『追放者達』、滞在する
ヒギンズの口から発せられた、叔母さん、の一言。
それがアレス達へと齎した衝撃は凄まじく、そんなのありか!?とのツッコミが全員から入れられる事となる。
「うっそでしょう!?
どう考えても、二十代位にしか見えないんだけど!?」
「なのです!?
ヒギンズさんは見た目通りの年齢なのに、ここまで外見で差が出るモノなのですか!?
完全に『叔母と甥』と言うよりも、誰が見ても『叔父と姪』にしか見えないのですよ!?」
そう言って目を血走らせながら詰め寄るタチアナとナタリアの二人。
外見上は、完全にナタリアの言葉の通りの関係にしか見えない二人に対して、何かしらの秘密があるのならばさっさと吐け!と言わんばかりの剣幕であり、片や自らの恋人であり、片や自らの腰程度までしか身長の無い相手であっても、その勢いに圧されてしまってか、苦笑いを浮かべながら宥める様に言葉を口にして行く。
「…………ま、まぁ?
オジサン達の種族って、比較的若く見える人が多いから、ねぇ?
それに、オジサン昔から老け顔で通ってたし、そこから比較して、って事なら仕方ないんじゃないかなぁ〜?」
「…………ふふふっ、貴女達の様に、若いお嬢さん達にそう言って貰えると、私としては悪い気はしないわね。
これでも、色々と気を使っているのよ?
まぁ、とは言っても、私は両親の遅くに出来た末の娘で、ヒギンズ君は早めに出来た上の兄の子供だったから、ほぼ歳は変わらないのだけどもね?」
「まぁ、そうだったのですか!
…………ですが、如何に長命種の一つに数えられる龍人族とは言え、そこまで若々しく在るのは何かしらの秘訣でも在るのでしょうか?
それに、不躾な話にはなってしまいますが、お見事な体型を保ち続けていらっしゃる様子ですし……」
「あら?
そう言う貴女も、随分と立派なモノを持っているみたいじゃない!
ちゃんと、気を付けないとダメよ?
肌だとか髪だとかもそうだけど、胸やお尻の形を維持するのは大変なのよ?
まぁ、でも、ちゃんと最愛の人に愛して貰えるのなら、その辺りの維持は気にならなくなるし、寧ろ愛して貰える程に意図して維持しなくても良くなるモノよ?
現に、私はもう四人産んでるけど、お腹だって弛んだりなんかはしていないのですからね!」
「………………なん、だと……!?
その外見で、四人の子持ちとは、流石にウソであろう!?
これは、当方的には努力の賜物であるだとか、種族的に若く見えやすいであるだとかのアレコレを超えた、別の何かしらの力が働いているとしか思えぬのであるが!?」
「あらあら、そこまで言って貰えるのは嬉しいですが、既にこの身は愛しい夫のモノですので、お諦め下さいな。
それに、女の秘事のアレコレに対して、殿方が口を挟むのはあまりよろしくはありませんことでしてよ?」
ニッコリ、と笑って見せるステラ。
しかし、その笑顔には温かな感情や親しみの類いが乗せられている様子は見られず、会話の流れにて思わず言葉が口に出てしまったガリアンは、全身の毛を逆立てながら無言のままで頷く羽目になってしまう。
そんな彼らであったが、今現在居る場所は建物の中の居間、とかでは無くただの玄関。
女性陣はあっという間に馴染んでしまっていたが、それでもまだ上がり込んだりはしていなかった事に気付いたヒギンズとステラが、苦笑いを浮かべながら皆に上がる様に、と促して行く。
以前、仙華国では家へと上がる際には靴を脱ぐ、と言う習慣が在る事を知った(或いは知っていた)一行。
なので、この里でも土足厳禁である、と言われればそれに従う素振りを見せていたが、元よりそういった文化の在る国の出身であるガリアンと、地元の風習として親しんでいるヒギンズを除いた全員は、自室以外も全て、となるとやはり慣れない習慣である事からも微妙そうな顔をする事となっていた。
門から繋がる庭の方に従魔達を待機させ、ステラの先導に従って建物の中を進んで行く。
その際に彼女の背中側がアレス達の視界に映る事となったのだが、そこには放漫な臀部とその上部から生えている竜の尻尾、だけでなく、彼女が着用していた白い一枚布による装束が、背面にて複数の紐によって結び合わされ、固定されているのが見て取れる状態となっていた。
半ば袋状になるように断裁、裁縫し、大雑把に形状を整えてから後は各人の体型に沿った形で調整する。
一枚一枚を各個人に合わせた形で作り出すよりも、ある程度の形を決め、大きさに余裕を持たせておく事で、極端に体型に差がない限りは誰でも使う事が出来る作業着、と言う事なのだろう。
実際に見てみない事にはわからなかったが、こういう作りになっていたのか、としげしげと眺めるアレス。
しかし、その視線が『衣服の造り』を見ているのでは無く、女性からしても形状や大きさから来るアピールが凄まじい、と判断出来てしまうらしい臀部に注目している、と勘違いしたのか、セレンが不機嫌そうにしながらアレスの袖を摘み、自らのソレを握らせようと誘導までし始める。
人目もあるし、何より仲間の親族、と言う微妙に関わりが無い他人の家の中で、と言うのは流石にアレスとしても抵抗があったのか、やんわりとではあったがそれに抗おうとする。
が、その二人の様子は、傍から見ている限りであっては、恋人同士が身を寄せ合ってイチャコラしている様にしか見えておらず、何となく事情を察していた仲間達は苦笑いを浮かべていたが、そうでは無いステラは『面白いモノを見た』と言わんばかりの表情にてニヤニヤと二人を眺めていた。
とは言え、現在居るのは大きいとは言え居住空間。
そこまで長く廊下が設けられている訳でも、無意味に部屋を増やして迷宮と化している訳でも無い家でそこまで長く時間が掛かるハズも無く、目的の部屋へと通された一行は、ヒギンズを先頭に家主にしてステラの夫、と思われる龍人族の男性の前へと着席する。
外見上は細面かつ、穏やかな雰囲気を放つ男性。
しかし、雰囲気とは裏腹に佇まいには隙が少なく、チラリと覗く腕には良く鍛えられた筋肉が纏われており、少なくとも武術の心得があるか、もしくは少なくない数の実戦経験を積んでおり、アレスをしても簡単に倒せる相手では無いだろう、と思わせる程の存在感を放っていた。
「やぁ、良く来たね。
ヒギンズ君とは『久し振り』になるけど、お仲間達はそうじゃないから、ここは初めまして、と言わせて貰おうかな?
この里の長を務めさせてもらっている、マレンコといいます。以後よろしく。
取り敢えず、滞在に関しては大丈夫だし、何なら何時までも居てくれて構わないけど、見ての通りに小さい里で、しかも季節はまだ冬も明けていない時期だ。
だから、と言う訳では無いけれど、君達には色々とお願いを聞いてもらう事になると思うけれど、大丈夫だったかな?」
雰囲気に違わず、穏やかな口調でそう告げるマレンコ。
だが、そのセリフの内容を要約すれば、『滞在は許可するがその代償にちゃんと働いて貰うよ?』と言って来ているのに等しいモノであり、同時に無駄飯を食わせてやるつもりは無いぞ?と告げるモノでもあった。
とは言え、そこはアレス達も熟練の冒険者。
常に使われる側の存在であった彼ら(気軽に使える、とは一言も言っていない)がソレを厭い、反発する事も無く、取り敢えずはそんなモノか、と至極当然の事として受け入れ、結果滞在先を手にする事となったのであった……。