『追放者達』、驚愕する
里の中を行くヒギンズの先導に従い、大人しく着いて行くアレス達。
取り敢えずの目的地だけでも聞いておきたかった彼らが口々に質問を飛ばすが、案内人たるヒギンズは笑みを浮かべながら
『先ずはそこに行っておかないとならない場所だから』
と言って詳細を語ろうとはしなかった。
それならば仕方ないか、と粛々と従うアレス達であったが、眼の前にとある建物が見えて来た段階で、何となく予感がしていた。
現在滞在しているこの場所があくまでも『里』の規模であり、目前の建物もそれに応じたモノでしか無いが、それでも他の建物と同様の、何かしらの植物を使って履いたであろう屋根の形式はそのままに、様式やら規模やらから考えて、確実に『長』の役職か、もしくはそれに準ずる重さの地位に就いている者の家屋であろう事が予想出来た。
ここまで来れば、流石にアレス達も予想が付いていた。
これまで、大貴族の跡取り的立場に居た者だとか、世界的宗教国家の頂点と顔見知りであったりだとか、鎖国国家の封鎖を顔パスで通り抜けられたりだとかのドッキリビックリが連鎖していたのだ。
流石に、ここまで来ればどうせ里の長の身内でした、とかのオチが付くのだろう?と考えるアレス。
とは言え、そう考えているアレス本人も、一大工業国家の元首と深い親交が在る、と言う点に於いては他のメンバー達が暴露した諸々に匹敵する事柄であり、寧ろ他のメンバー達からしてみれば『お前が言う事かそれ?』な状態であったのだが。
そんな彼の内心を置き去りにする形で、ヒギンズがその建物の門を潜って行く。
無造作かつ緊張の感じられないその素振りは、まるで昔馴染に会いに向かっている、と言う様な気軽さで満ちており、確実にこの場所に慣れている者の動きであった。
やっぱりか、とアレスを含めたメンバー達全員が思っていると、建物の中から誰かが近付いて来る音がする。
彼らの気配を察したのか、それとも来訪者があれば直ぐに気付ける様な仕掛けが何かしらあったのかは不明だが、感じられる気配と足音の間隔から、恐らくは女性なのだろう、とアレスが当たりを付けていると、玄関に足音の主が現れる。
その人物は、アレス達にとっては珍しい格好をしていた。
布地としては白いソレであり身体を覆っている、と言う点に於いては普通の白装束と変わらないモノであったのだが、前から相対している限りであると、何処にも合わせ目や切れ目、ボタンの類いが付いておらず、何とも不思議な造りをしているモノであった。
当然、手はちゃんと露出しているし、腕の可動域も阻害されない様な造りとなっている事は見て取れる。
なので、作業着の類いなのだろう、とは思えるが、どうやって脱ぎ着するのか、毎回頭からスッポリ被る様にするのだろうか?しかしそういった構造だともっと大雑把な造りになるハズなのだから、あそこまで体型に沿った形状にはならないのでは……?と益体も無い思考でアレスの脳裏が空転する。
僅かに視線を逸らして見れば、同様に固まっている様子の仲間達の姿。
尤も、服装の造りが云々で視線を奪われていたのはどうやらアレスのみであったらしく、他のメンバー達の大半が、パタパタと足音を立てながら今なお近付いて来るその女性の胸部へと向けられている様子であった。
…………そう、そこには、見事なまでの巨峰が聳えていた。
足を踏み出すだけで大きく弾み、着地と共に重力に囚われて形を変えるソレは、今まで彼らが出会って来た立派なモノを持っていた女性陣の中でもダントツで大きなモノであり、セレンの母親のカリンや、敵として遭遇したテンツィアよりも更に大きく、人はその大きさにまで至る事が出来たのか!?と思わず下らない哲学的な思考に呑まれかける事となる。
一枚の布で作られている様な白装束が、異様なまでに持ち上げられている。
その膨らみの大きさに引っ張られる形で、体型に沿った形状をしているとはいえ、腹部まで釣られて太くなって見えてしまっているが、聞こえている足音から推測する体重では、その様な体型にはならない程度の重さしか無かった為に、やはりその部分は空洞となっているのだろう。
なんて事を、頭の片隅で考えていたアレスは、再度仲間達の様子を確認する。
一応、カリンの働きにより、巨乳女性に対する憎悪の感情が封印された経緯が在るタチアナとナタリアであったが、ソレはソレ、として眼の前に存在する巨大質量の存在感は決して無視出来ない状態である事に変わりはない様子であるし、現在こそナタリアを恋人としているガリアンだが、かつては割りと肉感的な異性を好んでいた事からも、やはり目の前の女性から視線を剥がすのに苦労している様子であった。
唯一、そこに混じっていないセレン。
特に憎悪の抱くハズも、また色欲の類いを向けるハズも無い彼女が何故揃って視線を奪われているのかアレスには甚だ疑問が残る状況であったが、ポツリと零された『羨ましい……』との言葉と視線が固定されている場所から推測するに、アレだけ大きな胸をしていても姿勢が崩れず、肩や腰に負担の影響が現れていない様に見える、と言う点が彼女の琴線を刺激した様だ。
そんな、アレス達の視線を一身に集めた女性は、当然の様に人間の女性基準では長身であり、頬や額には鱗が、僅かに見える腰裏からは尻尾が生えている。
当たり前といえば当たり前であるが、やはり龍人族の里に暮らしている以上、彼女も龍人族なのだろうが、長命種である以上、アレスの目からは年齢等を推測する事が出来ず、矢鱈と若々しい人が出て来たな、としか思えずにいた。
とは言え、一応は特に約束もせずに押し掛けた迷惑客。
であれば、一行のリーダーを務める者として、土産物の一つも渡しながら来訪の理由を述べるべきか、とアレスが魔力庫の中を漁ろうとしていた正にその時。
「やぁ、ステラ叔母さん。
久し振りぃ。
旦那さんって今居たりするかなぁ?」
「…………私を正面からその呼び名で呼ぶ、って事は、やっぱりヒギンズ君だった訳ね。
以前、雪の中を必死になって冒険者の方が届けてくれた手紙に、その内顔を出す、だなんて書いてあったから承知しているけれど、それでももうちょっと早くこまめに連絡するべき、では無かったかしらね?」
「そこは、ほらぁ。
根無し草な冒険者で、かつ仲間達との旅の身空であった甥っ子が、そこまで筆まめな手紙を定期的に送れるか、って考えて貰えれば、ねぇ?」
「………………まぁ、その辺りは良いでしょう。
貴方も良い歳をした大人なのですから、その辺りの責任は自分でお持ちなさいな。
それに、あの人も『そろそろ来る頃合いじゃないか?』と言って今日は家に居たので、面通しは大丈夫ですよ。
……取り敢えず、お上がりなさい。
それと、お帰りなさいヒギンズ君」
「…………あぁ、ただいま。
ステラ叔母さん」
何やら親しげに会話をし、家へと上がり込もうとするヒギンズ。
どうやら、内容から察するに、案の定身内の類いであった様子だったが、それらの言葉が彼らの脳裏にて分解される事は無く、寧ろそこに含まれていた衝撃の事実によって半ば停止し、思考は空転を繰り返す最中、奇しくも心からの絶叫のみが揃って放たれる事となるのであった……。
「「「「「………………お、オッサンよりも歳上、だとぉ!?!?!?」」」」」
「…………………………えぇ〜?驚く所、そこぉ……?」