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『追放者達』、巨神と激突する・3

 


 轟、と空気が膨れ上がる音が周囲へと響く。


 同時に、広がった空気に込められた熱が拡散し、狙いを定められていたアレスの肌を焼いて行く。



 多少大きめに、しかし最初の頃よりは小さく回避した彼は、距離を取る、事はせずに、寧ろスルトへと目掛けて接近する事を試みて行く。


 当然、そんな事をしていれば否応無しに目立つ為に、スルトの方も注意をアレスの方へと集め攻撃も彼の下へと集中して行く事となる。



 拳や蹴りの嵐を掻い潜り、降り注ぐ焔の雨を無視して懐へと飛び込むアレス。


 目の前の身体から放たれる焔とその熱によって眼球は乾き上がり、肺は煮え立つ様な感触と思いとが込み上げて来るが、取り敢えずは無視して手近にあった骨へと刃を振るう!



 が、次の瞬間には、彼の身体は宙を舞う事になる。


 アレスが斬り付けるのと同時に、スルトの身体の骨が一部『爆弾』と呼ばれる異世界の兵器もかくや、との勢いにて、突如として爆炎を上げる事となったのだ。



 流石に、ソレはアレスも想定外であったらしく、木の葉の如く成す術無く吹き飛ばされてしまう。


 が、同時に特に大怪我や欠損を負う様な事にはならなかったらしく、フワリと両足で着地を成功させており、魔力庫から取り出したポーションを乱雑に顔面へと振り掛けて、応急処置として対処して行く事となる。



 シュワシュワと、白煙が立ち昇る。


 高速で行われる新陳代謝により発生した熱がまだ冬の明け切らぬ空気の中で煙として立ち込め、それと同時に空気中へと気化したポーションを吸い込む事で焼け爛れた肺も癒やして行く。



 辛うじて視界が戻り、呼吸も可能となっていたが、ただそれだけ。


 重度の火傷の上から薄く張った皮膚は未だに爛れたままであるし、肺も冷たい外気を吸い込むだけで鋭い痛みを訴えて来る状態であり、未だに状態としては『重態』と呼ばざるを得ない様な、そんな状態となっていた。



 …………本来であれば、応急処置、等と言っていないで、即座にセレンによる集中治療が必要となる程の負傷。


 しかし、今はソレを受けているだけの暇は彼らには無いし、ソレをする位であれば、まだ魔力を節約する為にもポーション程度で済ませておく方が良い、と判断されての行動でもあった。




「………………チッ!

 もしもの時に、と仕入れておいた、とっておきの最上級ポーションだ、って言うのに、この程度しか回復しない、とか、ふざけてるのか?」



「ガッハッハッハッ!

 良くもまぁ、そこまで死に体になりながらも、悪態を吐き出せるモノだ!

 我と対峙して、そこまで己を保っていられるとは、それだけで誇れる事であるぞ!

 尤も、勝てた者は皆無故に、最期まで諦め無かった者は居らぬのだがな!!」



「はっ!

 抜か、せ!

 もう、既に、割れてる、んだぞ?

 お前、別に、無敵でも、不死身でも、無いだろう?」




 悪態と共に始まったアレスの言葉に、思わずスルトの手が止まる。


 悲哀でも、命乞いの言葉でも無く、先ず爛れた肺から絞り出されたのが、手持ちの道具に対する悪態であったが故に、それまでに見た事の無い反応であったが為に、興味を引かれて次なる攻撃の手が止まる。



 どう足掻かれても、どうなったとしても、結局は自分が勝つ。


 そんな、傲慢にも似た自信から来るスルトの言動に対してアレスは、自らが攻撃し、かつそれによって発生した爆炎によって消し飛ばされかけたその場所を、スルトの胸郭の一部を指差しながら、お前は無敵でも何でも無い、と宣って見せたのだ。




「お前は、気付いてるかは、知らないが。

 お前が、攻撃する際、身体を構築、している焔が、短時間だが薄れ、骨が表面に、出て来るタイミングが、在る!

 そして、攻撃を受ければ、反応して、爆発する骨だが、以前の、肉の在る身体の時より、再生速度が遅いと、見た!

 現に、さっき付いた傷が、まだ癒えていない、だろう!?」



「…………ほほぅ?

 うむ、良くぞ気付いた!と言ってやりたいが、残念ながら()()()()()()()()と応えようか。

 その程度、過去に幾度か気付かれた事はあったが、こうして我は斃される事も無く生き延びておる!

 対策なぞ、する必要無し!

 我こそは、我が無敵の肉体一つを以てして、最強の証を打ち立てんと臨む者なり!!」




 弱点と突破口を看破してやった、とアレスが宣言する。


 が、それと同時にスルトの方も、それがどうした?だったら何だ?以前もバレたが問題無かったぞ?その程度で、自分を倒せると言うなら倒してみせろ!!と高らかに謳い、拳を打ち合わせて周囲へと焔の雨を降らせながら、その程度では無いのだろう!?と更に士気を高めてアレスと仲間達を誘って行く。



 そんな様子を前にしてアレスは、その心を折られて絶望に染まる…………事は無く、半ば純粋に呆れていた。


 普通、自らに対する攻略法を、不完全なモノだと知っていたとしても、指摘されれば表には出さなくとも必死になって否定するか、もしくは広められるよりも先に口を封じようと我武者羅に突っ込んで来るか、の二択に大体収まるモノであろう。



 が、目の前のスルトはあろう事か指摘を肯定した上で笑い飛ばして見せたのだ。


 突けるモノなら、それでどうにか出来るモノならばどうにかして見せろ、但しこれまでソレを出来たヤツは誰もいないぞ!とのコメント付きで。



 …………これには、最早呆れるしか無いだろう。


 何せ、幾ら過去の実績が在り、かつその弱点を自らも把握しての事である、とは言っても、ソレを解析され、看破された直後の事であるのだから。



 何故、警戒を抱かない?


 例えこれまで同じ条件で十度の防衛に成功していたとして、十一度目の今回が同じ手法で攻めて来るとは限らないし、これまでと同じ手段でどの様にでも防げるとは、誰も何も保証してはくれていないというのに。



 事態を楽観視しているのか、それとも己を絶対視しているのか。


 その両方なのか、それともどちらでも無いのかまでは、アレスにも理解は出来ない。



 が、それは付け入る隙が在る、という何よりの証左となる。


 その傲慢さが、彼らでは想像も出来ない程に昔から在る、旧き巨神の命を断つ刃となるのは、間違い無いだろう。



 これが知り合いであり、それなりに有効的な相手であれば、アレスも『危険な考え方だ』と否定してから、考え方を改める様に、と諭しただろう。


 だが、敵であるスルトに対してわざわざそこまで指摘して心構えを変えてやる必要は無いし、付け入る隙も、致命的な見落としも在り、かつ特に対策の類いもしていないしするつもりも無い、というのならば、確実かつ的確にそこを突いて殺してやるのが情けというモノだろう。



 そう覚悟を決めたアレスは、動作の拙い指運びにて、ナカマ達へと指示を出して行く。


 流石に、得物へと表皮が張り付く程度には深い火傷を負った状態で、滑らかに動いてくれる程に耐火性は無かったらしく、予備かつ念の為に、と仕入れていた高級ポーションを再度魔力庫から取り出すと、栓を開けるのも面倒だ、と言わんばかりの勢いにて握り潰し、鮮血と膿汁と薬液とガラス片の混じった液体を周囲へと撒きながら、強制的に手指の動作を取り戻す。



 その行動に中てられたのか、それともアレスが抱えた覚悟を鋭敏に感じ取ったのかは不明だが、今度は迎え撃つのでは無く、自ら前へと踏み出してスルトが距離を詰めて来る。


 ソレに呼応する形で、指示を出し終えたアレスも前へと飛び出して行き、一人と一柱が激突する事で周囲には再び熱波が放たれる事となるのであった……。




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