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『追放者達』、傀儡騎士団と決着を付ける・2

 


 ギャリギャリと、金属同士が擦れ合う様な音が周囲へと響いて行く。


 その発生源は、言わずもがな鍔迫り合いを続けているアレスの得物とゴライアスの腕であった。



 空中から、滲む様に姿を顕にしたアレス。


 その目線は普段とは変わらない様子であったが、口元には確かに苦々しいモノが浮かべられていた。




「…………ちっ!

 どうして気付くかねぇ。

 前回みたいに、霧を出してる様子が無かったから大丈夫だろう、と思って仕掛けたって言うのに、これじゃ流石に自信失くすってもんだぞ?」



「…………だから、言った、だろう?

 この、状況、であれば、お前なら、指揮官、であり、この部隊、の命脈である、当機、の首を狙い、に来る。

 それ、さえ分かって、いれば、後は、タイミングを図らい、警戒して、待てば良い。

 それ、だけの話、だ」




 自らの読みが当たったからか、ゴライアスの発する平坦な声は不思議と上機嫌なモノの様にも聞こえていた。


 が、当然の様に、内部から回転する刃の機構が出て来てアレスの身を切り刻もうとしている腕を押し込もうとしており、ソレを防いでいるアレスの刃との間で飛び散る火花に照らされる顔は、無貌のままで表情なんてモノは一切浮かんではいなかった。



 互いが互いに、右腕を使って相手の命脈を絶とうとしている。


 それは、互いに目の前の相手が相手側の戦力の中核であり、そいつさえどうにかしてしまえば後は大体どうにか出来る、と認識している他に無い。



 故に、確実にこの場で相手を討ち取る。


 そう決意した両者は、互いに空けており、また相手も空けている事を承知した状態であった左手にて、半ば騙し討ちに近い形で攻撃を繰り出して行く。



 先手を取ったのは、アレス。


 左手の指に挟み込んでいた短剣を投擲すると同時に、構築をギリギリまで隠していた術式を開放し、至近距離から大魔法をゴライアスへと向けて解き放つ!



 材質からして、ゴライアスの身体を貫きうるその短剣は、当代最高の鍛冶師であるドヴェルグが鍛えし逸品であり、距離の関係からも外しようの無い牽制と致命とを兼ねた一撃。


 ソレを回避するなり防御するなりしてしまっては、アレスの放つ業火の奔流により飲み込まれ、全身を炙られ各所に多大なダメージを受けるだけでなく、周囲の『傀儡』を指揮する為に使用している糸を焼き切られる事にも繋がる為に、どちらを防がれたとしても結果は変わらない、二段構えの奇襲となっていた。



 対するゴライアスは、体勢を利用してアレスの死角から追加で伸ばしていた糸を手繰り、手近に居た重装型の近衛兵を半ば無理矢理引き寄せると、自らと位置を入れ替える形でアレスとの間に差し込んで行く。


 それは、先にガリアンが見せたインターセプトを彷彿とさせる動作であり、当然の様に構えられていた大盾によってアレスの攻撃を全てその身で防御されてしまう。



 更に、ソレだけで終わるハズも無く、人では不可能に思える生理的嫌悪を思い起こさせる動作で、ゴライアスの指が虚空へと踊る。


 その動作に従い、空中を髪の毛以下の細さでありながら、全身を鎧で包んだ金属の塊を無理矢理引き寄せられるだけの剛性を持つ糸が宙を舞い、自らの魔法によって視界を狭められてしまっているアレスの首元へと忍び寄る!



 そして、ゴライアスの操作によって半透明で極細の糸がアレスの首の周囲へと回るのと、アレスの攻撃を受けた近衛兵が盾だけでなく自身をも破壊された事で地面へと崩れ落ちるのが同時に発生。


 ゴライアスは自らの防壁を喪った事に気が付いてアレスの首を跳ねんとして糸を操作するが、ソレにアレスも瞬時に気付いて刃を差し込み、魔力を込めて切り払う事で難を逃れる事に成功する。



 しかし、それはアレスに対して一つ行動を強制させるモノであり、結果的にゴライアスへと場の優先権を与える事となってしまう。


 それにより、ゴライアスは更にアレスと距離を取り、周囲に展開させていた傀儡兵達を引き寄せると、即席ながらも陣形を構築し、自身の防壁にして武器としての運用を開始する。




「…………しかし、今回はまた随分と豪勢に戦力を投入したもんだな?

 以前は、霧に紛れて騙し討ちするしか出来なかったって言うのに、こうして真正面から攻め立ててくれるだなんて、一体どんな心変わりを起こしやがった?」



「心、変わり、なんぞ、起こして、は、いない、がな。

 以前、は、魔王様、が、まだお隠れ、になられて、いた、が故に、当機、の処理、能力にも、制限が、掛けられて、いた、のだよ。

 それ、を補う、為に、後か、ら、付け足した、のが、例の、霧を発生、させる装置、であり、言って、しまえば、ソレ以上、の意図や、効果があった、モノでも無い、のでな。

 必要が、無くなった、故に、切り離し、て運用、し、当機、は、自身の、本業に、専念して、いた。

 ただ、それだけ、の、話だ」



「で、制限も何も無くなって、使える様になったから倉庫の奥から引っ張り出して来た、って訳か?

 はっ!冗談にしても、笑えねぇってんだよ!!」




 ゴライアスから齎された情報に、思わず冷や汗が一筋アレスのこめかみから頬へと伝って行く。


 敵が口にしている情報であるが故に、その全てが真実である、とはアレスも思ってはいないが、さりとてその全てを欺瞞だ、として笑い飛ばす事が出来ないのは現状が物語っており、更に言えば彼本人としても魔王復活で云々、と言う点には心当たりが無いでも無かった。



 …………そう、ソレこそ、先に当たったテンツィアを名乗る魔族。


 凶悪なまでの魅了を操り、あわや聖国を単身にて滅ぼしかけたその存在も、魔王の復活が果たされている事を示唆する言葉を口にしており、かつその実力がゴライアスの言葉を真実が混ぜられたモノである、と保証する形となってしまっていたのだ。



 どうやら、魔族、と言う存在は、魔王との間に何かしらの少なからない繋がり、の様なモノが在る、らしい、とアレスは刃を振るいながらも思考する。


 そうでなければ、例え魔王が打ち倒されて指揮や支配が乱れていた、としても、先のテンツィアの様な能力や今のゴライアスの様な戦力が在れば、伝説に語られる当時の『勇者』が居たとしても、如何様にも大暴れする事が可能であったハズなのだから。



 仮にそうされていたとすれば、現在に至るまでの人類の繁栄は難しかったに違い無い。


 何せ、こうしてそれらの力を保持していた存在が現在まで生き延びていたのだから、『勇者』が死した後にでも再び活動を再開させ、暴れ回るだけでどれ程のダメージを与える事が出来ていたか、下手をすれば滅ぼす事すら可能であった可能性も否定は出来ないだろう。



 …………だが、そうはなっていなかった。


 下手をしなくとも、魔族の存在は御伽噺の上で語られる程度の認識のモノとなり、被害が確認され始めたのは至極最近になっての事。



 であるのならば、やはり奴らの言葉には一定の真実が含まれていた、と言う事だろう。


 そうでなければ、説明の付かない事柄が多く存在するのだから、と自身の内部にて結論付けたアレスは、槍兵型の突き出した穂先を受け流し、突撃を仕掛けて来た騎兵型の突撃槍を回避して騎馬型の『傀儡』の脚を狩り取ると、射掛けられた狙撃型の放った矢を回避しつつ前進する。



 更に、自身を踏み潰さんとして足を振り落として来た巨人兵の影から更に加速する事で脱出しつつ、前方へと割り込んで来た近衛兵と斬り結び、脇に回り込んで巨大な斧を振り回して来た重装攻撃型の『傀儡』を蹴り飛ばしてバランスを崩させ、直撃コースであった刃を無理矢理に回避する。


 そんなアレスの対応をしながらも、他のメンバー達に対しての攻撃の手が緩んでいない、と言う事は聞こえて来ている戦闘音からも判明しており、彼は無意識的に背筋を冷たいモノが伝う感覚を覚えながらも、止まれば殺される、と理解していたが故に、間近に迫るゴライアスへと向けて再び駆け出して行くのであった……。




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