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『追放者達』、巨神との因縁にケリを付ける・上

 


 痛みに呻きながら、スルトが地面へと膝を突く。


 ダラリ、と力無く垂れ下がり、最早纏っていた焔さえも喪った右手は、手首の辺りから凍り付いており、よくよく見てみれば徐々にその範囲を広げ、肘の方へと侵食している様子であった。



 それだけでも、放置していればいずれ致命的な事になる。


 最終的にどの様な状態となるのかは分からないが、これまでの立ち振る舞いからは考えられない程に大袈裟に苦しみ、かつ周囲も見えていないスルトの様子からソレは伺い知る事が出来ていた。



 氷に侵食され、凍て付きつつある焔の身体。


 それは、毒に蝕まれ身を朽ちさせんとしている者に対する哀愁にも似た感情を想起させ、せめて最期は安らかに、との慈悲を掛けたくなる者もいたかもしれない。




 ………………が、少なくともこの戦場に、この場に於いては、その様な安らかな終わり方を迎える事を、どうあっても肯定する事が出来ない者達が居た。




 誰かからの慈悲を受け、苦痛無き終わり方をするだなんて、とんでも無い。


 寧ろ、自分達の手で倒され無いのであれば、無限の苦痛の中で藻掻き苦しんで死んで行く事こそが相応しい。



 そんな、恨みにも似た激情。


 最早、怨念にも近い感情を抱き、そしてそのままに行動する事に躊躇いが無い者達が、既に動き始めていた。




 蹲るスルトに、迫る複数の影。


 当然の如く、スルトをここまで追い詰めたアレス達『追放者達(アウトレイジ)』のメンバーであった。




 彼らはここまで、幾度も魔王軍と交戦する事になった。


 それは、半ば偶然であったり、ほぼ必然的に狙われて、とのシチュエーションであったりはしたが、国やギルドからの命令で魔王軍との交戦を強いられる事を厭っての諸国漫遊であったのに、征く先々にてその様な事態となっているのだ。



 故に、彼らの中では、魔王軍、特にその将官である六魔将の評価は著しく低い。


 何せ、そうなる事を厭い、自ら立候補する者がいるのだから、と投げて半ば慰安にも近い旅行へと旅立ったにも関わらず、向こうから向かう先々で自分達に関わりに来ている上に、毎度毎度絡まれる毎に命の危機を体験する羽目になっているのだから、恨みも骨髄まで染み込んだとしても、何ら不思議な事では無いだろう。



 それに、彼らは何だかんだと言っても『冒険者』なのだ。


 目の前で、自分達が最前線にて戦い、それで弱らせた獲物が居るのであれば、迷い無くトドメを狙って刃を振るい、その素材を得んとするのは、最早本能にも近しいモノであるのは説明せずとも通じるであろう。



 だから、と言う訳でも無いのだろうが、全員が揃ってスルト目掛けて駆け寄って行く。


 中には、半ば非戦闘要員と化していたナタリアや、重度の火傷を負ったままのタチアナもそこに混ざっており、戦場に於ける最大の手柄首である『大将首』を前にして、その後の報酬を期待してか瞳をギラギラと光らせていた。



 当然、そこまでされれば、どれだけ呆けていようと誰でも身の危険を感じて飛び起きる事になる。


 それは、呆然としつつ苦痛に苛まれていたスルトも例外では無く、右手をダラリと垂らしたままではあったが、半ば反射的に立ち上がり、その場で構えを取ろうとすらしていた。



 …………が、ソレをアレスが許すハズも無く、無慈悲に凍り付いている右手首へと狙いを定めた魔法が放たれる。


 丁度、立ち上がろうとして地面へと左手を突いていた状態であったスルトは、飛来する氷の槍を目の当たりにして、これ以上受けるだなんてとんでもない!と言わんばかりの様子にて慌てて回避しようとして、無理な態勢のままで右手を庇う事となる。



 そうなれば、どうなるのか?


 答えは一つ、バランスを崩して転ぶ、だ。



 特に、今のスルトは片手が使えない。


 故に、咄嗟に右手を使おうとして動かせず、余計に態勢を崩しやすい状態へと陥る形になってしまう。



 ソレを見逃すアレス達では無く、絶好の好機、と見て嬉々として飛び掛かって行く。


 勿論、スルトの方も抵抗しようとするが、その度に右手を狙われ、ソレを庇ったり、攻撃を受けてしまって苦痛に喘いでいる間に他の箇所も攻撃を受けたり、と最早『悪循環』と呼ぶしか無い状況に至ってしまう。



 既に放たれた攻撃により、凍結している箇所であれば、骨を攻撃しても爆発は起きない事が判明していた。


 それもあってか、支援型であるタチアナと、本人は後方型であるナタリア以外のメンバーが積極的に接近しようと試みるが、当然の様にスルトの方もソレをされる事を恐れている為に、寄せ付けまいとして無事な手足を振り回す様にして暴れて行く。



 そんな最中であっても、スルトの懐へとジリジリと近付いて行く影が()()


 大盾を構え、その影に隠れつつも、踏ん張る場面と避ける場面とを的確に認識し、その上で確実に進んで行くガリアンと、その背後に隠れる形となりながらも、壁となっているガリアンへと回復魔法を掛けながら、同じく進んで行くセレンの姿であった。



 攻撃を防ぎつつ前へと進み、ダメージを受けた端から回復して行く。


 そんな、寄られる方としては悪夢の様な手段にて接近を試みる彼らは、あくまでも盾役と回復役であり、通常であれば『近付かれたから何だと?』と言えてしまうだろう。



 …………だが、彼らの場合、そうはならない。


 知っているかどうかが大きな分かれ道となるであろう状況に、スルトは如何なる反応を見せるのか?



 故に、ガリアンが前へと進み出る。


 壁役であり、盾役を務めるハズの彼が、前面を向けて構えるのでは無く、盾の下辺を敵であるスルトへと突き付ける形にて。



 そんな彼らに対するスルトの反応は、最早『大袈裟』と評するに相応しい慌てぶりであった。


 それは、肉の身体を持ち合わせていれば、間違いなく顔を引き攣らせ、全てを擲ってでも逃げ延びる、と覚悟を決めた者がするであろう行動であり、逆説的に()()()()()()()()()()()()()()()()()と言えた。



 必死になって、ガリアンの盾の先から逃れようとするスルト。


 しかし、その他、例えばガリアンの近くには居るものの、現在はそれなりに離れた場所にて待機しているセレンには特に注意を向けている素振りは見せておらず、寧ろ『脅威はガリアンのみである』と認識してどうにか逃げ出すか、もしくは右手首を攻撃されるのを防ごうとしている様にも見えていた。



 故に、そこでガリアンがわざと注意を引き、大袈裟な素振りで動くと同時に、セレンが前へと飛び出して行く。


 どうやら、どうにかしてガリアンの盾に仕込まれている劇物(パインバンカー)の存在を知っていた様子であったが、物理的な攻撃力で言えば近いモノを持っているセレンの事は知らなかった様子であり、特に注意を向けていなかった事もあってか、先程とは異なりアッサリと懐への侵入を許してしまう。



 予想外の対象が、予想外な軌道を取ってきた。


 その事実に驚愕し、かつ、この盤面に於いて無駄な事をされるハズが無い、と理解しているスルトが咄嗟に反応し、体力を大幅に削りながら身体から焔を撒き散らして周囲を焼却し、ついでに余波で右手首の氷まで溶かしてしまおう、と決断してから実行に移すまでの僅かな時間の間。



 通常であれば、何も出来なかったであろうその時間であったが、人間が杖と兼用になっている鎚を振り上げ、力の限り振り下ろすのには充分過ぎる程の時間であり、スローモーションにも見える速度にて地面に近い位置で抱えられていた右手首へと鎚頭が激突すると同時に、轟音と咆哮とが周囲へと響き渡る事になるのであった……。




思ったよりも長くなったので二分割

取り敢えず今編もあと少しの予定です

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