『追放者達』、護衛する
「いや、悪いね?
君達みたいな高位の冒険者に、俺みたいな端役の衛兵の護衛なんてやらせちゃって。
でも、報酬は期待してくれて大丈夫なハズだから!
こういう事態の際に、冒険者に対して同行と同時に護衛の依頼をした際の報酬は、ちゃんと国が払ってくれる決まりになってるからさ!」
アレス達『追放者達』の駆る橇へと同乗した『オルグ』と名乗った衛兵長は、陽気に燥ぎながらそう告げた。
しかし、彼が基本的に任期の間は張り付きっぱなしになる国境警備の任に就いていた事と、よりにもよって護衛任務をアレス達がやっている、と言う事実を前にしては、やはり仕方のない事だ、と言えるだろう。
そもそも、冒険者が請け負う事もある『護衛任務』だが、コレは基本的に中堅層の冒険者しか受けない依頼となる。
実力の足らない駆け出しでは受けられないのは当然として、実績も信頼も実力もある高位の冒険者達が受けないのは何故か?と問われれば、それはやはり『必然的に』との答えになるだろう。
先ず、前提条件として挙げるとすれば、冒険者の仕事はあくまでも人々の生活圏を脅かす『魔物の排除』が基本にして主なモノであり、ソレ以外は『出来ればやる』『小遣い稼ぎに』程度のオマケとなる。
冒険者ギルドへと寄せられる依頼の中で、確かに『採取』や『納品』の依頼も多くはあり、スキルの構成や本人の気質等によってそれらを専門的に処理する者も居なくは無いが、それでもギルド内部でより評価点の高い依頼とはやはり『討伐』の依頼となり、一番有難がられるのは直接的な脅威の排除、となるのだ。
そこから鑑みれば自ずと答えは見えてくるが、高位の冒険者へとギルドから回される依頼は、基本的に『討伐』依頼となる。
勿論、自らの意思にてソレ以外を選択して受諾する事も可能ではあるが、やはり優先されるのは魔物の討伐であり、護衛等は後回しにされ易いのだ。
そうなると、そういった依頼を受けるのはどの様な層になるのか?
答えは、高位にまだ届かず、それでいて実力に定評が有って、かつ道中にて護衛対象を故意的に『消し』て荷物や金品を奪い、それでいて【魔物に襲われたから】と虚偽の報告をして依頼の失敗に偽装したりしない、との信頼がある程度寄せられている状態となる、中堅層の冒険者達、となるのだ。
これには、高位、と呼ばれる層へと駆け上がろうとしている様な状態の冒険者達も含まれ、ランクで言う所の『Cランク』の上位から『Bランク』に成り立ての辺りまでが入る事となる。
故に、かつてのアレス達もその対象となっていたのだが、彼らの場合、他の冒険者達の様に昇級の境目にて装備の更新に追われていたり、その結果財布事情が切迫したり、といった切実かつ深刻な問題に直面する事も無かった為に比較的高い報酬に釣られたりしなかった上に、指名依頼として投げられる事も無かった為に今の今までドヴェルグとの一件以外に縁が無かったが、普通は一回位は経験しているモノであったりもする。
そんな訳で、彼らの様に高位の、しかもSランクにまで至っている冒険者に護衛されて移動する、だなんて事は、基本的には起こり得ない。
やろうと思えば出来なくは無いだろうが、それでも可能とするのは極親しい間柄を形成出来ている個人か、もしくは国王やソレに匹敵するだけの財力を持つ者による指名依頼位だろうが、それをするのなら自らが子飼いにしている戦力でどうにかしてしまう方が健全かつ安上がりになるのだから基本出す側も誰もやらないのだ。
それに、高位の冒険者を護衛に雇って移動する、と言う事自体が、半ば無駄の極みみたいなモノでもある。
強大な魔物に対抗できるだけの力を持ち、ソレを実際に打倒し駆逐出来るだけの戦力を振るえる冒険者を、タダの護衛として連れて歩くなんて事は、言い換えてしまえば料理をするのに特大剣を持ち出す様なモノだ。
あからさまに用途を間違えているし、確実に余剰火力に過ぎるが故に、その手の運用には向いていない、と言うのが理由の一旦であったりもする。
ソレをするのであれば、前述した通りに、人々の脅威となっている魔物を素直に討伐して回っていた方が、回り回って護衛依頼を出す様な人々に対しても安全を保証出来る様になる、と言うモノなのだからある意味皮肉な事柄とも言えるかも知れないが。
そうして、オルグを護衛しながら進む事数日の間。
現地民特有の土地勘により、付近の地形に手間取る事無くスムーズに進み、かつ襲い掛かって来た魔物は尽くアレス達の手によって駆逐された為に、特に足止めを食らう事も無く目的地であった小人族の国である『小人国ハーフバギンズ』の首都『ピグマリオン』へと至る事に成功していた。
「………………わぁ、本当に着いちゃったよ……」
「いや、一応は説明しただろう?
多分そこまで掛からずに到着するぞ、って」
「いや、でも、普通は俺達の足だと歩いたらあそこ(国境)からここまでなんて軽く一月は掛かる距離なんだし、どんなに急いでも半月以上は掛かるのが普通なんだからな?
こんな、三日四日程度で到着出来るだなんて、普通は無理だからな?」
「でも、こうして出来てるんだから仕方無いだろう?
それに、情報自体はさっさと上げないとヤバいヤツなんだから、早いに越した事は無いハズだ。
違うか?」
「………………いや、ソレはその通りなんだが……」
「なら、早い所やる事やってしまいなさいな。
緊急時依頼の手続き云々がある、って話だからまだ暫くはここに滞在する予定だけど、あんまり長引かせ無いで欲しいんだがね?」
「分かった、分かったから、勝手に何処かに行くんじゃないぞ!
大丈夫だとは思うけど、可能な限り早く手続きは終わらせるし、それに伴っての説明とかを求められる可能性も無くはないから、ちゃんとこの『ピグマリオン』に居てくれよ!?
良いな!?」
護衛の期間の間にそれなりに打ち解けたアレスは、仲間を代表して『分かったからさっさと行って来い』と言わんばかりに、手をヒラヒラと振って見せる。
そんな彼の様子を見たからかそうでないのかは不明だが、時折振り返りながらもオルグは首都の行政機関の建物の一つへと歩み寄って行き、自らの配属と階級を示す徽章を示して番兵と会話をしてから内部へと入って行く。
ソレを見送ったアレス達は、取り敢えず星樹国にて散財した分の補填を目標として、冒険者ギルドの支店を探して行動を開始する。
そして、思った以上に小さなギルドに巨漢と呼べるガリアンが辟易する羽目になったり、子供と勘違いして接近を許したセレンが痴漢紛いな事をされかけて相手を殴り飛ばした(物理)り、比較的身長の低いタチアナがナンパされてヒギンズがキレかけたり、ナタリアが従魔達共々に子供から大人気となったりする一幕もあったりしたが、取り敢えず道中に狩った魔物を換金する事には成功し、路銀を補充する事が出来ていた。
その資金にて宿を取った一行が、観光も兼ねて首都『ピグマリオン』へと滞在すること早数日。
アレス達『追放者達』一行は、行政機関の建物への出頭命令………では無く、何故か『王宮』への召喚命令が降される事となったのであった……。