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『追放者達』、見付ける

 


 魔物の群れに襲われる事約半刻程度。


 アレス達の周囲には、魔物の姿は残っていなかった。



 襲撃を受けた時から、彼らは特に橇を止める事もしていなかった。


 その為に、彼らの周囲に魔物の死体の山が築かれる、と言う事にはならなかったが、彼らが通ってきた場所には鮮血によって作られた道が現れ、更に言えば回収から漏れた数少ない魔物の死体を巡り、血で血を洗う極限の闘争が勃発していたりもするが、その辺は特に関係の無い話であるから、あまり気にする必要も無いだろう。



 そんなこんなで、森へと突入と同時に虐殺(スローター)を敢行する形となったアレス達。


 自ら望んで行った事では無かったが、それでも血気に逸った群れが壊滅した、と言う事実は魔物にとっても衝撃が凄まじかったらしく、ソレ以後は散発的な遭遇こそはあったものの、最初の様に群れで襲撃を仕掛けられる、と言う様な事態には発展しなかったのは儲け物、と言えるかもしれない。



 実際、倒した魔物はその殆どがアレスの繰糸によって回収されている。


 なので、自分達で口にする肉等を除いた残りの部分、素材として活用出来る部位に関しては本当の意味合いにて『儲け』となり、最早太らせる必要性は欠片も無い彼らの財布を更に太らせる形となる為に、やはり無駄では無かった、とは言えるかもしれないが。



 そうして森の中を進む事暫しの間。


 当然、ヒギンズがかつて使った事がある、と言っていた道も、昔は平地であった場所が森へと変貌を遂げているのと同様に、下草の陰や木々の木立の中へと消え失せており、取り敢えず真っ直ぐに、と言う事で進んではいるが、彼らの方向感覚と太陽の位置から方角を割り出してのモノであり、何かしらの目印となる様なモノを頼りにして、と言う事が未だに出来てはいなかった。



 とは言え、それも当然の話。


 ヒギンズ本人曰く、この辺りに在った『道』はあくまでも人通りによって踏み固められたモノであり、別段舗装された様なモノでは無かった、との事であるが故に宜なるかな、と言わざるを得ないが、流石に森に没んで同化する程に長く放置されてしまっていては、例え石畳を敷かれていたとしてもそれが分かり易い形で残っていたとは、アレス達にもとてもでは無いが思えなかった。



 が、しかし、人の記憶、と言うモノは意外な形で作用する事も少なくは無い様子。


 現に、周囲を積極的に見回していたヒギンズが、唐突に橇の操縦を担っていたナタリアの肩を叩いて橇を停めさせると、半ば飛び降りながら眼の前に横たわる存在へと目掛けて駆け寄って行く。



 …………それは、苔むした大岩、であった。


 蔦が這い、苔が覆い、積もった枯葉から生じたであろう土によって、木々の芽吹きの土台とも化している上に、株からも木々の根によって侵食を受け、半ば神秘性すらも獲得している様子を見せてはいるが、やはり何かしらの岩石の塊であろう事は辛うじて判断出来る程度には、岩肌が露出した状態となっていた。



 そんな、パッと見た限りでは岩石なのか苔の塊なのかの判断が難しそうなモノへと駆け寄り、肩の高さを手で擦る。


 その表情は信じられないモノを見た、と言わんばかりに目を見開くと同時に、何処か懐かしさを感じている様にも見える、なんとも言えない複雑なモノとなっていた。




「………………あ〜っ、その、なんだ。

 オジサン、多分今どの辺りに居るのか、分かっちゃったと思うよぉ。

 多分、だけどねぇ」



「あん?

 その、岩の塊だか苔の塊だか見分けが付かんヤツに、なんか見覚えでもあったのか?」



「まぁ、ねぇ〜。

 コレ、オジサンの記憶が正しければ、例のここに在った道、の途中の近くに在った岩、だと思うんだよねぇ。

 形に見覚えがあるし、地形的な感覚でも、大凡の位置が同じ位なハズだから、多分合ってるハズだよぉ」




 そう言って、確かこっちに、と別の方向を指さしてから、ヒギンズが徐ろに茂みを掻き分けて歩み始める。


 何やら心当たりがあるのなら、と少し前に処しかけた事実は綺麗さっぱり忘れる事にしたアレス達も、でも何も無かったらやはり処すか、と少々どころでは無い位に物騒な相談をしながら、先行するヒギンズの背中を追い掛けて行く。



 少しすると、アレスの耳とガリアンの鼻に、それまでとは異なる情報が届いて来る。


 厳密に言えば、水の流れる音と、一定量の水が放つ匂いが、彼らの感覚を刺激する事となったのだ。



 思わず、顔を見合わせたアレスとガリアンは、同様に感付いたらしく少々興奮気味となっていた従魔達と共に、足を早める。


 唐突な反応に、どうやら気付いていなかったらしい女性陣が戸惑いを強める反応を見せていたが、それに構う事無く早足に進み、ヒギンズが先行した事で踏み倒され、生じた細道を突き抜けて行く。



 その先に在ったのは、水を湛えた河川。


 規模として、そこまで大きなモノでは無かったが、それでも『小川』と表現するには憚られるだけの川幅と水量があり、魔物なのかそれともそうでないのかは定かでは無いが、時折水面下を通る影や水面を跳ねる姿が見られる事からも、魚の類いが住んでいるのであろう事が窺えた。



 清流、とまで呼んでも良いのかまでは、流石に判断が付かないが。


 それでも、小休止を挟むのには丁度良く、水の補給をする分にも不足は無さそうな光景が広がっていたのだが、何故か先へと導いた本人であるヒギンズは、懐かしむ様なそうでない様な、そんななんとも言えない様な表情にて、目の前の光景を眺めていた。




「…………ここ、オジサンが覚えていた限りだと、本当に小川、って感じの場所だったハズなんだよねぇ……。

 平野に細々と流れてるだけの小川で、魚が住み着く程の深さも無くて、手を突っ込んで掬っても、ギリギリ濁らせずに済む程度しか無くってね?

 歩き疲れたら靴を脱いで足を突っ込んだり、掬った水を飲んで乾きを癒やしたりしていたなぁ……」



「…………ふぅん?

 じゃあ、この辺りにあった道、ってヤツは、比較的常用していた様な類いのモノだった、って事か?」



「そうだねぇ。

 当時は、『里』から学舎まで歩いて行くのが当たり前だったからねぇ。

 比較的離れていたから、オジサンも何人かの同世代と一緒に通っていたし、その行き帰りで寄り道して、って事も何度もあったなぁ……」



「…………子供だけで、であるか?

 それは、些か危険が過ぎるのではないか?」



「いやぁ、まぁ、ねぇ?

 流石に、大人とかが定期的に周辺の魔物を狩り尽くす勢いで倒してた(虐殺してた)から一応安全の確保はされていたんだよぉ?

 でも、当時の考え方、っていうかオジサンの『里』の考え方ってさぁ、襲われたならば撃退するのが当然であり、それで死ぬならそれまで、ソレ以後の力には決して成りはしないだろう、ってのがあってねぇ?」



「つまり、割りと死んだらそれまで(スパルタ)な教育方針の下に育てられた、と?」



「あっはっはっ!

 その辺りは確かに否定は出来無いかなぁ!

 現に、オジサン当時は仲の良かった子たちとは協力して、助け合って色々乗り越えて来たけど、それでもそこまで仲の良く無かった子の集まりだとか、ほぼ関係の無かった所だとかだと、それなりに()()()()()()()()()()()()()とかもそれなりに居たから、やっぱりそういうことだったんだろねぇ……」




 そんな、真っ黒に過ぎる過去を暴露するヒギンズ。


 内容とは裏腹に、朗らかな口調にて告げられる数々の情報により、アレス達が内心にて、今目指している場所に辿り着いても大丈夫なんだろか?と疑問を抱いていると、どうやらこの川を基点としての位置関係を思い出したらしく、張り切って先導を開始したヒギンズの働きにより、彼らが『里』へと辿り着く事となるのは、それからまだそう日が傾かない内の事であった……。




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