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『追放者達』、奔走する

 


 龍人族の里の長たるマレンコから、滞在の許可を得たアレス達『追放者達』。


 その際に提示された条件として、色々な仕事をお願いする事になる、と告げられていた。



 要するに、滞在するなら使いっ走りにするけどOK?と言う事である。


 最上位の冒険者にして、魔族すらも撃退して見せるだけの実力を持つ彼らに対し、阿るどころか使い倒すからよろしく!と宣言してみせたマレンコの精神力は並の貴族を遥かに凌駕するモノであり、下手をすれば王族にもひっ敵するモノがあるかも知れない。



 が、言っている事自体はそこまで的外れでも、傲慢でも何でも無い。


 元々、規模が大きい訳でも、頻繁に外部からの人の流れが在る訳でも無い里で、しかも終わりかけとは言え外部からの供給どころか『供給』そのものが途絶える季節である冬に訪れた相手に対し、食料を吐き出して行け、と言うならばまだしも寝床の提供だけでなく、その口を養う事を確約して見せているのだ。



 なれば、その要請に従わない理由は特に無く。


 それに、考えて見なくとも、普段生きる為に行っているアレコレも見方によっては同じ様なモノであり、彼らとしても変に高圧的に出られるよりも余程素直に従おう、と思える文言に落ち着いていたし、何より仲間であるヒギンズの親族(義理だが)であるのだから特に変な扱いを受ける事も無いだろう、との信頼性があったのも大きいのだろうが。



 そんな訳で、里での滞在と、その間の滞在先を手に入れたアレス達は、まだ時間も早いのだから、と早速行動を開始した。


 と言っても、特に何かしらの仕事を探して、と言う訳では無く、これまでの道中にて倒し、魔力庫へとしまい込んでいたは良いものの、売却し損ねていた魔物の解体並びに、食肉への加工、であった。



 ぶっちゃけ話をすれば、これまででもやろうとすれば出来はしたのだ。


 だが、生物の解体は必然的に場所を取るし、何より様々な汚れやゴミが発生するだけでなく、色々と臭いも発生する作業である為に、ソレ専用の場所が在る時か、もしくは余程周囲に対して気を配らなくても良い状況でないとやり難い事ではあった。



 なので、普段は買取りの際の手続きも同時に済ませてしまう、との観点からも、ギルドの方に任せてしまう事が多かった。


 が、そうして依頼する事によって、手数料やらが買取金額から差し引かれる事を厭って、駆け出し時代に自ら解体する方法を学ぶ冒険者は案外と多く、そして同時に『その口』であったアレス達は、自ら解体する技術を擁していた。



 ガリアンが皮を剥ぎ、ヒギンズが腹を開いて内臓を取り出し、アレスが関節から解体して骨から肉を外して行く。


 タチアナとナタリアはそうして外された肉を各部位毎にブロック肉としてある程度の大きさへと揃えて行き、内臓の処理や全体的な清祓も兼ねてセレンが浄化魔法を周囲へと掛けて行く。



 骨や皮、角に爪といった部位は、更に加工の為の処理が必要となるも、普通に諸々の素材として重宝される為に別枠で確保され、取り置かれる事となる。


 残る内臓も、ちゃんと処理すれば大半は食べられるモノとなるし、一部はポーション等の薬品の原材料となるモノも在る為にそれらは取り置かれるが、そうでない部位や人間が食すのに適していない(微妙に毒が在る、固くてそのままでは食べられない、苦みや臭みが強いのでちょっと……ets)所に関しては、ヨダレを垂らして待機していた従魔達が、我先に、と争う様にして処理して(食べて)しまった為に、跡には多少の血溜まりが残る程度となっていた。



 当然、そうして得られた食肉に関しては、マレンコへと提供される事となった。


 一応、滞在の対価として願い事の処理を、と言われてはいるが、それはそれとして苦しい冬の台所事情の助けになれば、と彼らから提供する事を申し出たのだ。



 勿論、それは長の家であるマレンコの所だけで消費される、と言う訳では無い。


 トップである彼を通して、周囲の家族やその累計に対しても流れる様に、と調整した上での事であった。



 アレス達からしてみれば、ほぼ無関係に近しい相手、とも呼べてしまう。


 だが、これから暫くは世話になる相手であるのは間違い無いのだし、少なくともヒギンズの同郷の相手でもあるのだから、提供する事に否やは無い。



 …………と言うのが、表向きの理由。


 本当の所としては、この程度の食料であればまだまだ供給出来る、との懐具合のアピール並びに、言葉を衒わずに使えば『根回し』『賄賂』が真の目的である。



 一応とは言え、これから『お願い』をする・される側となる可能性の在る人々だ。


 最初からそうだ、と決め付けるつもりはアレス達にも有りはしないが、それでも『『お願い』してやってる』『仕事をさせてやってる』と言わんばかりの態度でアレもコレも、と押し付けられるのは流石に違うし、彼らとしても大変気分がよろしいモノでは決して無い。



 故に、アレス達は自らの財布の中身を、予め公開して見せたのだ。


 人は、自分よりも下だ、と判断するが故に相手を見下し、己の方が上である、とアピールしたがる生き物である。



 そして、自身に敵対的であれば遠ざけ、攻撃し、そうでなく有効的であれば近付き、親しくなろうと試みる生き物でもある。


 なので、先んじて彼らは自分達の資産の程を明確にし、かつソレを誇るでも無く周囲へと手渡し、友好的に振る舞いながら『これからよろしく』と挨拶して回って見せたのだ。



 ここまでした相手を、邪険に出来る者はそうそういない。


 ましてや、状況や実力的に自分達では対処するのが難しくて放置する形となっていた物事を解決してくれる、とまでなれば、排斥するよりも円滑に迎え入れた方が遥かに物事が進みやすくなる、と欠片も思い付かない者も、理解出来ない者も、余程視野が狭く愚かな存在で無い限り、そんな結論に至る事は出来ないだろう。



 尤も、そういった物の見方をする捻くれ者がいない、とは断言出来ないのが人間の多様性、と言うヤツだろう。


 流石に、アレス達であっても、人の頭の中身まではどうこう出来ないし、出来たとしてもそんな大層な事はするつもりも無い。



 ただ、これにて大半の里の住人達はアレス達『追放者達』の味方…………とまでは行かなくとも、少なくとも積極的に排除しよう、と動く事は無くなっただろう。


 であれば、幾ら偏屈な住民達が何人か騒いだ所で、他の住民やマレンコ、ステラを筆頭としたヒギンズの関係者達がどうにか抑え込んでくれるだろうし、そもそもその手の坂張り大好きな連中はあまり好かれていないのが定石であり、発言力の観点からしても多分恐れる必要性は最早無いと言えてしまうだろう。



 斯くして、到着して早々に周辺住民達の好感度を稼ぐ事に成功したアレス達は、笑顔で彼らに迎え入れられる事となった。


 元々、穏和であり、外部からの人間に対しても排他的に攻撃する、だなんて事は滅多にしない(全くしない、とは言っていない)彼らからしても、まだ春の恵みが得られる時期が訪れておらず、必然的に手持ちの食料が長期保存の効くモノのみとなって久しく、それでいて残りの分も乏しくなってきた段階で、新鮮で汁気に満ちた食料を分け与えられたのであれば、喜んで迎え入れない理由が無い状態となっていた。



 現に、この会合を堺として、アレス達へと里の各所からの様々な『依頼(お願い)』が届けられる事となったのだが、その際にも文句を言われる様な事は殆ど無く、寧ろ大体は終わって報告に向かったメンバーに対して、何かしらのもてなしを施してくれる程に打ち解ける事となっていたのであった……。




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