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閑話 魔族達の思惑

 


 アレス達がハーフバギンズから出立し、次なる目的地を目指して進んでいるのと同じ頃。


 人間の文明圏から遠く離れたとある場所にて、複数の()()が集い、顔を合わせていた。



 それが、『場所』か『顔ぶれ』のどちらかが異なっていれば、特に注目する必要のあるモノでも無かっただろう。


 だが、完全に人の生活圏から掛け離れ、盗賊の類いや冒険者達ですら足を踏み入れるのを躊躇する様な危険地帯を挟み、更に奥へ奥へと進んだその先に在る様な場所にて、基本的には拝んだ物達は生きて情報を拡散させる事は出来ず、確実に『始末』してきた様な者達である、といえばどれだけ危険な盤面となっているのかは理解して貰えるだろう。



 そんな者達が普通の存在であるハズが無く、当然の様に人間ですら無い。


 そこに集っていたのは、昨今人間達の国々にて良く耳にする単語の主である『魔族』の中でも最上位に位置する大幹部達、通称『六魔将』と呼ばれる者達であった。



 元より、魔族、と呼ばれる状態に至った魔物は、同種のモノは当然として、世間的には上位種として認識されている様な魔物よりも、遥かに強大な力を得る事になる。


 そんな魔族の中でも、一際強大な力を保持し、その上で魔族の頂点たる『魔王』へと絶対の忠誠を誓った者達であり、通常の魔族からすればその存在は、羨望の眼差しを一身に集めると同時に、絶対的に怒らせてはいけない、敵対してはいけない存在であった。



 そんな六魔将の殆どが、一堂に会していた。


 が、その空気はお世辞にも『良いモノ』とは言えず、どちらかというと重苦しく、息苦しい程の殺意や怒気に塗れている、と言う方が正しいだろう。



 何故か、は問わずとも理解出来るだろう。


 何せ、この場に集っているのは、とある冒険者と遭遇し、それに対して敗北するか、もしくはみすみす逃れる事を許したか、のどちらかであったからだ。



 自ら引き際を見誤らなかったテンツィアは、自身に魅了されない雄が居た事実に多少の苛つきを見せている程度であったから、比較的マシであった。


 しかし、その場の纏め役であるアルカルダが入室してくるまで、未だに右手を砕けた物をそのまま使っているゴライアスと、未だに負傷が癒えず、二の腕の半ばまでしか右腕が無いスルトは、正に無遠慮かつ無秩序に苛立ちを周囲へとぶち撒けており、物理的に当たられた机や椅子が複数ガラクタとなって床へと転がる事態になっていた。




「…………ふぅ。

 遅れた事は謝罪しますが、お二方流石にコレはどうなんです?

 苛つくからと言って、モノに当たるのは止めて頂いてもよろしいですか?」



「…………誰のせいで、そうなっていると、思っている?

 幾ら、与えられた任務こそ、優先されるとは言え、当機の宿願、それが果たされん、としている、場面で横から呼び出す、等とあまりにも、奴らに対して都合が良すぎる、タイミングであったが、よもや貴様、利敵行為であればまだしも、肩入れまでしている訳では、あるまいな……?」



「あんまり、そういう疑心は抱かない方が良いですよ?

 それと、利敵でも肩入れでも無いです、ってば。

 あの時は、本当に『偶然』タイミングが重なっただけですよ。

 そうでなければ、ちゃんと望む形で決着を付けれる様に、呼び出しだって遠慮しました、って。

 あそこであっても、僕が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()訳なんですから、流石に邪推が過ぎますよ?

 まぁ、陛下からの命で、貴方と騎士団を使っての攻略を、と言うのが大前提であった以上、そうはしなかった訳ですけど、ね」



「……………………」




 アルカルダの言葉に対して、ゴライアスが沈黙を纏う。


 自らよりも上位の存在による指令であり、大前提として果たすべき指示であった、との事を加味すれば、自らの宿願を振り捨ててでも果たすべきモノである、と理性にて理解した為であったが、同時に心ではソレを拒絶しており、否定も肯定もせずに沈黙する形となってしまったのだ。



 そんなゴライアスを放置して、アルカルダは視線をスルトへと移す。


 普段てあれば、豪放磊落を絵に書いた様な豪快であり、身内に対しては竹を割った様に判りやすく感情を表すスルトが、顔を顰めたままで腕を組み、むっつりと黙り込んでいる。



 それでいて、不満そうな感情のみは周囲へと放っている。


 大概の事は後に引きずらず、そうなったとしても大体は自らの拳でどうにでもする彼がそうなっている事に若干の驚きを覚えながらも、まぁ相手が相手なら仕方もない、かな?と内心で自らを納得させたアルカルダが、一応は、と声を掛ける。




「それで?

 何時まで不機嫌そうにしているんですか、スルトさん?

 負けは負け、生きていれば再戦出来るのだから逃げるは得。

 そう言っていたのは、貴方本人でしょう?

 でしたら、拾った命を不満そうに思うのでは無く、喜ばれたら如何です?」



「…………喜べ、だとっ!?

 貴様、我を侮辱するのも、いい加減にしたらどうなのだ!!

 あぁ、確かに我は敗北した!

 己も知覚しておらなんだ、自らの肉体の弱点を突かれ、何の対処もする事が出来ず、そのまま為す術も無く敗北した!!

 …………そして、己の命を惜しみ、死に恐怖したが故に背を向けて逃げ出したのだ!!

『次』に望みを掛けての逃走では無く、配下を振り捨ててまでの敗走であったのだぞ!?

 ソレを、恥と思わず喜べと、誇れとは何事か!!

 侮辱と言わずして、何と呼ぶつもりか!?」



「だとしたら、なんですか?」



「………………なに……?」




 あまりにもアッサリと言い切って見せるアルカルダに、思わず勢いが削がれる事となるスルト。


 ソレを好機と見たアルカルダが、これ幸いと言葉のみではあったが、次々に畳み掛けて行く。




「そもそも、貴方が敗残兵である事は、間違いの無い事実でしょう、スルトさん?

 貴方は、彼に挑んで、配下のジャイアント達と共に敗れた。

 それは、間違い様の無い事実である。

 違いますか?」



「………………ぐっ……!?」



「でしたら、黙ってこちらの指示に従って貰いますよ。

 どのみち、貴方はその傷を癒やすのに暫くは掛かるのですから、確実に『待機』となるでしょう。

 ですが、ソレを不満に思おう、だなんて考えないで下さいよ?

 でないと、こちらもいたずらに被害を出し、その上であまりにも戦果を挙げられなかった幹部、として処分しない訳には行かなくなりますから、ね……?」




 再び、部屋に沈黙が舞い降りる。


 自らの処遇、と言う絶対の札を見せられてしまっては、流石のスルトとは言え傍若無人を通す事は出来なかったらしく、歯軋りの音を響かせながらも続く反論はどうにか喉の奥へと押し込む事に成功した様子であった。




「…………で、こうして私達を集めたのは、一体何の用なのかしらぁ?

 立場で言えばぁ、攻略に失敗している私はどっちかと言うと(スルト)よりだ、とは理解しているつもりよぉ?

 だから、懲罰目的、と言われたのなら、理解は出来るわぁ。

 でも、だとしたらなんでゴライアス(あっち)まで居るのかは分からないのだけどぉ?」




 と、そこでそれまでだんまりを決め込んでいたテンツィアが声を挙げる。


 先に自身で述べた通りに、この場に於いて罰則の類いを執行する、と言う事であれば自身も含めて敗北した、との共通項を見付ける事も出来たのだろうが、個人的な目標は取り逃す形となったものの一応は作戦に成功し、功績、と言う点では現段階では一等級なゴライアスがこの場に居る理由が分からない、として理由をアルカルダへと問い掛ける。




「あぁ、そういう事ですか。

 でしたら、話は早く、簡単に済みます。

 我々六魔将は、暫くの間は『特異点』たる彼とその仲間、『追放者達(アウトレイジ)』との接触は禁止する、との決定が陛下によってなされました。

 これは、その通達です」



「「「…………っ!?」」」



「どうせ、貴方達の事です。

 やられっ放しや不完全燃焼では己が廃る、と個人的にか、それとも任務や攻略に託つけて襲撃でも仕掛けるつもりであったのでしょう?

 なので、事前に釘を刺させて頂きました。

 また、この件に関しては、陛下が直々に調査してその後の沙汰を下す、との事ですので、決して侮らずに逆らわない様に。

 僕の決定だ、と言われただけならば、貴方達はどうせ逆らって勝手にしたでしょう?」




 そう言われてしまっては、確実にヤるつもりであった面々は、思わず視線を逸らす事になる。


 その様子を目の当たりにしたアルカルダは、先に言っておいて本当に良かった、と思いつつも、本当ならばここに()()()()()()()()であり、そちらも中々に血気盛んな性質であった為に放置できないから、と釘を刺すつもりだったがまぁ良いか、と思考を打ち切り、溜まった仕事を片付けようと部屋を後にする。



 そして、その決断が事態を大きく動かし、残る六魔将の最後の一体の末路が、これにて決まる事となるのであった……。




ちょっと今話は長くなりましたが、今回で今章は終わります

次回から新章に突入し、そう長くかからない内に終章に至る予定です

最後までお付き合い頂けると幸いですm(_ _)m

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