『追放者達』、巨神と激突する・4
先のアレスの指示に従い、仲間達もスルトへと向かって飛び出して行く。
とは言っても、そこに破れかぶれな無謀さは存在せず、確固たる意志と、ソレに基づいた作戦の感じられる動作を見せていた。
ソレを目の当たりにして、スルトは獰猛な笑みをより深いモノへと変えて行く。
焔によって形作られ、最早肉も皮も無い状態となっていたが、それでもその口角が吊り上げられ、戦意が昂り、高揚が抑えられない状態となっている事が、手に取る様に見えていた。
それもそのハズ。
何せ、スルトからすれば、先に挙げられた弱点や突破口を看破したのはアレスが最初では無かったが、分かったからどうしろと?と疑問に沈む事も、だからと言ってどうしようも出来無い、と絶望に染まる事も無く、それでもなお己を倒さんとして挑みかかって来ているのだ。
なれば、気分が高揚しないハズも無し。
幾ら『最強』を自負していたとしても、それは挑んで来る敵があってこそのモノであり、本気を出した途端に心を萎えさせて逃げ出し、命乞いをする様な者ばかり相手にしていては、最初こそ笑えたかもしれないが、やがて食傷も通り越して相手にするのも面倒なだけに成り下る。
しかし、こうして可能性を見出し、ソレに賭けつつ他の手立ても講じる様な輩は『違う』。
簡単に心折れる弱者でも、容易に可能性を手放す愚者でも、挑んで来たのに命乞いをする偽者でも無く、愚直に耐え、可能性へと手を伸ばし、決して勝つ事を諦め無い求道者こそをスルトは求めていたのだ。
であれば、こうして変わらずに挑みかかって来るアレス達の事を目の当たりにして、昂らずに居られるハズも無し。
叩き潰し、自らの誉れとするのに相応しい相手である、と改めて認識すると、思う存分に死合を楽しまんとして全力で叩き潰しに掛かって行く。
それに対してアレス達も、果敢に反撃を加え続ける。
投擲では効果が薄く、魔法では属性の相性次第では効果が無い、どころか焔の身体へと吸収され、折角減らした分を補給さえされてしまう事になる為に、必然的に近接しての攻撃が主な手段となった。
流石に、ナタリアまで前に出て、と言うのは無茶振りが過ぎた為に彼女は後方からの弓による支援に徹していた。
が、ナタリアを除いた他全員、タチアナすらも含めた総員にて前へと踏み出し、攻撃を仕掛けて骨を露出させる為に奮闘する。
そうなれば、必然的に彼ら全員が、熱と焔とに炙られる事となる。
元々火に対して耐性を持っていたヒギンズや、かつての体験からその手の痛みや外傷に慣れていて怯まないアレスは兎も角として、他のメンバー達は普通に炙られる事となるし、熱による被害も受けて行く事となる。
まだ、従魔達やガリアンは、毛皮に覆われているが故に、比較的マシな状態ではあった。
が、残るタチアナとセレンは、種族特性的にその手の事に耐性を持っている、と言う訳でも、幼少期からの訓練(強制)で慣れている訳でも無い為に、ダメージや被害を直接受ける事となってしまっていた。
美しかった髪や肌が炙られ、火傷が浮かび、時に流血まで伴う事になる。
逐次セレンが回復魔法を施した上で継続効果を持つモノも重ねて発動し、タチアナも支援術によって炎熱耐性を付与したりもしているが、それでも端から見ていて痛々しい事この上ない状態へと、強制的にさせられてしまっていたのだ。
「セレンっ!?
…………もう、決めた。
お前は、ここで殺す」
「…………なぁ、スルト。
お前、武人としての誇りは何処に捨てて来た?
なら、タチアナちゃんを傷付けたお前は、獣として処理するが、構わないよな!?」
それによってブチギレるのは、当然の様に男性陣。
特に、恋人がそうして傷付くのを目の当たりにしたアレスとヒギンズの怒りは凄まじく、アレスは珍しく激昂し、ヒギンズは普段の緩い口調が何処かへと逃げてしまった為か、異様なまでの迫力が放たれている様にも思えた。
手当たり次第、とも取れる手数にて、刃を振るい、魔法を放ち、突き、薙ぎ、打って攻撃を重ねて行く。
自らの身の安全を最低限のみに絞った事で得られたリソースを、全て攻撃へと回した事で実現した猛攻を前にして、やれるモノならばやってみろ、と公言したスルトを以てしても、防ぐのは容易では無くここに来て回避も交えての攻防へと発展して行く事となる。
当然、そうなればより消耗して行く事になるのはスルト、では無くアレス達。
単騎に攻撃が集中する分、ダメージ等の効率は上がるものの、スルト側のアクションが一つ挟まる毎にアレス達は熱と焔によるダメージを受ける状態となっている為に、与えているダメージよりも、回復によって削れて行く魔力等のリソースの方が大きくなってしまっていたのだ。
考えてみれば、当然の事態といえばその通りの出来事。
相手は一挙手一投足に範囲攻撃を伴うだけでなく、回復能力迄も持ち、その上で焔の身体を削った状態でないとまともにダメージが入らない仕組みとなっているのだ。
おまけに、いざダメージを与えたとしても、半ば道連れに近い形でアレス達の方にも爆発によるダメージが入る。
そうなれば、まともに殴り合っているだけでも継続して負傷させ、ダメージを蓄積させられるスルトの方へと天秤が傾くのは当然である、と誰もが理解してしまっていた。
…………それは、スルトにしても例外では無く、以前にもその仕組みを暴いて見せた者達と同じ末路を辿るのだろう、と半ば諦めにも似た感情を抱いていたのだ。
だが、ここで一つ異変が起きる。
それは、先の手順に沿って攻撃と防御を幾度も繰り返した後の出来事。
それまでも、何度も行った様に、スルトの焔を消費させ、骨を露出させた際の事であった。
今回は、位置としては右の二の腕、骨の種類で言えば、手首の位置に在る尺骨と呼ばれるソレが露出した場所であった。
これまでも、何箇所か露出させ、その上で攻撃され砕かれている箇所は出来ていたものの、それらは半ば治ってしまっている状態であったし、爆発の直後には既に焔によって保護される状態となっていた為に、今回も同じ様な事になるのだろう、と攻撃を受けていたスルトでさえそう思っていた。
…………そう、事を成した、アレスを除いた全員が、だ。
────ビシッ!バキバキッ!パァンッ!!!
そんな、高音混じりの音が、戦場へと響き渡る。
その音の出所は、攻撃を受けてなお爆発せず、焔によって保護もされず、その上で再生が始まった様子も無い、スルトの右手首であった。
戦場を、静寂が支配する。
燃え盛るスルト本人も、アレスからの指示を受けていた仲間達も、遠巻きにして眺めているしか出来ていないオブシダン王達小人族軍も、揃って言葉を喪い、本来死と破壊の音に満ち溢れているハズの『戦場』が、焔の燃える音とソレに炙られる氷の音のみが響き渡る、謎の空間へと変貌を遂げて行く。
そんな最中、一人飛び上がっていたアレスが、地面へと着地する。
顔は爛れ、辛うじて両目は無事ながらも他は最早良くわからない状態にまで焼けており、肺だけでなく喉まで焼けた状態ながらも、焼けて掠れた声にて、狙いの通りだ、と嘯いて見せる。
「思った、通り、だった、な。
お前、本人も、気付いて、無かった、みたい、だが……な。
お前の、焔の身体は、魔法を防ぎ、ながらも物理、によって、拡散し、骨の身体、は、物理によって、爆散、する。
なら、その、骨の身体、に、魔法を、ぶつければ、どうなるか?
その、答えが、これ、だよ」
焼け爛れた事により、掠れているだけでなく途切れ途切れのセリフとなったアレスであったが、黒く焼けた顔の中でも、未だに爛々と輝いている両の瞳は巨神の動揺を見逃さず、未だに燻り続ける右の手首を捉えて離さないのであった……。
攻略法、解明