、との噂も聞き及んでいるが、そこはやはり噂は噂。
確たる証拠は未だ無いし、それらを調査する様な依頼もされてはいない身の上であれば、流石に勝手にそこらを漁る事も出来無いのだから、調べ様すらほぼほぼ無いのが現状、とも言えてしまうのだ。
とは言え、そこで『じゃあ気の所為だろうから特に警戒しなくて大丈夫だなヨシッ!解散』とならないのが悲しき現状を示している。
そこで無防備になってしまっては、どちらにせよ本当であった場合に少なくない被害が出てしまう事になるし、やはり警戒と何らかの手立てを用意しておく必要が在るだろう。
尤も、アレス達は今、ただの食客に過ぎない。
何処かに対して振るえる様な強権を持っている訳でも、融通が聞く伝手が在る訳でも無いただの一個人に過ぎない以上、大規模な策を巡らせられるハズも無く、自らの頭のみでアレコレと捏ねくり回す他に無いのだ。
そんな最中、ヒギンズがポツリと言葉を口にする。
本当に何気無く、それこそ本人にとっては木の葉は緑で空は青い、と言ったのと変わらない、あくまでも常識を口にしただけであったのだろうが、ソレを耳にした者達としては、信じられない様な衝撃を孕んだモノとなっていたのであった……。
「………………う〜ん、やっぱり魔族だった場合、がかなり厄介だよねぇ。
これまでみたいに、結構頻繁に襲われるかも知れない、って事を考えると、やっぱり預けておいた聖槍を取りに行った方が良いかも知れないかなぁ……?」