『追放者達』、傀儡騎士団と決着を付ける・3
一人、指揮官であるゴライアスの暗殺を決行したアレス。
しかし、ソレは失敗に終わり、結局正面からの戦闘へと至る事となっていた。
仲間とは離れ、孤軍にて多勢を手繰るゴライアスと対峙するアレス。
剣と魔法とを駆使し、自らへと目掛けて襲い来る『傀儡』の軍勢を薙ぎ払い、薙ぎ倒し、どうにかしてゴライアスへと刃を届かせる事が出来ないだろうか、と奮闘を続けて行く。
…………が、そうして文字通りに暴れ回る事暫しの間。
アレスは、これは無理臭い、との決断を下していた。
「…………ちっ、流石に初手暗殺に失敗した段階で、何かしらの手を打たれてた、って事は分かってたが、そこで引いておけば良かったかね……。
まぁ、こうして戦力を削れてる、って考えれば、トントン位には見れなくも無い、か……?」
「…………抜か、せ……。
こちら、は、見ての、通り、に、大損害だ……」
思わず、といった体で溢されたアレスの呟きに、苦々しそうな声色にてゴライアスが応える。
それは、無数の負傷や流血に塗れながらも未だに確りと立って戦っているアレスの姿と、彼の周囲にて転がる大小様々な無数の残骸とを比べれば、否応無しに意味を理解出来てしまう事となるだろう。
アレスの行動原理を、情報として理解していたゴライアス。
故に、ここで彼と戦闘に発展する可能性が高い、と判断したが為に、対アレス用の戦力を自身の周囲へと展開する事でその警戒としていた。
…………が、蓋を開けてみれば、その判断は正しかった、と言えるが、同時に間違ってもいた、とも言えてしまう結果となっていた。
確かに、ゴライアスの読みの通りのタイミングにて奇襲を仕掛けられた為に、その備えとして戦力を確保しておいたのは未だに彼が存在を継続出来ている事が何よりの証左である、と言えるだろう。
……だが、その確保していた戦力、の見積もりが甘かったのだ。
少なすぎた、とは現状のアレスを見れば口が裂けても言える事では無いのだろうが、それでも仮に用意していた分の二割から三割程度多く動員出来ていれば、この段に至るよりも前にアレスを擦り潰す事も出来た場面が幾度かあった為に、その点はゴライアスの落ち度である、と言えてしまうのだ。
尤も、そうしてゴライアスを責め立てるのは、確実にお門違い、と言うモノだろう。
何せ、アレス用に、と用意していた戦力の中にはバッチリ巨人兵も含まれていたのだが、ソレは既に地面へと積み立てられた残骸の仲間入りを果たしてしまっている、と言えば彼がどれだけ派手に暴れ回っていたのか理解はして貰えた事だろう。
また、彼の仲間達が予想以上にしぶとく粘っている、と言う事もアレスを討ち取れていない事に無関係では無い。
遊撃と前衛とを兼ねるアレスが居ない事により、積極的に前線を押し上げる様な動きは見せていないが、最前線にてガリアンが壁となる防御的な戦法を選択し、ソレを仲間達が補助する形で周囲の戦力を確実に削って来ており、下手にアレスの方へと戦力を割り振ると、手薄となったそちら側が喰い破られる懸念が常にゴライアスには付き纏う嫌な盤面となってしまっていたのだ。
その結果、アレスを討ち取る事も出来ず、さりとて他の『追放者達』のメンバーを落とす事も出来ずに、自ら用意した戦力を消耗させてしまっている、と言うのがゴライアスの現状であったが、彼の余裕が消える事は、未だにその兆候すら見えてはいなかった。
それどころか、多少の思い違いや想定外の出来事は存在してはいたものの、事態の移り変わりとしてはゴライアスが予想していた通りのモノとなっていたのだから。
…………と言った具合に未だ余裕綽々な様子を滲ませているゴライアスに対して、不気味な空気を敏感に感じ取るアレス。
嫌な予感しかしなかった為に、多少のダメージを覚悟しながら敵陣へと飛び込み、仲間達との合流を優先させて行く。
当然の様に、ソレを阻止せんとして周囲からアレス目掛けて『傀儡』の騎士達が襲い掛かって行く。
中でも、長弓を装備した狙撃部隊は、意思も呼吸も殺意すらも持ち合わせてはいなかった為に、気配や殺気の類いを感じて回避する、といった手段が取れなかった為に、確実に彼へと矢を突き立ててダメージを稼いで行く。
しかし、それでもアレスは止まらない。
例え、騎馬型の突き出した突撃槍に肩を抉られても、重装攻撃型の振り回す大斧が二の腕を掠めても、槍兵型の繰り出した穂先が腿を穿っても、巨人兵の足踏みによって発生した振動に足を取られても、止まる事無く只管に突き進み、時に擦れ違い様に斬り捨て、時に体術によって転ばせて時間を稼ぎながら、仲間の元へと進み続けて行く。
その結果、最後の足掻きに、と放たれた全力狙撃によって胸を撃ち抜かれながらも、仲間達との合流を果たすアレス。
最早半死半生、といった風体であり、負傷していない場所を探す方が難しい状態となってはいたが、取り敢えず生き延びて合流する事に成功し、大慌てでガリアンの構えた盾の背後へと引きずり込まれ、半泣きのセレンによる全力の治療を施される。
瞬く間に、欠損した部分の肉が盛り上がり、皮膚がその上を覆い隠すと、並行して施されていた賦活化術式によって肌ち血色が戻り、折られていた膝が再び伸び上がって行く。
が、未だ彼の身体は先のダメージと連動した幻痛が続いており、更に言えば負傷を癒やしたとしても喪った血液までは回復してはいない為に、普段の通りに十全な動作を、と求めるのは些か酷な状態となっていた。
「…………さて、随分と無茶をした訳であるがな、リーダーよ。
何か、収穫はあった、と見ても良いのであろうな?」
「まぁ、そりゃ、な?
むざむざ奇襲に失敗した、ってだけでここまで必死こいて逃げて来ないってな。
…………取り敢えず、警戒を絶やすな、寧ろ更に厳にしろ。
どうやら奴さん、何かしら企んでるみたいだからな」
「それ、具体的にどんな感じのか、ってのは分からなかったみたいだねぇ。
もうちょっと、情報の類いは無かったのかぃ?」
「さぁ、どうだろうな。
あの野郎、表情もクソも何も無いから、情報の探りようが無かったんだよなぁ……。
まぁ、あそこで俺を仕留めてしまいたがってたのと、こっちに合流されるのはあんまり好ましく無かった、ってのはさっきの猛攻で確定だろうから、直接的に俺達に対してどうこうする、って感じの事じゃないんだろうが……」
「…………………………ねぇ、その『企み』ってヤツ、アタシ達に直接的にする訳じゃ無く、それでいて盤面を確実に叩き潰せる様な一手、ってアタシ分かっちゃったかも知んない」
「………………あ〜、その、ボクも、見当が付いた、かも知れないのです。
確かに、ソレを実行されたら、ボク達としてもかなり追い詰められる事になる、のは間違い無いかと思うのですよ……」
「……………………あの、それってもしかしなくても、もしかしてしまう感じでしょうか?
具体的に言いますと、私達の背後に聳えるモノに対してちょっかいを掛ける、的な?」
「「「………………いや、流石にそこまでの事は……」」」
女性陣が思い至った事に、思わず表情を引き攣らせて冷や汗を流す男性陣。
流石に、二方面作戦を展開された上でこの戦力をキープ出来ている、だなんて事になった場合、どうやっても詰みにしかならないのは目に見えていた為に、思わず現実逃避も兼ねて否定する言葉を揃って口にする事となってしまう。
………………が、彼らの背後、具体的に言えば街を挟んだ反対側の方から響いて来た破砕音が、彼らの言葉を否定し、女性陣の言葉を肯定するモノである、と言う事は、誰に指摘されるまでも無く、誰しもが理解を強要させられるモノとなるのであった……。