『追放者達』、最後の目的地へと向かう
魔族側に何やら不穏な動きがある、とは露知らず。
アレス達『追放者達』は、一路ハーフバギンズを抜け出すべく道を急いでいた。
先の戦争にて、精鋭達の過半が命を落す結果となり、残る半数近くも、無事でいられた物達は殆ど居らず、戦力としては非常に低下した状態となってしまっていたからだ。
アレス達としても、共に戦った者達であった為に、助かる者達や蘇生させられる者達相手には、必死になって救助した。
が、それでも即座に戦線へと復帰が可能、と言える程に立ち直った者はそう多くは無く、また蘇生を受けた者達は損傷した魂を身体の力を使って補修しての復活であった為に、以前と同じく『精鋭』と呼ばれる程の戦力を持ち合わせているとは、とても言えない状態となってしまっていた。
国の防衛戦力がそんな状態では、魔物との戦いにも支障が出るのは間違い無いし、下手をすれば再度魔族が攻めて来る可能性もある。
なので、定石としては、それらの戦力がある程度回復するまではアレス達に居て貰う、と言うのが取るべき方策であったのだろうが、そうすると彼らの戦績的や遭遇率的に、魔族側の幹部である六魔将が再び襲って来る可能性が否定出来なかったのだ。
今そのレベルの敵に攻め込まれたら、確実に国が無くなる。
であれば、まだ国力を振り絞れば対応が出来るレベル、に敵の上限を合わせるべく、苦渋の決断として退去を求められたアレス達は、特に文句を言う事も無く一路ハーフバギンズからの脱出を目指している訳なのだ。
とは言え、別段アレス達に全く以てメリットが無かった、と言う訳でも無い。
何せ、彼らとしては長々と一所に勾留されるのを避けられたのは大きいし、何より時期としてそろそろ冬季も終わろうか、と言う頃に差し掛かっている事もあり、早めに目的地巡りを再開してしまいたかった、と言う事情もあった。
その為に、向こう側から『行って良し!』と言って来るのは、半ば渡りに船の状態であったのだ。
おまけに、こちらの都合に合わさせるのだから、と渡された大袋の中身は、彼らの予想に反して金貨では無く全て最高額の『白金貨』であり、下手をしなくとも国家予算の何割かか、もしくは国庫の底が見える程度には出費した、と言う事になるのは容易く想像出来る額となっていた。
通常、通貨として出回るモノとしては、金貨が最高額の通貨となる。
一応、その上の大金貨辺りまでであれば、商人達が大口の取り引きを行う際に用立てたりする事もある為に、滅多な事では目にする事にはならないが、それでも市井に出回らない、と言う訳でも無い。
…………が、その更に上の通貨である『白金貨』となれば話は別。
貴族達が自らの領地から徴収し、ソレの何割かを国へと納める際に使用される事が主であり、それだけ一枚一枚の財産的な価値が高いだけでなく、やはり素材としても希少である為に、自ずとそれそのものの価値が高まる、と言う、良くわからない価値の高さを持ち合わせているブツであるのだ。
実際問題、この貨幣は買い物に使う事はほぼ出来無い。
何せ、余程の大店でかなりの大口の買い物、それこそ店の物全て持って来い!でもしない限りは基本的に提出金額として上回ることになるので過剰金の準備が必要となるのだが、通常の金貨で支払おうとしようものならば『白金貨』一枚=金貨一万枚相当である為に、まず間違いなく用意する事は出来無い。
なので、通常の買い物に使用する、と言う事は基本出来ない。
が、資産価値としてはかなり上質なモノであり、また大口の買い物をする場合に於いてはかなり重宝するモノでもあるし、ギルドに預けておけば都度引き落としての使用も可能である為に、持っていても不良債権にしかならない、と言う訳では決して無かったりする。
尤も、資産云々の話で言えば、アレス達にとっては半ば関係の無い話。
何せ、既に諸々の依頼や素材の売却等で得た報酬金がギルドの共通口座に積み上がっており、ソレを六分割したとしてもメンバーの誰も見た事の無い様な額となる程に貯まっているのだ。
それは、元貴族であったガリアンや、かつて『栄光の頂き』に所属していたヒギンズも同様であり。
かつ、長命種として他のメンバー達よりも遥かに長く生きる事となるセレンやヒギンズが、この先何度か生まれ変わったとしてもまだ遊んで暮らして行ける程の額であり、それが末代まで続く程度に増えた『だけ』でしか無い。
ぶっちゃけ、最早冒険者を続けなくてはならない理由は無く、引退してパートナーと爛れた性活に突入しても誰も止める事は出来無いだろう。
が、根が孤児院出身で貧乏性なアレスだとか、スラム出身であったり完全に平民根性が染み付いているタチアナやナタリアだったりは、貯蓄されている額が大き過ぎて実感が沸かず、理解が追い付いていない為に辞めて籠もって豪遊して、だなんて堕落待ったナシな生活に突入する事は無さそうだが。
…………それに、彼らを取り巻く環境そのものが、彼らを辞めさせてはくれないだろう。
何せ、彼ら程に力を持ち、その上である程度相手側を立てるだけの協調性と気遣いが出来て、更に高い依頼遂行率を誇りつつ報酬にも文句を付ける事は滅多に無い、となればギルドとしても是が非でも手放すハズが無い人材であるのだから、多少強引な手を使ってでも留意させようとしてくるだろう。
また、現在の様に、魔物が活発に動き、その上で魔族までもが跳梁跋扈する事態に、戦う力を持たない一般市民は不安で一杯な状態と言える。
そんな最中、既に魔族を幾度も退け、更に国難級の依頼を幾度も達成したSランクの冒険者、ともなれば必然的に名前は各所へと広がり、また『自分達を守ってくれる希望の星』として認識がされないハズも無く、そういった意味での『期待』を向けられるている彼らがその守り手たる立場から退く事は、少なくとも当面の心配が無くならない限りは『民意』と言う形無きモノが赦してくれないのは、想像に難くは無いと言える。
「…………まぁ、それはそれ、ってヤツだけど、ね。
まだ当分の間は、辞めるつもりは無いんだし」
「…………?
アレス様?
何か、仰られましたか?」
「いや、ただの独り言。
気にしないで貰えると助かる。
んで、話は変わるけど、こっちで合ってるんだよな?
次の目的地への道、ってヤツは」
「オジサン的に、なんか変な魔力受けたみたいに見えたけど、本当に大丈夫かぃ?
道なら、こっちで合ってるハズだよぉ。
何せ、オジサン本人が出てくるのに使った道だからねぇ~」
「…………いや、それ逆に不安じゃないの?
その道って、最後に使ったのってどれだけ前なのよ?
下手しなくても、百年とか経ってるんじゃないの……?」
「ははっ!
何を仰るタチアナちゃん。
そんなモノ、オジサンがこっちに出て来てなんだから、確か……………………三百と二十年、くらいかなぁ?」
「それ、道残ってるの?」
タチアナからのツッコミに、指折りにして数え上げたヒギンズ。
本人も、かなり奥の方から記憶を引き出している素振りを見せていた為に、本当にそれだけ昔の話なのだろう、と推測する事が出来ていた。
が、長命種特有の時間感覚の適当さと、下手をせずとも地形が変わりかねないだけの経過時間とを加味したタチアナの呟き兼ツッコミに、その場に居た全員が頷いていたのは、最早当然の事だと言えてしまうのであった……。