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『追放者達』、巨人の軍勢と激突する・7

 



 敵将、スルトが動き出す。


 それは、この『戦場』と言う盤面が即座に引っ繰り返される事態に等しい事柄だ。




 以前見た時は、そこまでの存在だ、とは感じなかった。


 確かに力は強大であり、膨大な魔力も持ち合わせていた為に、脅威だと認識はしていたが、ソレ止まりであったのだ。



 …………だが、今のスルトは違う。


 これまで、ゴライアスの様に望まぬ再会を果たす事となった六魔将は居たし、それまでの情報の裏付けとしても、魔王の復活によってかつての力を取り戻した状態へと変化を遂げた(寧ろ『回帰』と呼ぶべきか?)のだろう事は、理解出来ていた。



 しかし、それはあくまでも『総合的』な話であり、それぞれで得意分野が異なるが故の現象である、のだろう。


 現に、ゴライアスに関しては、本人(本体?)曰く『処理能力が封印されていた』為に使えなかった戦力が使用可能な状態になっていたが、ゴライアス本人に関してはそこまで戦闘力や戦運びが上昇した、と言う感じは無く、どちらかというと使える手札の制限が無くなった、といった感じが近いだろう、とかつての今双方のゴライアスと刃を交えたアレスは、個人的にそう思っていた。



 そして、ソレに関しては言うのであれば、スルトは恐らく戦闘に関する何か、だろう。


 しかも、ゴライアスの様に関与自体は間接的であり、本来は汎用的な能力では無く、ゴリゴリに戦闘向けのモノであり、寧ろ殺し合い以外にどう使えと?と突っ込みを入れなければならない程に特化したナニカ、であると予想していた。



 ………………そうでなければ、あそこまで変わるハズが無い。


 戦闘時に相対した事は無かったが、それでも以前はあそこまでの『圧』を、覇気とでも呼ぶべきモノを無意識的に放ってはいなかったハズなのだから。



 事実、要塞の屋上にて再会し、相対した際にアレスは、周囲へと悟られまいとして必死に隠していたが、内心では『怯え』にも近しい感情を抱く事となってしまっていた。


 そこに在るだけで放たれる、強者特有の存在感とでも呼ぶべきモノを、暗殺者特有の鋭敏な感覚にて拾い上げてしまったアレスの本能が、反射的に『このままでは一方的に殺される』と判断してしまったのだ。



 如何なる手段にて、ソレを成立させるのかまでは、流石にアレスも予想すら出来ない。


 が、それだけの力を持つスルトが、最早戦場としての体を維持する必要すらも無い、と判断してしまった場合、文字通りに『一騎当千』の戦力を持つスルトの手によってこの盤面は引っ繰り返されるだけでなく、跡形も無く粉砕される事となってしまうだろう。



 それは、今までに遭遇した六魔将にも言えた事だろう。


 オルク=ボルクはそもそも相手に着席させずにゲームを開始し、テンツィアは相手の手番をも自らが指して盤面を支配し、ゴライアスは自身の駒を増やしてから強制的に付き合わせる。



 そして、スルトは不利な盤面は拳で叩き割ってリセットし、次のゲームを開始する、といった力業を可能としているといった所であろうか。


 横暴にも程がある行為であるが、それが許されるだけの力を持ち合わせてしまっているのが、アレス達にとっても、世界にとっても不幸な出来事であった、と言えてしまうのかも知れないが。



 そんなスルトが、戦場の前線へと赴いて来る。


 それはつまり、この戦場がどれだけアレス達にとっては優位な状況にあったとしても、ソレを引っ繰り返し、蹂躙し、逆転して踏み躙る事を可能とされてしまう一手となりうるのだ。



 幸いにして、向こうの考えとして最短でこの戦場を終わらせよう、とはしていないのだろう。


 少なくとも、最強にして絶対であろう自身を最初に投入して蹂躙する、といった事をしていない以上、最初からするつもりが無かったのか、はたまたソレができない制約の類いでも在るのか。



 だとするのならば、それまでに出来る限りの損害を、相手方へと与えておく。


 それが、確実にこの戦争が終わるまで五体満足平穏無事に過ごす事が()()()()()()()()()()()()自分達の役目なのだから。



 そう、内心にて結論付けたアレスは、その頃になって漸く戦闘の喧騒の最中へと再び飛び込む事になる。


 アレスの足を以てしても、それだけ時間が掛かる程に離れた位置に伏兵を配していた、という事になるのだが、敵の予定地点が現在地の近辺であった、となれば、それだけ奥地にまで引きずり込んでから囲んで磨り潰す予定であった、との証拠でも在る為に、早めに気付けて良かったと思えるだけまだマシだろう。



 なんて事を考えつつ、徐々に乱戦へと移行しつつある戦場へと飛び込み、刃を振るって行く。


 流石に、完全に討ち取って手柄を横取りする様な真似はせずに、注意の逸れている個体の背後から襲い掛かって手傷を与えて離脱したり、膝裏や踵等に攻撃して機動力を奪ったり、足を折らせて急所たる頭を下げさせたり、と通常個体と相対している兵士達に対しては、支援や援護をするのに徹していた。



 当然、最初は兵士達にも驚かれる事になった。


 それまで、唐突に追撃を取りやめたと思ったら姿を消していた雇われ指揮官が、またしても唐突に姿を現したと思ったらいきなり援護し始めたのだから、最初に見掛けた兵士達はどう対応したら良いのか判断に困った事だろう。



 とは言え、そこは流石の精鋭達。


 最初こそアレスが何をしたいのか?と戸惑いを見せる場面もあったものの、それでも撃破に協力してくれるみたいだから、と特に気にする素振りを見せるのを止め、即座に彼を利用する形での戦闘へと切り替えて行ったのだ。



 そうして通常個体を倒している内に、目立つ様になるのが特異個体。


 通常のソレよりも大きく、強く、それでいて何かしらの特殊なスキル等を所持しているが故にそう呼ばれるモノ達は、流石に精鋭と呼ばれる彼らであったとしてもやはり相手取るのは難しいらしく、向こうが手足を振るう度に、少なくない人数が吹き飛ばされ、弾き飛ばされて行く姿が見て取れた。



 そんな特異個体を見付けると同時に、アレスは地を蹴り駆け出して行く。


 ジャイアント種としては珍しく、魔法を使いながら暴れ回るその個体に対して気配を殺しながら近付き、至近距離にて自らも魔法を放って攻撃し、隙を見て膝を狙う。



 そうして戦っていると、自然と彼らの周囲からは人が退き、人垣によって闘技場が形成される。


 勿論、彼らが相手にしているのはあくまでも魔族配下の魔物であり、彼らへと付き合う義理も理由も必要も無い為に普通に襲い掛かって来るが、ソレに対しては複数人にて掛かり、猛烈な反撃を加えてあっと言う間に対処してしまう体制がいつの間にか出来上がっていたらしく、その露天円形闘技場が崩れる事は一度も無かった。



 強固な肉体だけでなく、魔力による強化や魔法迄も駆使した特異個体が、漸く膝を地面へと突く。


 流石のアレスも、膝裏に刃を突き込むと同時にカウンター気味に岩の槍が突き出されて来るのは想定外であったらしく、浅くしか傷付けられなかったり、想定外の速度で傷を癒やされたり、と幾分か手間取る事態となっていた。



 が、それでもそういった手札が在る、と分かれば話は別。


 次の攻防からは、魔法を使われる事も回復速度が早い事も折り込み済みで戦略が立てられており、確実に攻略されて敗北を喫し、こうして膝を突く事となっていた。



 …………それまでも、功績と共に実力を示していたアレス。


 だが、こうまでして直接的に『力』を誇示する形になるのは初の事であり、また相手は自分達では手に負えなかった存在であった、との事から、周囲にて観戦していた兵士達の士気は爆発的に高まって来ており、アレスの事を指揮官として、自分達の上へと立つ者として認めない様な者は、その場には一人も残されてはいなかったのであった……。




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