『追放者達』、巨人の軍勢と激突する
そう言えば、と言う様な態度にて、スルトより投げ渡された袋。
要塞の屋上にぶつかった衝撃にて口を縛っていた縄の様なモノが解け、中から複数の首が転がり落ちて来る。
それらは、全て見覚えの在るモノ。
より正確に言えば、例の謁見の間の一件にてアレス達を嘲笑し、オブシダン王によって釘を刺されていた、『高位貴族』を自称する者達の首その物であったのだ。
確かに、彼らは例の軍議にて除け者にされて以降、アレス達は王都であるピグマリオンにて見掛けた事は無かった。
故に、特に気にした事は無かったし、オブシダン王からも接触があった、とは聞いておらず、精々が領地に戻って引き籠もっているのだろう、と思っていただけに、裏切って寝返ろうとして、その結果呆気なく死んでいた、と言う事実に衝撃を受けざるを得ない状況となっていた。
とは言え、それは『無惨に殺された遺体を目の当たりにして衝撃を受けている』と言う訳では無い。
『魔物に身分を示してソレを相手が有難がって服従すると思い込んでいた愚か者がいた事実』に呆れながらも受けたモノである為に、字で起こすのであれば『笑撃』の方がニュアンスとしては近いかも知れない。
何せ、現にその場の誰も凄惨な現場を目撃してしまい、あまりの状況に言葉も出せずに固唾を呑んでいる、と言う訳では無い。
寧ろ、あの巨体でどうやってここまで綺麗に首を残しておけたのか、袋だとか口を縛っていた縄だとかをどうやって調達したのか、もしや自分達で作った訳では無いのだろうが、その状態にする知恵と手先の器用さを持つ個体が確実に存在する証拠と言えるのではないか?と小議論が発生した程である。
そう、誰一人として、彼らの死を悼んではいなかったし、ショックらしいショックも受けてはいなかったのだ。
尤も、相手方の情報を、意図していない形であったであろうが持ち帰って来てくれた事は、一同感謝している、とも言えたかも知れないが、特に亡骸の残りの部分が気にされる事も、寄越された首が弔われる様な事も無くそのまま放置され、流れ出た血で床を汚すのみとなっていたのだが。
そうこうしている内に、彼らの中でも一つの決着を見る。
恐らくは、途中で襲ったであろう人里か、もしくは首が所持していたモノを使っていて、縄の類いも同様であり、比較的小柄で知性も高くて手先の器用な個体か、もしくは自分達が知らないだけでその様な系統のジャイアント種が居るのだろう、との結論が出るに至ったのだ。
が、それと同時にそれまでほぼ止んでいた地響きと地揺れとが再び発生する事となる。
…………どうやら、スルトが自陣へと到着し、部下へと進撃の号令を下したらしい事が窺えた。
どうでも良い事に思考を支配されながらも、一同揃って一応は警戒を絶やさずにいた。
故に、特に驚愕に染まり、驚きのあまり行動不能になる、だなんて言う醜態を周囲へと曝す事にはならずに済み、さぁこれから決戦だ!と意気揚々と要塞の内部へと降りて行く。
当然の様に、要塞の内部でも外の様子は把握出来ていたらしく、精鋭と呼ばれるだけあって皆一様に戦の前兆に心躍らせている様子であった。
逞しくも頼り甲斐が在る彼らへと、順次戦闘配置に着くように、とオブシダン王が号令を次々に下して行き、自身も武装して出撃の準備を整えて行く。
そんなオブシダン王を横目に、さっさと要塞の外へと出てしまうアレス達『追放者達』一同。
指揮官として、とは言え、最先鋒を務める事となっているのだから、やはり最前線へと赴くのが当然の事であり、要塞の内部へと籠もっていては、例え一生掛けたとしても達成出来る仕事では無いのだから。
受けた仕事は、確実に熟す。
それが例え、成り行きで半ば脅される形でのモノであっても、半ば巻き込まれる形で仕方無く受諾したモノであっても、一度了承し、報酬が約束されているのであれば、それが如何なるモノであったとしても達成して見せるのが、冒険者たるアレス達の矜持であった。
共に突撃を掛ける予定の兵士達は、皆騎馬に乗ったり得物を手にしたり、と準備万端な様子にて戦意を昂らせている。
頼もしき戦友達の顔を確認したアレス達も、同じく意気揚々として戦意を昂らせている従魔達を一撫でして声を掛けてから、魔力庫より取り出したいつもの橇へと乗り込んで行く。
そうして準備万端に整った彼らは、遠目に見えて来る巨人の軍勢へと向けて一路突撃を開始!…………する事は無く、幾分か進んでから待機へと以降する。
部隊毎に整列し、燦然と輝く得物を構えている様は豪華絢爛その物であると同時に、ある程度戦略や戦術を理解する知能を持つモノが見れば、なにか企んでいるな、と気付くのは容易である、と言えるモノとなっていた。
が、そこは相手がジャイアント種の『魔物』である。
幾ら率いる大将が魔族となり、高い知性を獲得していて、スルト個人が『コレは不味そうだ』と判断出来たとしても、その部下達摩でもが同じ判断を下せる、とは限らない。
寧ろ、大きさの割に脳が小さく、実質共に『頭が悪い』事で有名なジャイアント種が相手となる。
下手をすれば、目の前に掘っておいた穴を用意したとしても、その先に獲物となる人間を用意しておけばそのまま引っ掛かって落ちる程度の知能しか持たないので有名な位なのだから、現状でも十二分に迷彩効果が発揮されてしまっている、と言えるかも知れないが。
そうして暫し待機していると、徐々に大きくなって来ていた地響きの主達が近付いて来る。
そのどれもが巨大であり、通常のジャイアント種の魔物が『大きくて五メルト程度』であるにも関わらず、見える限りでもこの場に展開されているのは『小さくても五メルト程度』の個体ばかりであり、中には十メルト近いモノも混ざっている事を鑑みると、最早人類が認識しているソレとは別の種族なのかも知れなかった。
が、大体の形は変わる事は無い。
別段、雀頭が二つ付いている訳でも、腕が四本に増えている訳でも、足が六本生えている訳でも、背中から無数の触手を生やしている訳でも無く、ただただ大きさが違うだけ、といった外見であり、基本の形は人と大した違いは無い。
見た目だけで言うのであれば、文字の通りに『巨人の軍勢』と呼べるだけの風情はあったが、言ってしまえばその程度。
流石に、心臓が二つ有ります、だとか言われたら話は別になるのだろうが、それはそれ、倒してから解体して漸く解る、程度の違いを評われた所で、別段大して倒し方が変わる訳でも無いのだから。
そうこうしている内に、巨人の軍勢の最先鋒が戦場予定地へと差し掛かる。
特に何も考えていないのか、それとも彼らが待機する場所にはまだ遠いが故に、何かしらの仕掛けが在るとしたらもっと進んでから、と思っていたのかは不明だが、特に警戒した様子も無しにそのまま足が踏み出される。
…………そして、足を踏み出した格好のままで、急に先頭のジャイアント種の身長が、数メルト単位にて下がる事となった。
突然の事に、後続のジャイアント種達も止まる事は出来ず、先頭の個体に続く形で前へと踏み出し、同じ様に身長を下げて行く。
漸く後続が危険を察知し、進軍が止まった時には、既に足を取られて身長を低くし、中には膝近くまで地面に掘られた『落とし穴』へと落し込んだジャイアント種の哀れな姿が十ばかり転がる事に。
そして、当然の様に、仕掛けた側としてそうなる事を把握していたアレス達は、その機を見逃すハズも無く、コレ幸いと鬨の声を挙げながら突撃を開始するのであった…………。