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『追放者達』、国境に至る

予告通りに新章開始します

 


 森人族が暮らす『星樹国ユグドレミア』が魔王軍によって倒れた。



 その報せは、瞬く間に各国へと広がって行く事となった。



 元来、鎖国政策を取っていた星樹国であった為に、交流、と呼べる程の関係性を築けていた国は殆ど無かった。


 が、そうであったとしても、個人レベルでは他国へと流出していた森人族はそれなりの数が居た上に、長い生を自己研鑽へと充てる事を厭わない気質の者が多い種族でもあったが故に、高い能力を以て地位を得ていた者も少なくは無い状態となっていた。



 故に、ある者は事の真偽を確かめるべく奔走し。


 故に、ある者は知己の者の無事を天へと祈り。


 故に、ある者は故郷の滅亡の報を前にして悲嘆に暮れ。


 故に、ある者は自らの目で確かめるべく現地へと向かった。



 そうして行動を起こした者達は、必然的に生き残った者達へと行き着き、彼らが他国からの支援の元、暫定政府として立ち上げた難民達の集団へと接触する事となる。


 当時の事を調べれば調べる程に、頻出して来る一つの名前。



 他国からの干渉を拒み、冒険者ギルドの支部の一つも無かった国に、偶然立ち寄った冒険者パーティー。


 地位を得ていた者であれば、小耳に挟んだ事もあったかも知れないその名前は、彼らの行い、振る舞い、実力を、直に目にした者達から伝え聞く事となる。



 そこで、彼ら彼女らは改めて『彼ら』を知り、認識する。


 聞いた事の在る名前、では無く、実感を伴い、実力を識り、人伝とは言え人柄や思想にも触れる機会を得る。



 ソレを契機として何を想うのかは、個人の判断に委ねられたモノとなる。


 故国の滅亡を前にして何故助力しなかったのか!?と憤慨する者が居るのと同様に、そこまでして身を呈した助力を!と歓心を抱く者も当然現れた。



 故に、その者達はより深く知ろうと周囲へと話を持ち掛ける。


 同様に、地位の在る者達へと、貴方達は『追放者達(アウトレイジ)』と名乗る冒険者パーティーの事を知っているだろうか?と。



 斯くして、彼らの名は彼らの意図せぬ形にて、意図せぬ場所にて広がりを見せる事となる。


 それが、悪名として天下に轟く事となるのか、はたまた希望の徴として仄かな光を放つ事になるのかは、まだ誰も知らない……。






 ******






 多方面にて、彼らの情報を求めて人々が動き出していたのと同じ頃。


 当の本人であるアレス達『追放者達』は、漸く元星樹国の周辺に生い茂っている森を抜ける事が出来ていた。



 元より、森人族自体がそういった環境を好んていた、と言う事も無くはなかったのだが、彼らにとっては森は生活の場であると同時に戦場であり、かつ防壁でもある存在であった。


 故に、彼らが国境である、と認識していた地点までは須らくして森に覆われた状態となっており、周辺国としてもソレに抗議できる伝手も無ければ実力を以てどうこう、と出来る程の余裕も無かった為に、その方が都合が良いから、と半ば済し崩し的に制定された領域となっていたのだ。



 …………一応、彼らとしても、先の結果に全て納得し、呑み込めている、と言う訳では無い。


 が、彼らのみが取って返し、未だに展開しているであろう敵戦力へと突撃を仕掛けたとして、その内の幾分かと相打ちになって果てたとして、下がるのは彼らの溜飲のみである、と言うのならば、ソレを実行しなくてはならない道理も、また存在しないのである。



 彼らの場合、生きて活躍してこその冒険者であり、その方がより多くの『救い』へと繋がるのだから、なおさらの事。


 死んで満足出来るは当人のみ、とはよく言ったモノである。



 彼らは、冒険者故に無償での働きは決してしない。


 例え、後払いであろうと、半ば支払いが見込めない依頼主からの依頼であったとしても、その当人や周囲の環境を鑑みて引き受けた、と言うのであればまだ別だが、そうでない状況に命を賭けるハズも無い、と言う事だ。



 尤も、そうして活動していれば、必然的に『恨み』を買う様な事態になる事も在る。


 今回も、既に首都が落とされてしまっている為に報酬も見込めず、どうしょうもない、と言う事情があった故にさっさと撤退を選んでいたが、どうやら特大の恨みを買って執着されている、と容易に判断出来る状態となってしまっていたが故に、周囲を巻き込んでまで速攻で尻をまくって逃げ出した結果の現在である、とも言えなくは無かったりする。



 そんな訳で、元星樹国の国境線を超えたアレス達であったが、彼らの視界には何も写ってはいなかった。


 いや、正確に表現するのであれば、今までのパターンであれば直ぐにでも目に飛び込んで来たであろうハズのモノが、開けている視界の中に入って来なかった、と言うべきだろうか。




「…………あら?

 見当たらんな?()()

 本当に、こっちで合ってるのか?」



「ふむ?

 地図によれば、この辺りで間違い無いハズであるが……。

 よもや、当方等が現在地を読み間違えたのであろうか?」



「ですが、小人族との国境線は、こちらのみになるハズですよ?

 少なくとも、私としましては、こちらの方向以外に国境が接している、とは聞き及んではいないのですが……」



「なら、この辺で合ってるんじゃないの?

 まだ見えてない、ってだけなんだし、間違ってるって決め付けるのも良くないんじゃない?

 まぁ、小人族、って呼ばれるだけあって作るモノも小さいから見えてない、って可能性もあるかも知れないけど」



「ちょっと!?

 それは、流石に暴論に過ぎるのですよ!?

 いくらボク達が種族的に小さいから、と言っても、こんな膝丈の草原のど真ん中に紛れて見えなくなる位に小さいモノ作るわけが無いのですよ!?

 冗談とは言え、それはちょっと言い過ぎなのです!!」



「なっはっはっ!

 仲が良いのは良いことだけどね、タチアナちゃん?

 それでも言葉には気を付けた方が良い事も多いよぉ。

 特に、オジサン達みたいに過去でアレコレ経験してたりする人相手には特に、ねぇ?」



「…………うっ、その……悪かったわよ、からかって。

 流石に、言い過ぎたわ」



「あ、いえ、その、大丈夫なのです。

 流石に、ちゃんと冗談の類いで本気では言ってない、とは理解していたのですよ」



「うんうん、良き良き。

 …………それはそれとして、関所は何処だろうねぇ?

 勝手に入っちゃっても良いなら別に良いんだけど、そうでないと後が面倒だからねぇ〜。

 オジサン、国からはこっちを経由しないで出たから、この辺はあんまり詳しくは無いんだよねぇ」




 そう言いながら、額に手を翳して周囲を見回すヒギンズ。


 普段の言動と相まって、あまりにもしっくりと来過ぎる動作に橇の上が笑いに包まれるが、本人は唯一キョトンとしており、オジサン何か面白い事でもしたかぃ?と頻りにアレスへと問い掛けていた。



 そんなこんなで未だにチラホラと雪が残り、それでいて追加で降る事も無く、弛んだ気温によって解け始めている事が察せられる、非常に足元の悪い草原を橇にて突き進んで行く。


 当然、泥ハネや半ばミゾレと化した雪の跳ね上げはそれまでよりも酷くなっていたが、それだけでなく魔物も冬開けが近付いて来たからか活動が活発になり始めているらしく、遠目からもその姿を確認出来る様になっていた。



 そんな、冬眠開けだったりで腹を空かせた魔物の至近距離を、獲物として見定める事が出来る様な存在(人間)が通り過ぎればどうなるか?


 答えは単純明快にして至極簡単。



 喰い殺そうとして襲い掛かって来る、の一択である。



 様々な魔物が、よだれを溜らせながら彼らへと向けて牙を剥いて襲い掛かって来る。


 が、それらは特に注視される事も無く、また橇が止まる事も無いままに、魔法や矢、投擲、不可視の攻撃等によって次々に討ち取られ、また死体は回収されて行く事になる。



 そうして、進み続ける事暫しの間。


 漸く彼らの視界の先に、小さく関所と思われる建造物が映る様になって来たのであった……。




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