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『追放者達』、巨人の軍勢と激突する・3

 


 自ら作り出した陣地から飛び出したアレス達が暴れ始めて暫し経過した頃。


 彼らの撃破スコアは、既に二桁に届こうとしていた。



 周囲に広がる、凄惨な光景。


 地面は血で泥濘み汚泥と化しており、その中に湯気を上げる臓物とその内容物の放つ悪臭が混じり合う事で、下手をしなくとも文字の通りの『地獄』が現し世へと顕現する事となっていた。



 流石に、その頃には巨人側としても、アレス達に足元に潜られるのは不味い、と判断したらしく、大きく戦線を後退させる事になる。


 そのまま、遠距離からの火力によって範囲攻撃を、と考えていたのだろうか、それとも他にも何かしらの策でも有ったのだろうが、流石にそこまであからさまに距離を取られては、なにか企んでいます!と声高に宣言している様なモノであり、当然の様に既にそこには彼らの姿は存在していない。



 …………では、彼らは何処に在るのか?


 その答えは、一つ。




 アレスを除いた他のメンバー達は兵士達と共に、要塞の側まで下がっている、だ。


 彼らが暴れる事で稼いだ時間により、先に嵌っていた十体程の個体をキッチリと片付けた彼らを引き連れ、一旦戦線を下げる事で仕切り直しとすると同時に、アレスが感じた違和感と心残りを解消するべく行動していたのだ。




 何故、そのまま攻め続ける事をしなかったのか?


 それは、先に述べた通りに何かしらの企みが在るのだろう、と考えただけでなく、巨人達の後退が罠である可能性があり、アレス的にはソレに心当たりがあったから、だ。



『釣り野伏』


 とある稀人がこの世界に持ち込んで来た戦法の一つなのだそうだが、なんでもわざと敵の攻撃を受けて被害をある程度装ってから、一度撤退するらしい。



 当然、そんな事になれば、敵対している側としては少しでも被害を広げる為にも、半ば反射で追撃を行う事になるだろう。


 そうして、引いた戦力に対して追い掛けて突出した敵戦力を、左右や別の場所に置いておいた戦力によって包囲し、擦り潰してしまうのがその『釣り野伏』と言う戦法なのだとか。



 最初にソレを副官から聞いた時にアレスは、二つの事を考えた。


 一つは、異世界の稀人ってそんなえげつない戦術を盤面の上で考えるだけじゃなくて、躊躇う事無く実行出来るとかどんな頭してるんだ?とのドン引きと表現するのが相応しいモノであったが、同時にもう一つの事を考えていた。




 それは、そんなに上手く嵌まるモノかね?といった疑問。


 使う方にも、絶妙に被害を出して見せつつ撤退するタイミングを図る事は必須となるし、上手い具合に伏せていた戦力を投入出来ないと、ただ単に敵の戦力を自陣の奥まで招き入れるだけ、となりかねない。



 それに、使われる方も、そこまで考え無しに突撃するか?と素人ながらも考えてしまう。


 多少なりとも注意を周囲へと向けていれば、伏兵の置けそうな場所や状況にも気付けるだろうし、何より無防備に見えたとしても企みを以て行動している者の動きは、他とは違って見えるハズなのだから。



 そんな風に事前に思考を捏ねくり回していたからか、アレスの目には巨人達の撤退する様が、かなり意図的なモノの様に写っていた。


 何せ、彼らが足元に滑り込み、大暴れしている最中であっても、後続の部隊が押し寄せて来る事も、味方を巻き込む様な魔法による範囲火力が飛んで来る様な事も無かったのだ。



 大将であるスルトが、思った以上に部下想いで巻き込む事を厭ったから?


 だったら、流石に自らがさっさと前線に出て来るか、もしくは罠に嵌った個体を助けるべく、何かしらの方策を取ったに違い無い。



 では、ただ単に、ソレを思い付かなかった?


 そこまでの脳無しで力任せな阿呆であれば、かつて交戦した時に仲間達が既に討ち取っていたハズだからそれも有り得ない。



 ならば、何かしらの仕込みが在るハズ。


 しかも、ソレに嵌ってしまっては、ただそれだけでこの戦場の趨勢が決してしまう程の、極大のモノが、だ。



 そんな、予感や勘にも似たモノを感じ取ったアレスは、急いで仲間達を集めると、一旦引き返す事を提案する。


 様々な経験を積んでいたヒギンズだけは、即座にアレスの懸念に気付いたらしく反対せずに賛同してくれたが、そうでは無い他の面子は『流石に考えすぎだ』として追撃を仕掛ける様に、と提案して来た。



 それらの反対を押し切り、撤退を選択したアレス。


 と同時に、陣地の中で始末を終え、興奮と高揚によって士気を昂らせながらも、同時に少なくない疲労と負傷とを負っている様子であった兵士達を休ませる事も兼ねて、全員で揃って要塞の近く、開戦時と同じラインにまで下がる事となったのだ。



 当然、その判断は副官を始めとした者達によって批判される事となった。


 幾ら兵士達が疲弊していたとしても、それはまだ戦闘の高揚によって幾らでも誤魔化しの効く範囲のモノであり、あのまま追撃しておけば戦場の趨勢を決する事も不可能では無かったのだから、と。



 ソレに反論するべく、アレスは再度斥候を放つ。


 彼の予想が正しければ、あのまま釣られるがままに進んでいたら、左右ないしソレに近い形で伏せられていた部隊によって挟撃を受け、多大な被害を出す事になっていたハズなのだから。



 勿論、今回はアレス本人も同行する事となった。


 前回は危険性が高過ぎる為に指揮官を送り出す事は、と理由を付けられて押し留められる事となったが、本来であればこの場に於けるその手の斥候系技能が最も高いのはアレスである為に、詳細な情報を安全に得る、との事を鑑みると、やはり彼が行くのが最も手っ取り早くて効率的であった。



 幸いな事に、探るべき地点は判明している。


 巨人達が戦線を下げ、その上で陣地の奥まで下がらずに停滞していた周辺、その近くには高く茂っている森や林が幾つか散見される為に、そこを探って見れば良い。



 尤も、予めその辺りに伏兵を、と言う事では無いのだろう、とは思われた。


 何せ、そこには元々こちらも伏兵を出そうか、との案も有った為に、陣地を構築する際には偵察と調査を行っていたので、後から入ってそこに伏せる、だなんて事は不可能だ、と思われていた。



 それもあって、彼らはアレスの考えを否定していたのだ。


 兵を伏せられる場所も無いのに、そんな事が出来るハズも無い、ただの考え過ぎだ、と。



 だが、実際にはその『考え過ぎ』が現実のモノとなる。


 具体的に言えば、斥候として向かった彼らは、そこで木々の奥に隠れる少数の部隊を発見する事となったのだ。



 …………恐らくは、そこに伏兵を置いたのは意図的なモノ、であったのだろう。


 人間、一度自分の目で確かめた事は、例えソレが間違っていようと、ただの思い込みであろうと、半ば絶対的な事実である、として認識する事が多い。



 そういった認識を、利用される所であった、と言う事だろう。


 何せ、既に安全を確認していたハズの所から伏兵が、しかもアレスの目から見ても容易には倒し切れない、と判断出来る特異個体と思われる敵が追撃中に横合いから襲い掛かって来たとすれば、その被害は計り知れないモノとなっていた事だけは確実だろう。



 そんな、背筋の凍る様な予想と共に、自らの判断が間違ったモノでは無く、ただの怯懦と有りもしない恐怖に負けて下したモノでは無かったのだと理解し、アレスは安堵から胸を撫で下ろす事となる。


 そして、それと同時に、このまま伏兵として残り続けられた場合、やはり敵方の陣地へと深く踏み込む事が出来なくなる、と判断したアレスは、未だに潜伏しているのに気付かれていない事を確認した後、ユックリと刃を鞘から引き抜いて行くのであった……。




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