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閑話 追放した者達の今・4

 



「はぁっ!?

 既に滅んだぁ!?!?」




 決して広くは無い会議室に、そんな声が響き渡る。


 呆然とする様子を隠そうともせず、叫び声を挙げたのは、この世界へと意図的に喚ばれた【稀人】にして『勇者』であるシカノスケ。



 彼がリーダーを務める冒険者パーティーは、とある要請をカンタレラ王国から受けたが為に、とある国へと目指して移動している最中であった。


 が、その国である『()()()』から送られて来たのであろう、最初の救援を求めるソレとは異なる追加の使者によって齎された情報が国へと開示され、それがシカノスケの所まで降りてきた、と言う訳なのだ。



 最初は、魔族からの侵略を受けている、と言うモノ。


 ほぼ国交を絶っている間柄であったが、今回救援として用意出来たと聞いている『勇者』を送ってくれるのならば、カンタレラとの国交を開いて()()()()()()、との内容であり、そのまま攻め滅ぼされて人類側の戦力が減少するよりは、とシカノスケが派遣される運びとなった。



 …………だが、最新のソレはほぼ使者の体すら保てておらず、最早敗残兵の類いかと思われる程にボロボロで。


 しかも、齎した情報は、六魔将二体掛かりで王都を攻め立てられ、王族を筆頭に強力な戦力となり得たであろう手練れや軍部の精鋭部隊は軒並み壊滅し、王都は焼き払われて灰と化し、周囲に放つ特殊な魔力にて魔族や魔物に対して妨害術的な働き掛けをしていた星樹は伐り倒される事となった、のだとか。



 更に、かつて星樹国であった土地は今も蹂躙され続けているそうで。


 なんでも、王都の攻略を凄まじい速度にて終わらせた六魔将の片方が、それが終わるやいなや周辺の街を更地にする速度にて部下と共に蹂躙を開始し、今では中心地から殆どの街が潰され、国境に近しい場所の者達が辛うじて脱出して難民と化しているとの事であった。



 それらの情報を、最寄りの冒険者ギルドへと招聘されたシカノスケへと伝えられた際の最初の反応が冒頭のモノであったのだが、ソレを伝えた者は違和感を覚える。


 何故かシカノスケからは、間に合わなかった、といった様な悲壮感か、助けられなかった、といった悲哀が特には感じられず、ただただ驚愕のみが発せられていたからであった。




「おい、おいおい!おいおいおいっ!?

 なんで、なんでもう滅びてんだよ!?

 俺様が、今向かってる最中だろうがよ!?

 そこは、無理矢理にでも保たせて、主人公たる俺様の颯爽とした対魔族戦のデビューを飾る場面だろうがよ!?

 巫山戯るんじゃねぇよちっとは空気読みやがれ!?!?」




 …………が、その驚愕も、どの様な類いのモノとして捉えていたのかは、彼が口を開く事によって判明する事となってしまう。


 その場には、ギルドからの連絡要員も兼ねてシーラも同行していたが、それだけでは無く命からがら逃げ延びて情報を齎した使者(と言う名目の代表代理)までもが、命を張ってでも協力してくれる予定となっていた冒険者、に対して礼を言いたい、と同席しており、眼の前で吐き出された言葉に愕然としているとさらなる暴言がシカノスケの口から吐き出されて行く。




「…………ったく、マジで使えねぇなこの世界のエルフってやつは!

 舞台装置なら舞台装置として、主役たる俺様の活躍の盛り上げを死守して当然だろうがよ!?

 しかも、王族の類いも軒並み全滅だと?

 これじゃあ、あの聖女みたいなバインバインのエロフを仲間に引き入れてからのお愉しみ♡どころか、活躍を見せ付けた俺様に対して王族から『是非に!』と王女の嫁入り展開が欠片も期待出来ねぇじゃねぇか!?

 そんなの、テンプレ外れ過ぎて新展開どころかタダの糞展開じゃねぇか!?

 まじでクソ使えねぇな!?!?」




 流れる様に吐き出されて行く暴言の数々。


 あまりにもあまりな状況に、シーラが口を閉じさせる事も出来ず、同席していた森人族も、自らの同胞を道具の様にしか思っていない事が透けて見えるその様子に、嫌悪の感情を滲ませながら吐き捨てて行く。




「…………なんと、ここまで醜いとは、な。

 我らの同胞を、まるで性具か何かかと勘違いしている様にしか見えぬではないか。

 これでは、鎖国して国交を閉ざしていた事すら正しく思えてならんよ。

 やはり彼ら、『追放者達(アウトレイジ)』のみが特別であった、と言う事で間違いは無かったのだろうな」



「………………あ″ぁ″!?」




 思わず、といった風に使者の口から零れ落ちたその言葉。


 一人を除いてその場の誰しもが、内心では欠片も否定出来ない台詞に対してシカノスケただ一人が、過剰に反応して激昂した様に使者の森人族へと詰め寄って行く。




「なんだと、てめぇ!?

 森に引きこもって腐ってやがった連中が、てめぇ等のケツも拭けねぇで『救けて下さ〜い(泣)』とか抜かしやがるから、わざわざ『勇者』たる俺様が助けに向かってやってたっていうのに、その口利きは何様のつもりだ?あ″ぁ″!?!?

 そんな連中を助けに行ってやろうとしているってんだから、ソレに対する報酬を求めて、何が悪いって抜かすつもりだよこのクソ雑魚がよぉ!!!」




 口汚く罵声を発し、一人静かに腰を下ろしていた使者の胸元へと向かって手を伸ばすシカノスケ。


 大方、胸倉を掴み上げて吊り上げ、そのまま揺すって恫喝するなり、謝罪を引き出して自らの溜飲を下げるなり、と凡そ使者に対して行う行為では無いモノをするつもりでいたのだろう。



 …………が、シカノスケの予想とは裏腹に、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、軽い様子で気伸ばされた手を払い除けると、逆にシカノスケの無防備に踏み出されていた足を払い除けてしまう。


 重心を崩して床へと倒れ込みそうになったシカノスケは、咄嗟に払われた足を更に前へと踏み出す形で踏ん張る事になり、必然的に前傾姿勢を取らざるを得ない状況となったが、そこへは既に森人族が迎撃のための膝を突き出した状態となっており、双方が勢いを付けてぶつかり合う事となった。



 そうなれば、どうなるか?


 答えは簡単、シカノスケの顔面に、森人族の使者の膝がめり込む形になる、である。



 派手に鼻血を吹き出し、無様に床へと転げ落ちるシカノスケ。


 そこに悲鳴や苦鳴の一つも無く、軽く痙攣している様子から衝撃と苦痛によって一撃で気絶させられたのであろう事が察せられた。



 …………誰しもが望まぬ沈黙に支配される室内。


 シーラは頭痛を堪える様にこめかみへと指先を添え、シカノスケのパーティーメンバーは愚か者を見る目を隠そうともせずに『勇者』を放置し、使者はまるで『何故先の一撃が決まったのだろうか?』と自らの行いを、まるで不思議な魔法でも働いて起きた出来事だ、と認識している様に眺めながら、不意に言葉を零して行く。




「…………なんと、ここまで弱いとは、流石に思っていなかったのだが……。

 この程度では、あの戦闘で出ていた前座の『傀儡』が精々で、敵の大将と共に出て来た精鋭や、王都へと攻め寄せて来ていたモノを相手にしては、一方的に狩られて終わる程度でしか無いぞ?

 しかも、報酬は受け取って当然?

 彼らは、確かにソレを口にはしたが、結局ソレを受け取るどころか身銭を切って難民達を安全に避難させた上に、自身の信用を使ってでもその後の生活を保証して見せたと言うのに、要請に従って送られたのが『コレ』では、些か失望をしても仕方無いとは、人間諸族は思わないのだろうか……?」




 その呟きはあまりにも重く、そして今はこの場に居合わせていない者に対する感謝と称賛に満ちたモノであり、より部屋の空気を重苦しいモノへと変化させるのに充分過ぎる程の威力を持っていたのであった……。




取り敢えず次回から新章始まります

ここまで無駄に長かったので少々巻きで行こうかと

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