『追放者達』、第二の都市でも絡まれる・2
既にお気付きとは思いますが章のタイトルを変更しました
思ったよりもアルゴーの話が長くなったのと全然『東国』に向かわないので仕方無く、ね?(おい……)
本当なら3〜4話位で終わらせるつもりだったのに、どうしてこうなった……(;一_一)
「…………おい、こら、テメェ。
いきなり出て来て、他人の女に手を出そうだなんて、良い度胸してやがるじゃねぇか。
それなりに『覚悟』の方は、当然出来てるんだろうな、あぁ?」
セレンへと目掛けて伸ばされていた腕を掴み取り、声には怒気を、視線には殺意を込めてアレスがそう告げる。
アレスとセレンとが隣り合って座っていた席に割り込む形で入って来たソイツは、彼からの猛烈な殺気を真っ正面から浴びているにも関わらず、この時初めてアレスに気が付いた、と言わんばかりの態度にて自身の腕を掴んでいる彼へと視線を向けてくる。
「…………何かね?
私は、私の運命であり、私だけの女神である彼女、聖女セレンに対して話をしているのだ。
君の様な、どこぞの馬の骨とも知れない中途半端で無関係な存在が、割り込む事が許される様な次元の話では無いのだと、何故気が付けない?
これだから、平民は教養が無くて困る。
それに、先程何やら酷い勘違いが混ざった言葉が聞こえた様だが?確か…………『他人の女』、だったかな?」
「あ?なんだ、ちゃんと聞こえてるじゃねぇか。
ソコに付いてる耳は飾りかと思ってたが、ちゃんと本物だったみたいだな?
なら、言葉を理解出来ない程、脳ミソが低機能だって証だな。血筋の性能が知れるぜ?『自称』貴族様よ?」
「…………貴様……っ!!」
「それと、無関係な奴が割り込んで来るな?
割り込むに決まってるだろうがよ。セレンは俺の女だぞ?当然、口を挟む権利が在るに決まってるだろうがよ。
と言うか、完璧にお前が俺達の間に割り込み掛けようとしてる、って状態なのをキチンと認識したらどうなんだ?あぁ??」
声に込めた怒気を強めつつ、掴んでいた腕を振り払って相手と距離を開けながら、セレンへと向けて手招きする。
すると、その意図を汲んでか、もしくは間近で繰り広げられていた独善的過ぎる謎理論に脳の容量を取られたが故に呆気に取られていたのかは本人にしか分からないが、何故か嬉々とした様子にて彼の手招きに応じる形で席を立ち、そのまま彼の膝の上へと腰掛けてしまう。
セレンのその行動には、『自称』貴族の男だけでなく、実際に膝の上へと座られる事となったアレスも驚きを隠せずにいた。
何せ、本人的には間に割り込まれる事の無い様にもっと近くに、と招いたつもりであった為に、彼女の柔らかな肢体の感触が伝わって来る足だとか、本人曰く『特に香水の類いは使っていませんよ?』との事だが何故か香って来る良い匂いだとかが作用して、何度も交わりを経験した間柄とは言え頭に血が昇ってクラクラして来そうな心持ちにさせられてしまっていた。
心持ちか頬も赤らんで来ている様な状態となったアレスに、浮かべる微笑みを深く強くして更に身体を預けて行くセレン。
本来なら、どこぞの誰とも知れない相手に触れられる事は元より、いきなり伴侶だ運命だ、とか言われてもそんなモノは既に見付けて出会って確保してある(つまりはアレスの事である)為に、今更そんな事を言いながらしゃしゃり出て来られても正直な話迷惑でしかない。
なので、手痛く振り払うか魔法で攻撃するか、もしくは自衛用として立て掛けてあったメイスとの兼用である杖で、『何処を』とは言わないものの、また叩き潰してやろうかしら?と思っていた時に、アレスが割り込みを掛けてくれたのだ。
しかも、彼にしては珍しく、セレンの事を『自分のモノである』と言う独占欲を剥き出しにした物言いにて、である。
これには、流石の聖女様もその巨大な胸の奥にしまわれていた乙女心を貫通・爆砕される事となり、仲間としての嬉しさだとか女としての幸福感だとか『絶対にコイツ(アレス)と添い遂げてやる』と言った誓いだとかの諸々がセレン本人の心の内部にて攪拌された結果、下腹部がキュンキュンしてしまった為にあの様な行動をするに至った、と言う訳だ。
故に、と言う訳では無いのだろうが、アレスの膝に座っている現在のセレンは絶賛恋愛感情にて脳ミソが蕩けている状態であり、言ってしまえば半ば発情して子宮でモノを考えている状態となっている。
その為に、先程から二人に向けて剣呑な視線を歯軋りと共に差し向けて来ている『自称』貴族の事も意識の中から忘れ去り、ただひたすらに目の前の愛しい男の香りを堪能し、外見よりも筋肉質な身体の感触を楽しみ、この後宿に戻って…………な事しか考える事が出来なくなってしまっていた。
なので、未だに名乗りすらもせずにセレンが自分のモノになって当然だ、と思っていたらしいその男の視線に殺意が混じり、その男の仲間、と思わしき完全武装状態であった連中をガリアンを始めとした『追放者達』の仲間達が取り押さえ、気絶させたりして床に転がし、アレスとセレンに向けて呆れる様な視線を向ける中、右手に着けていた手袋を外して二人が座る席の足元へと目掛けて叩き付ける。
それは、古来から見られる、貴族特有の『決闘』を申し込む際の作法の一つであった。
「…………下朗!貴様の振る舞い、もう我慢がならん!
元来、貴様の様な下賤な輩が言の葉を交わし、間近で接する事は当然として、触れるだけでも万死に値する相手であると何故理解しない!
その様な下劣な振る舞い、聖女セレンの功績によって成り上がっただけの下民と捨て置いてやろう、と言う私の慈悲を裏切る行為!最早許してやること罷りならん!!
この私、アスラン・オレイス=ケルゲレンの名に於いて、貴様に決闘を申し込む!条件は当然、聖女セレンの解放!勝敗は、当事者のどちらかが死ぬか、降伏を宣言するかだ!!」
自信満々な様子にて、まるで『囚われの姫を救い出そうとしている騎士』と言わんばかりの雰囲気にてそう宣言して見せるアスラン(を自称する誰か)。
勢いに任せて勝手に決闘の際の条件やルールまで一方的に宣言し、その上で『自分が勝った場合』には『セレンを貰って行く』と条件を着けているが、『自分が負けた場合』に関しては特に言及していない所だとか、流石は貴族としての中間姓まで名乗るだけはあるズル賢さ、と言った所だろうか。
とは言え、流石に突然店の中へと完全武装にて乱入し、その上で数に頼んで当事者(アレス、セレン)以外を取り押さえて事態を有意に進めようとしたが返り討ちにあった一団が好意的な視線を受けるハズも無く、店内の空気は冷たいモノへとなっていた。
それが例え、アレスが拠点をアルカンターラへと移した後でこのアルゴーへと移り、『連理の翼』が抜けた穴を埋める形で急速に成り上がった為に、それなり以上に名の通っている冒険者パーティーであったとしても、である。
唯一、決闘の宣言を下した張本人のみが周囲の状況に気が付いていない、と言うある意味奇跡的な状況の最中、それまで頬を赤らめながらセレンのしたい様にされていたアレスは、首に絡み付いて来るセレンの最中を優しくあやす様に叩いてから一度膝から下ろし、自身の足元へと落ちている手袋へと手を伸ばす。
咄嗟に、元貴族である為にその行為の意味を知っているガリアンや、自身の長い人生に於いて実際に経験もしているヒギンズが止めようと一歩踏み出しかけるも、彼らの方へと向けられたアレスの視線にて逆に引き留められる形となり、踏み出し掛けた足を戻して静観の構えへと移行する。
ソレを見届けたアレスは、なんて事は無い、と言わんばかりの様子にて手袋を拾い上げると、さも汚いモノを触った、と言わんばかりの手付きにてアスランへと向けて手袋を投げつけ返しつつ、口元を半月の笑みへと歪めながら告げるのであった……。
「おう、良いぞ。
その決闘、受けてやるよ。
ただし、こちらからも条件がある。
こっちが勝ったら、お前の一番大切なモノを頂いて行く。
それが、俺が決闘を受ける唯一にして最低限の条件だ」
━━━━その様子を見ていた『追放者達』の仲間は後にこう語る
『あの時のリーダーは、まるでお伽噺に出てくる悪魔か何かにしか見えなかった』
と……
地味に色々溜まっていた様子
果たして愚か者の運命は如何に?