『追放者達』、呆れ返る
依頼の受諾を了承したアレス達は、早速とばかりに情報を求めた。
今現在、敵将ゴライアスが率いているのであろう軍勢がどの辺りにまで進行しているのか、観測出来ているだけで敵保有戦力がどの程度有るのか、決戦に使えそうな土地は有るのか、あったらどうすれば誘導出来そうなのか、そもそも使える自戦力はどの程度有るのか、等々、参戦する以上は知っていないと話しにならない情報ばかりであった。
当然、オブシダン王はソレを快諾。
更に言えば先鋒へと立候補していた歴戦の戦士達も、それは当然の事、として嬉々として自分達が把握していた情報を彼らへと開示しようとしていた。
が、そこに待ったを掛けた者達が居た。
例の、アレス達を見下し、嘲笑していた連中だ。
恥知らずにも、謁見の間から逃げ出す事もせずに留まり、我が物顔で居座りながらも結局最後まで参戦の意を表しなかった、自称『高位貴族』共は嘯く。
所詮は他国人であり、金で雇われるだけの冒険者に機密情報に等しいモノを与えてやるだけの価値は無いし、何なら使われるだけの立場に在る連中は知らなくても良い事柄なのだから、言われるがままに動いていれば良いのだ!と。
その中には、先程オブシダン王から名指しで特攻して来い、と言われていた者達も含まれていた。
が、名前を出されて頭を押さえ付けられた直後であればまだしも、自分達を脇に除けて事を決め、更に部外者を中心に据えて流れを決めてしまおう等と、権力を握る者として決して見過ごす事は出来ない!とでも言いたいのだろう。
どうせ、決戦にも何だかんだと理由を着けて自分達は参加せず、功績だけは掠め取ろうとしていた連中だ。
大方、言葉の通りにアレス達を軍の一部隊的な扱いに落とし込み、その指揮を自分達が摂ったのであり、即ち彼らの働きによる功績は大部分が自分達によって齎される事となったモノである、と言い出す心積もりなのであろう。
その場に居た者達は、当然の様にその考えを読み取っており、交渉にもならないであろう一方的な言い掛かりにウンザリした様子を隠そうともしていなかった。
血族の、国の危機であるのにも関わらず、自らの栄華のみを『善』とし、その過程やソレ以外のモノに関しては『悪』と断定する姿勢を貫き続ける連中に、オブシダン王も含めた全員が愛想を尽かした瞬間であった。
その雰囲気に、今更になって慌てる自称『高位貴族』達。
この『ハーフバギンズ』の中でも少なくない権力を握り、決して無視出来ない規模を誇る自分達の派閥の参戦は必須であり、ソレに対しての対価と自分達の貴族としての矜持と主張を通さんが為の交渉の前振りであったのだが、誰一人として乗って来る様子が無かったからだ。
しかし、それも半ば当然と言うモノ。
何せ、事は政治の場ではなく戦場での闘争が主な目的であり、目標となっている。
確かに、政治的なやり取りが皆無である、と言いはしないし、寧ろ兵糧や情報の取得・管理の観点から言えばかなり政治よりと言えるかも知れない。
…………知れないが、連中の派閥勢力はあくまでも政治的な方面にあらゆる面にて寄り過ぎている為に、今の様な現実的な腕力こそが必要とされる盤面に於いては、正直居ても居なくてもあまり変わりは無いのだ。
いや、寧ろ居ない方が良いだろう、とオブシダン王はポツリと呟く。
余計な事を言い出し、勝手に行い、折角整えた盤面と戦略とを目茶苦茶にされかねない可能性を考慮したら、居ない方がまだマシな状況になるのでは?との思いからの呟きであったのだろうが、ソレはアレス達を含めた主戦派の半ば総意にも等しいモノであり、その場に居合わせた者達の殆どが無言のままで同意していたモノであった。
これには、目に見えて動揺を顕にする自称『高位貴族』達。
普段であれば、どの様な場であっても一応は歓迎され、尊重されて来た自分達が、この様な土壇場に於いて参加してやっても良い、と言っているにも関わらず、素振りからして全く歓迎されていないだけでなく、あからさまに邪魔者を見る目で見られる羽目になっているのだから当然といえば当然なのだが、その原因が理解出来ているのであればこの様な事態にはなっていないだろう、と言うのが正直な所である。
尤も、理解出来ていなかったが故に、この様な厚かましくも空気の読めない振る舞いが出来ていたのだろう。
何せ、未だにこの状況であったとしても、総大将は自分達の中から選ばれる事は当然だと思っていたし、自分達の知略が有れば如何様にでも盤面は盛り返せるのだから、と先鋒を他の面々に押し付けて後方に陣取り、その上でアレス達を汎ゆる面にて喰い物にするつもりで居たのだから最早救いようの無い愚か者、と呼んでしまっても良いかも知れないが。
その段に至って、漸く自分達が歓迎されていない、寧ろ何故まだそこに居るのか、居られるだけで邪魔なのだが?と思われているらしい事に気が付いたらしく、『動揺』の次には『怒り』を顕にして行く。
自分達の戦力と知略とが無ければ敗北は確定的であると言うのに、ソレを排除しようとは何を考えているのか、寧ろそれが利敵行為であると何故気付けない!?と口々に主張を繰り返すが、最早場の空気は変えようが無い程に冷え切っており、オブシダン王を含めて全員が完全に彼らを有能な敵よりも面倒で無能な味方だと判別している事が、余程鈍感な者であったとしても手に取る様に分かってしまう雰囲気となっていた。
「…………く、くっ!
そこまで言うのであれば、望みの通りに出て行ってやろうではないか!
だが、覚えておくが良い!
これで、貴様らの敗北は確定した、とな!!」
「…………うむ、当然だな。
そもそも、我らを排除し、そこな金銭のみで動く下民を頼りとした段階で、既に間違えていたのだ。
ソレを理解出来ぬのだから、最早貴様らに先はあるまい」
「事が終わった後に後悔するが良いわ!
いざその段に至った際に我らを頼りとしてきたとしても、受け入れて貰えるとは思わぬ事だ!
それだけの事を、貴様らはしているのだと欠片は理解する事だな!!」
口々にそう吐き捨てて、派閥の者達を引き連れ謁見の間から退出して行く自称『高位貴族』達。
その様子には、大体の国内の事柄ならば把握しているハズのオブシダン王すらも首を傾げていた。
…………王の御前である謁見の間にて、好き勝手に貴族が振る舞う。
ソレは、対外的な立場として同格に近く、それでいて王の下に保証されている訳では無い立場に在るアレス達であればまだしも、その庇護下に在って漸く身分が整えられている貴族達がして良い振る舞いでも、出来るハズの振る舞いでも無かったからだ。
要は、貴族としての身分を失う言動、と言うヤツである。
貴族である事、が自身を定義する上での第一義である連中が、ソレを投げ捨てる様な振る舞いをして良しとするのか?ましてや、国が無くなれば身分なんてモノは紙屑以下にしかならないと言うのに?
「………………まるで、敵方に内通していて、自分達だけは滅びから逃れて支配層としての身分を保持する手段を持っています、と公言してるみたいな態度だったな?
え、マジで?ガチでやってたりする訳?ソレ、本当に通じてるのか?」
半ば以上呆れに塗れたアレスの言葉は、その場に居合わせた者達の心の声の代表の様なモノであり、総意として肯定の頷きが無言のままで返される事となったのであった……。