『追放者達』、傀儡騎士の部隊を蹴散らす・2
取り敢えず、指揮官と思われる森人族へと参戦の意を伝えたアレス達は、事態を好転させるべく早速行動に移る。
より具体的に言うのであれば、さっさと戦線に参加して戦力バランスを崩す為に外壁を超える事にしたのだ。
流石に、全周囲を囲まれている状態で、自分達だけを出すために門を開けさせる様な危険は犯せない。
なら、門を開ける事はせずに、壁を乗り越えて参戦すれば諸々の時間を節約出来るのだから、現状にとっては最善と呼べる選択肢と言っても良いだろう。
…………と、なったは良いものの、ソレをアレスが伝えた際の仲間達の反応は、あまり芳しいモノでは無かった。
やれ、そんな人外じみた事をしなくても良いだろう、着地狩りをされたら面倒だ、誰しもお前さんみたいな事が出来るハズが無いだろうが、とほぼ全員からバッシングを受ける事になった。
が、アレスの
「だが、ソレ以外に手があるか?
時間も掛かれば危険も高いんだし、門は開けられないんだから、そうしないと壁上からの支援程度しか出来ないぞ?
だとしたら、大した事は出来ないで結局壁が破られる羽目になるかも知れんが、それでも良いのか?」
とのセリフにより、完封されてしまう事となる。
そんなパーティーメンバー達に対してアレスは、一つ肩を竦めてから、そんなに難しいモノでも無いぞ?と声を掛けてから外壁へと手を掛ける。
そして、普通であればあまり気にしないであろう出っ張りを片手で掴むと、其の場で半ば跳躍しながら次の出っ張りへと手を掛け、重力に捕まる前に手掛かりにした場所を蹴り上げて再度加速し、更なる跳躍を繰り返して行く。
瞬く間に中程まで至り、その後一息に登り切ってしまうと、下で呆気に取られている仲間達へと手振りで登って来る様に促して行く。
そうして指示されたのだから、と苦々しい顔をしながらも、ヒギンズは己の経験と技術を総動員してアレスの動作を推測し、セレンは自らの身体能力を強化して筋力を頼りとして登り、タチアナは自身へと支援術を掛けて身体能力を上昇させて同じ様に登って行く。
そこで、困った様な顔をしているのが残るガリアンとナタリア、そして従魔達。
ガリアンは自らの身体と装備が重すぎる為にこの手の登攀には向かなさ過ぎる状態であったし、ナタリアは種族柄身長が違い過ぎる為にアレスの動きが参考にならず、従魔達は言わずもがな、な状態であった。
流石に、出発する際にタチアナが支援術を施してくれていた為に、身体能力自体は向上した状態となっていたが、だからと言ってどうにか出来る状況か?と頭を捻る事になる。
が、このままではどうにもならない、と判断したガリアンは、半ば自棄になりながらも、これまでの経験上この程度強化されていのならば可能、か?と当たりを付けてナタリアをその背に背負い込む。
突然の事態に、思わずキョトンとした顔を見せてしまうナタリアと従魔達。
そして、その次の瞬間には、ナタリアは自らの身体に突如として掛かった負荷に声すら出ない状態となり、従魔達は『その手があったか!?』と言わんばかりの様子にて、彼に追従する形で次々に跳躍して行く。
………………そう、彼は、強化された脚力にモノを言わせて、その場から跳躍して見せたのだ。
普段であれば、装備を外して助走を付けて漸く同じ様な高さまで到れるかな?と言う程度であり、ガリアン本人としてもそれを承知していたのだが、現在掛かっている強化の具合から、多分イケるだろう、と判断しての行動であったのだ。
その予想違わず、ガリアンはナタリアを背負ったままの状態でグングンと上昇し、アレス達が待機していた外壁の上にまで到達する事に成功する。
…………が、一つそこで想定外の事が発生し、無茶振りをしたハズのアレスの方こそが呆気に取られる事となる。
一体、何が起きたのか?
言ってしまえば単純な話であるが、ガリアンが目測を誤って力を込め過ぎ、飛びすぎる事になってしまった、のだ。
要するに、壁上に着地するつもりであったのだが、間違えて飛び越してしまった、と言う事だ。
「「おわぁぁぁぁぁあああ!?!?!?」」
目測を誤った本人であるガリアンと、その背に負われて脱出等の行動選択肢が取れない状態となってしまっているナタリアの口から、同時に叫び声が迸る。
自衛の手段等が有ったのならばまだ話は違ったのだろうが、背負われている状態ではそんなモノを持ち合わせている訳も無く、また持ち合わせていたとしても行使する事は不可能に近かったであろうナタリアは、ガリアンと言う特大の錘と共に重力の魔の手に鷲掴みにされ、十数メルト下の地面へと引き摺り落とされて行く。
これには、驚愕のあまり呆然としていたアレス達も気を取り直し、慌てた様子でその身を空中へと踊らせて行く。
流石に、二人がこのまま転落死する、とは思っていないが、だからと言って着地の際に発生した隙を突かれる可能性は決して低くは無く、また下で現在も戦闘音が続いている事を鑑みても、やはり即急な支援は必要となるだろう、との判断であった。
…………先ず、周囲にガリアンとナタリアとが落下して来た轟音が響き渡る。
全身を筋肉の鎧で覆い、更に金属製の全身鎧を纏っているだけでなく、その長身をすっぽりと隠せてしまうだけの大盾を持ち合わせているのだから、その総重量は軽く三桁に達しており、その背に負われたナタリアの重量が幾分か足された所で大した違いは無いだろう、と言える領域に足を踏み入れていた。
幸いと言うか不幸にもと言うか、その落下によって運無く踏み潰される羽目になる森人族は居なかった。
が、同様に彼の重量を生かした(?)質量攻撃によってぺちゃんこになってくれた『傀儡』も居なかったらしく、彼の空中旅行は地面にクレーターを作るのみを功績として終了する事となった。
それに続く形で、壁から飛び降りたアレス、ヒギンズ、タチアナ、セレンが続き、次いで壁を飛び越えて来た従魔の森林狼達がガリアン達を囲む形で地面へと降り立つ。
幸いな事に、先に飛び降りたガリアンが着地した際に発生した衝撃波によって周囲の霧が幾分か吹き飛ばされており、彼を中心とした数メルト程の視界が開ける事となっていたので、その周囲に向けて威嚇も兼ねた攻撃をばら撒きながらの降下となったのだ。
当然の様に、それらの降下によってダメージを受けた者は無く、即座に展開して全方位に対しての警戒陣形を敷く『追放者達』。
即座に周囲へと範囲攻撃を放たなかったのは、周辺へと味方に当たる森人族の部隊が展開しているらしい、と聞いていた為であり、ソレを巻き込んでまでの殲滅戦を展開するのは、流石に憚られた為である。
そうして構えていると、音を聞き付けてか振動を感知してか、霧の中から斬り裂く様な勢いにて『傀儡』の騎士がアレス達へと目掛けて飛び出して来る。
刃を振り翳して突撃してくるその動きは熟練の戦士のソレであり、生ける意思さえ在ればそこに必殺の気迫も籠もったのだろうが、意思無き人形ではソレが乗る事も無い。
が、それでも刃で命を断つのに十分な鋭さを持ったモノであり、寧ろ躊躇や慈悲の類いが無いのは利点である、とすら言えるだろう。
そんな、突如として躍り出て来た『傀儡』へと対処しようとしていたアレスの頭上に、不自然な影が掛かる。
…………一体、何事?
そんな思いが彼の脳裏を過ったが、身体の方は咄嗟に動き、防御の姿勢を取ったままでその場から退避する。
そして、その次の瞬間、アレスを追撃しようと更に踏み込みを強くしようとしていた『傀儡』の頭上から、残されていた最後のメンバーである月紋熊のヴォイテクが、叫び声を挙げながら落下して来て、そのまま『傀儡』を押し潰してしまうのであった……。