『追放者達』、敗走する
王都が陥落した。
その報せをアレックスから耳にしたアレス達の行動は、正に『迅速』の一言に尽きるモノとなっていた。
…………尤も、それはあくまでも『反撃』の為、では無く、『逃走』の為のモノ、であったが。
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情報を齎したアレックスが呆然とする前で、アレス達は素早く、的確に行動予定を立てて行く。
それと並行して、未だにこの街へと滞在していた部隊の指揮官へと話を通し、住民達を避難させる様に促して行く。
幸いにして、森人族は高い魔力と操作性を持ち合わせる種族である。
職業選択の幅はそこまで大きく広くは無いかも知れないが、冒険者等の戦闘職であれば雇用口自体は多く在るだろうから、そこまで生きるに困る事にはならないだろう。
そう考えつつも、取り敢えず有って困る事は無いだろう、とアレスは直筆の紹介状まで認めて行く。
仮にも『Sランク冒険者』としての地位に在る者の紹介状であれば、例え他の拠点であっても有用であるのは間違い無いし、況や彼らが拠点としているアルカンターラであれば、絶大な効力を発揮する事になるのは間違い無いだろう。
ソレを指揮官へと渡しつつ、一応逃げ延びる先としてアルカンターラを勧めておくアレス。
その間にも、焼け出された、とまでは行かなかったが、それでも少なくない被害を受け、使えるモノを掻き集める段階であった住人達は、急いでそれらを纏めて街を離れる準備を進めて行く事となった。
…………とは言え、それも全ての住人が自主的に、と言う訳でも無かった。
当然の様に、反撥して避難を拒む者や、アレス達の武力を頼りに王都を奪還するべきだ!と声高に主張する者達が現れたのだ。
前者は、当たり前だが例の『人間なんてとんでもない!』な世代の連中。
人間が出した指示に従うだなんて死んでもごめんだし、何より王都が陥落し国が無くなったとしても、この街までまた責められる確証なんて無いのだから、住み慣れた場所を捨ててまで避難なんてする必要は無い!との事であった。
そして後者は、比較的若くて血気盛んな年頃の連中が中心となって騒ぎ出した。
彼ら曰く、真正面から例の『傀儡』の軍勢を相手にして一歩も引かず、その上易易と撃破して見せたアレス達を戦力の中核へと据え置き、優秀な自分達が補助する形であれば、王都との戦いにて疲弊しているであろう敵戦力に大打撃を与えられるのは間違い無いだろうし、上手くすれば王都を奪還すら出来る見込みがあるのだからしない手は無いだろう!との主張。
…………正直、アレス達からすれば『どっちもどっち』である。
老害共は、アレス達さえ居なければこんな半壊した街をわざわざ狙わないだろう、と言うが寧ろその保証はどこにも無く、また血気に逸っている連中は成り上がりの機会、と見ているのだろうが自殺願望に付き合ってやらなければならない理由はアレス達には特に無い為に、突撃したいのならば勝手にどうぞ、と返事をしてある。
そもそも、先の攻撃を退けられたから、と言って既に一国の首都であり、おそらくは最精鋭の部隊と個人とが揃っていたであろう場所が攻め落とされているのだ。
未だに戦闘が続行しており、劣勢故に援護を!とかの要請が有ったのならばまだしも、既にそれらを成し遂げている軍勢に対して真正面から挑む、だなんて事は自殺行為に等しい愚行でしか無い。
百の力を持つ軍勢に対して、五十と五十の力を持つ複数の集団が順番に戦ったからと言って、百の力を持つ軍勢同士で戦いあったのと結果が同じモノになる、とは限らない。
寧ろ、連戦する方がまだ相手に取っては楽であり、敵にとって脅威となるのは何時であっても纏まった戦力の方であるのが世界の真理だ。
それに、彼らは警備兵でも無ければ軍人と言う訳でも無い冒険者。
正式に、莫大な報酬と確りとした勝ちの目を提示されたのであればまだしも、その両方共が揃って無い状態で戦闘を強要されなくてはならない理由は無いし、従わなくてはならない理由も毛程も無いのだから。
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「…………いや〜、しかし、今回は派手に負けたな!
初めて負けた、って訳でも無かったが、こんな負け方は初じゃないか?」
ナタリアが繰る橇の上にて、アレスがそう嘯く。
何故か爽快さすら感じさせるその口調に、一瞬とは言え全員が呆れた様な表情を見せるが、その次の瞬間には肩を竦めてそれぞれで記憶を遡る様に視線を逸らし、思い起こして行く。
「…………そう、であるな……。
当方、かつてのパーティーに所属していた時は基本、勝って負けて撤退して、の繰り返しであったが故にそうでも無かったであるが、確かにこのパーティーに所属し始めてからは、ほぼ初に近い、であるかな?」
「そうですね……。
私としましても、以前のパーティーに関するアレコレとしましては、正直思い出したくも無いので省きますが、正直覚えが無い、ですね?
近い状況ですと、今のパーティーハウスを手に入れる際のボス戦、が比較的雰囲気が近かった様にも思えますが……」
「あ、やっぱり?
アタシとしても、ぶっちゃけ『敗北』って意味合いだとあんまり記憶に残って無いのよねぇ〜。
でも、強いて言うなら、アレかな?
ほら、ドヴェルグのオッチャンの所で武器を新調した慣らしのつもりで出掛けて行った、山でドラゴンと遭遇した時のアレ」
「あぁ、あの時の話ですね!
いや〜、アレはかなりやばかったのです!冗談抜きに!
本気で死ぬかと思った事が、一度や二度で済まなかったのですよ!
未だに、偶にあの時ボク死んだんだっけ?って思い返して思う事があるのです!」
「確かに、それらもキツかったけど、でも敗北って呼べる様なモノとなると、やっぱりアレじゃないかなぁ?
ほら、ゾディアックのアンタレスに挑んだ時のアレ。
オジサン達にしても、あそこから更に奥に進んだ、って証拠が無いと駄目だったから、ってあのダンジョンマスターが止めるのを聞かずに突撃したけど、あの時は本当にキツかったよねぇ〜。
オジサン、マジであの時は死ぬかと思ったよ……」
「あぁ、そうやって考えてみると、案外と負けてたりする訳か?
まぁ、でも、俺達もまだ生きてるんだから、その辺はどうとでもなるからな。
ゴライアスの野郎にしても、前回がほぼ引き分けに近い形で今回は判定負け、って事考えると負け越してる訳だが、こうしてきっちり逃げてやってる上に、ちゃんと目的も果たせてるって事を考慮すれば、今回も引き分けって事で良いんじゃないかね?
多分、だけど」
「……………………それ、ゴライアス本人の前でだけは、絶対に口にしない方が良いのであるぞ。
あやつにそんな感情が在るのかは分からぬが、確実に逆上してリーダーを殺しに来るのである」
「そうだねぇ。
今回みたいに、どこぞからの呼び出しが掛かりました、って事になったとしても、下手をしなくても無視して殺しに来る、位はしそうな勢いでプッツンするだろうから、絶対に止めておいた方が良いだろうねぇ」
「いや、流石にもう無いだろう?
カリンさんも、今回の件でパーティーハウスのキーパーを了承してくれたからこっちには滅多な事じゃ来ないハズだし、移動中だってあれだけ森人族で固まってたらそうそう手出しされる様な事にもならないだろうから、心配する必要も無いだろう?」
あっけらかんと言い放つ彼の様子に、今後こそ呆れた様子を隠そうともしなくなるパーティー一同。
状況だけを見るのならば、既に敗北して追撃に怯えながら敗走している、と言っても間違いでは無い状態であるにも関わらず、ソレを重く考えずに軽視もしない、と言う姿勢はそうそう出来るモノでも無いが、今ソレを言うかね?と内心を隠せずに居た結果であった。
とは言え、事態は変わらず、既に起こった事も変化をさせるのは不可能。
一つの国が滅ぶ場面へと直面する羽目になった一行は、特にソレを気に掛ける様子も見せず、一路次なる目的地である小人族の国へと向かって行くのであった……。
告知が遅れましたが次回閑話を挟んで今章は終わる予定です
その次から新章が始まる予定ですのでお付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m