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『追放者達』、傀儡騎士団と決着を付ける・4

 


 ・ゴライアス視点



 当機と仇敵とが戦っている地点との対角線上にて、破砕音が発生する。


 それを、内心待ち侘びていた当機の胸中に満ち溢れたのは、他のモノで表現する所の『安堵』か『歓喜』か、その両方か。



 予め、当機の仇敵たる『特異点』がこの街の近辺に滞在している、との事は観測された情報より予測出来ていた。


 次点で可能性の高かった地点はこの場所からそれなりに距離があり、この場にて戦闘へと発展したとしても救援として参戦される可能性は低かった為に開戦へと持ち込んだが、予測は的中しており、半ば偶発的ではあったか戦闘を開始する事となった。



 …………元より、魔王陛下の命により、この国は滅ぼす事が決まっていた。


 その生まれからして裏切り者の一族の果てであり、総合的な戦力として全体を鑑みた場合、人間と手を組まれると面倒な事になりかねない、と判断を下されたからだ。



 故に、当機が攻略の為に派遣され、侵攻を繰り返していた。


 僚機たる他の六魔将も、それぞれで担当している地域を責め立てており、それら全てが終わり次第準備を整え、かつての大戦の継続を断行するのが魔王陛下の望みであり、ソレを実行する為の下準備であるが故に手を抜く等出来よう筈も無いが、こうして不確定要素にして不安要素である『特異点』と遭遇してしまった事は、僚機達の表現する『ツイてる』のか『ツイて無い』のか判断が分かれる所だろう。



 不確定要素を排除できる盤面に直面出来たのは、確かに表現『ツイてる』に値するだろう。


 だが、本来確定した事象として相対し、当機の持てる全ての力を総動員して確実に排除できる、と断言できる状態に持ち込め無かったのは、表現『ツイて無い』を使用するのに足るのではないだろうか。



 当機の回線を、そんなノイズが走り抜ける事となったが、解析するよりも先に当機の保全と適性個体の排除を優先して糸を手繰る。


 この場へと連れている配下達は、それぞれである程度の判断が出来る精鋭固体であるが、そうであっても当機が直接介入し、指示を出す方がより鋭敏かつ全体的な連携を持った動作が可能となる為に、仇敵たる『特異点』と相対する以上は必須であろう。



 拡張された処理能力が高速回転し、当機の回路が赤熱し始める。


 陛下の復活に伴い、お隠れになられていた間封印されていた処理能力が開放された事で出来る範囲が広がり、当時は従える事の出来ていた精鋭個体を繰り出す事には成功していたが、その負荷は相応に大きい。



 一体一体が持つ戦闘力は高く、淡くとは言え自意識も抱き始めているが故に、半ば反射的な行動であっても自動的に連携を取るこれらは、正に精鋭と呼ぶに相応しい。


 …………が、中途半端に自我を持つが故に、全体指揮としてこうして手繰る際には相応に反発が発生し、当機に対しての『負荷』として伸し掛かって来る為に、こうして処理能力が開放されなければ制御する事は出来なかったであろう事実と回路を蝕む灼熱とは、完全に意思の無い人形を操るよりも多大な戦果を挙げられるとは言え、煩わしさを感じる事も暫し無い訳ではない。



 しかし、故に『在る程度の作戦』を自動的に任せる事が出来るのは僥倖、と呼べるだろう。


 当機が随時指示を出さずとも、部隊を挟んで背後を気にする素振りを見せる仇敵達の姿を確認出来たのだから、幾分か煩わしさも解消されると思える。



 保有する戦力の過半のみしか動員する事が出来なかった今作線であったが、それでも当機の仇敵を討ち取るのにはどうにか足りていた様子であり、僚機より聞き及ぶ『安堵』にも似た情報が内から沸き起こる感覚を覚える。


 が、そこで油断し、手を緩めるのは二流以下の存在のやる事であり、個としての戦闘力としては一歩及ばぬまでも、帥としての力であれば僚機の中でも随一と自負している当機としては、キッチリとこの場で仕留める為に、油断無く配下へと指示を出し、糸を手繰って引き続き攻撃を仕掛けて行く。



 槍兵を前へと出し、巨人兵で圧力を掛けつつ、騎兵にて隙を突き、狙撃兵にて狙い撃つ。


 ある程度の被害は許容しながらも、確実に仇敵へと損耗を蓄積させている、と確信出来る流れを作り出せる様になって来た頃、唐突に集団から仇敵が離脱した事が確認出来た。



 よもや、またしても当機への奇襲を企んでいるのだろうか?


 以前の戦闘でも失敗し、此度の戦闘でも同じく失敗している行為を、既に対策を取られている事をこうまでして繰り返し行われると、失意、にも似た情報が回路を駆けて行く事になるだろう。



 …………しかし、多少の時間が経過した所で、仇敵からの強襲を当機が受ける事は無く。


 それでいて、仇敵の仲間達が諦めた様子を見せない事から、一人逃げ出した、との事も予想し難い。



 であるならば……と赤熱し続ける回路の片隅にて情報を走らせていると、些細ながらも異常と言える事態に気が付く。


 反対側の戦場から届く音が、割いた戦力から勘案した場合のソレよりも幾分も小さなモノであったのだ。




「…………成る、程。

 戦力、を割いた、か。

 こちらは、暫く、このまま保たせ、る事、だけを考え、させ、自ら、が赴い、て、迅速に、壊滅、を目指す、と。

 確か、に、両面、を同時、に保たせる、には、的確な、判断だ、と言える、かも知れん、が、流石に、当機、を、舐め、過ぎでは、ない、か?」




 こちらからは容易に撤退は出来ない。


 が、あちら側の戦力は圧倒的に足りていない為に、放置すればいずれ落ちるのは時間の問題。



 であれば、最低限保たせられる戦力を残し、単独でも当機の配下を撃破可能な仇敵を援軍として送り込んだ、のだろう。


 だが、流石にソレは、当機も配下達も些か過小に見積もられ過ぎではないか?と問い掛けたくなる選択だ。



 ヤツが居て、当機を抑えていたが故に、産まれていたハズの拮抗状態。


 ソレを、ヤツ抜きで再現し、実現し、維持し続けられる様な易いモノだと、そう認識されている事だ、と情報を受け取った当機の回路が、それまで発せられた過負荷による熱とは別の『何か』によって焦げ付き、溶け落ち、赤熱を通り越した白熱の域にまで達した様な感触を覚える。



 …………そこまで舐めた真似をしてくれるのであれば、即座にアリを踏み潰す様にして捻り潰し、四苦八苦して対処しようとしているヤツの眼の前に、苦悶の表情を浮かべた首を放り込んでやろうか!?!?!?


 と、当機としても覚えが無い程の衝動に駆られて行動を起こさんとした時、当機の内部より僅かな振動と高音が発せられる事となる。



 僚機の一たるオルク=ボルク。


 その開発したる部品の一つにして、超長距離間での会話を可能とする道具であり、数も少ない為に完璧な機密である、と聞き及んでいるソレを、何故このタイミングで!?と回路に燻る熱に苛立ちながらも、指定された動作にて起動させる。




『…………こちら、ゴライアス=マリオネッター。

 こちらは、既に詰めの段階へと至っている。

 如何なる用向きにて、この機密道具を起動したのか、説明を求む』



『どうも、こちらアルカルダです。

 僕の方も忙しいので単刀直入に言いますが、急ぎそちらを離脱してこちらに合流して下さい。

 これは、六魔将統括としての命令です』



『…………っ!?

 何故!?

 今、正に、当機は特異点たる仇敵を討ち取らんとしているのだぞ!?

 それを、直前になって引き返して来い、とは如何なる心積もりか!?

 返答次第では、先ず貴様の首から縊り落とす事になるぞ!!!』



『あぁ〜タイミングとして最悪だった、って事ですね。

 ですが、諦めて下さい。

 僕の担当している王都ですが、思った以上に抵抗が激しく、僕一人では落としきれない上に、多勢を手繰るのを得意とするゴライアスさんが必要と判断しました。

 因みに、陛下からの勅命で、優先度は『特異点』よりも『王都陥落』の方が高い、と定められているのはご存知ですよね?』



『…………………………』



『まぁ、気持ちは分からないでも無いですが、ソレもここを落とした後にするべき事、です。

 幸い、ゴライアスさんから貸し出されていた過半を超える『傀儡騎士団』の主力級戦力はほぼそのまま残ってますので、早急に指揮をお願いします。

 因みに、これさえ終われば後は自由にして頂いて大丈夫なんで、先ずはこちらの対応をお願いしますね』



『………………………………………承知、した……っ!!』




 バキッ!と握り締められた右手が、音を立てて罅割れて行く。


 仇敵を前にして背を向けろ、と抗えぬ命を下され、無いはずの歯列が崩壊する程に歯噛みしたい衝動が当機の回路を駆け抜けて行く。



 …………が、これ以上この場に留まり、時間を浪費する事は陛下に対する忠誠を傷付ける事になりかねない。


 そう判断を下した当機は、零れ落ちる破片に気遣う事無く右腕を振るうと、その場にて損傷を受けている個体並びに回り込みを敢行していた部隊に対し、その場に留まり徹底的に周囲を破壊する様に指示を出しつつ『糸』を切り離し、霧を発生させる様に特務兵へと指示を出すと、この場から背を向けて歩み始めたのであった……。




これも一つの決着、と言う事で

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