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『追放者達』、覚悟を決める

 


 最悪の事態が予測として脳裏を過ったアレス達であったが、流石に何も確認しない内に決め付けるのは良く無いし、何よりまだ未定なのだから、とソレを振り払い気を取り直す。


 そして、アレックス(リーゼントヘアの森人族の青年)に導かれるままに、現在半ば野戦病院と化している、との話である外壁へと向かって駆け出していた。



 元より、街の内部での作業に専念していた青年と、日夜様々な場所を駆け巡り闘争を繰り広げていた冒険者達。


 その身体能力は、例え性別が違おうが、足の長さに圧倒的な差が有ろうが関係無く最高速度やその維持時間に明確に現れており、あっと言う間にアレックス達を追い抜き、置き去りにしてしまう。



 とは言え、それで何かしらの支障が出るか、と言われれば正直特には無い、との答えが返って来るだろう。


 何せ、具体的な場所としては既に聞き及んでおり、更にかつてはこの街に住んでいたセレンも行動を共にしているのだから土地勘も問題無く在る為に、目的地に素早く到着する、と言う事だけを目標にするのであれば、彼らは別段必要では無いし、寧ろ足手まといである、とすら言えるだろう。



 そんな彼らの足で急いでも僅かばかりの時間が要される距離を駆け抜けたアレス達は、目的地へと到着する。


 そこで彼らは、あまりにも凄惨な光景を目にする事となった。




 …………世の冠句に、『現し世の地獄は野戦病院にこそ在り』と言うモノが有る。


 ソレを体現しているかの様に、粗雑に作られ無数に並べられたベットには同数以上の怪我人達が寝かされており、痛みと苦しみとを訴える呻き声が周囲へと響いていた。



 手足が欠損している者、顔面を負傷している者、全身に無数の傷を負っている者は、まだ綺麗な状態で居られているだけマシであった。


 だが、腹部や胸部に大きな負傷を負っている者は、例え屈強な男であろう、例え可憐な女性であろうとそこから内容物をはみ出させながら辛うじて息を繋いでいる、といった状態であり、堪えるだけの気力も体力も無かったが故か、そこかしこから排泄物の匂いが直接的にも間接的にも漂って来ている様であった。



 そんな、血と臓物と糞尿と吐瀉物とが入り混じった悪臭を叩き付けられた事で、アレス達の思考が一瞬停滞する。


 彼らとて、盗賊の類いとは言えこれまで多くの人間を手に掛けて来たし、その際に発せられる死臭や悪臭の類いには既に慣れきっているが、ここまで不意打ち気味に高濃度で浴びせられた事は無かったが故に、セレンやヒギンズですらたじろぐ事態となってしまっていた。



 おまけに、それなりに重傷を負いながらも、それでも声を発するだけの体力と気力とが残っている、()()()()()()()()()者が少なくない数いるらしく、痛い、助けてくれ、楽にして欲しい、いっそ殺してくれ、との悲鳴が、多重奏となって見ている者の鼓膜へと突き刺さって来る。


 そんな、文字通りの『阿鼻叫喚の地獄絵図』を前にして、暫しの間呆然と立ち尽くしていたアレス達であったが、咄嗟にセレンが前へと駆け出し、怪我人達の治療を開始した事で正気へと立ち返り、それぞれで動き出す事となった。



 当然の様にセレンは治療、タチアナはその補助、ナタリアは必要とされる回復薬や包帯等の物資の運搬。


 ガリアンは外壁へと駆け出して防衛戦力の現状把握と支援、ヒギンズは事の全体像を把握している者を探し、アレスは具体的に『何が在ったのか』の情報を収集し始めたのであった……。






 ******






 彼らが行動を開始してから幾分かの時間が経過した頃。


 アレス達は再び全員が一所へと集結していた。



 特に示し合わせた訳では無く、自然とそこに集まる事となったのは、彼らの絆が生み出した必然か、或いはただの偶然か、といったところであろうが、彼らの表情はソレに対して何ら感慨を抱いているモノでは無かった。


 …………いや、寧ろ、何らかの感情や情動を抱けている、と言う状態であれば、どれほど良かっただろうか、と言えてしまうのかも知れなかったが。




「…………もう既に全体像まで把握出来てしまってるかも知れないが、取り敢えず報告よろしく。

 まぁ、俺の予想が正しければ、誰かが元凶を既にシメてる可能性が高いとは思うけどな」



「…………うむ、なら当方から参ろうか。

 取り敢えず、現状での外壁の防衛は、防衛のみなら暫くは可能、といった所であるか。

 尤も、新手が出られたら分からぬし、更に言うのであれば残っているハズの精鋭共が、点で使い物にならぬが故に、手が足りていないのが現状であるがな」



「私の方からも、一応。

 取り敢えず、再起可能な程度の負傷の方々は全快させておきました。

 また、即座の戦線復帰が不可能だと思われる重傷者の方々には、取り敢えず生きるのに十分な状態にまで回復は施して来たので、一応は大丈夫かと。

 私の魔力にはまだ余裕はありますが、それ頼りで突撃を繰り返されても困る、と言うのが正直な所でしょうか。

 それと、治療を受けられていた重傷者の方々のお話では、今残っている自称『精鋭』の方々は基本血筋で部隊上層に食い込んだだけのお飾りなお荷物、だそうなので、そちらに実力を求められても困る、のだそうですよ」



「あ、ソレに付いては割りとマジっぽいわよ。

 アタシが聞いた話だと、さっきまでいた重傷者の人達が例の部隊の戦闘員らしいんだけど、戦闘中にこの街の野外活動班の人達と遭遇しちゃったみたいでさ?

 んで、その人達を身体を張ってどうにか逃がす為に、結構無茶な殿までやったんだって。

 だから、この街の人達に怪我人は居ても死人は出て無くて、逆にまともに戦ってた部隊の人達で無傷なままで居られた人はいない、って話だってさ」



「あ、それならボクも似たような話を聞いたのです!

 なんでも、今回の戦闘はその部隊の方から仕掛けたモノで、かつ事前の予想だと彼らが圧倒して終われる程の戦力を用意出来ていたハズだ、との事なのです!

 …………でも、その辺に関してはボク達がキチンと報告もして、警告もしていたのですから、ちょっと考えれば分かるハズなのです?」



「ソレに関しては、オジサンから上げようかなぁ。

 オジサンが調べた限りだと、どうやら今回のやらかしを仕出かしてくれたのは、例の小悪党らしくてさぁ?

 なんでも、オジサン達が伝えた情報を中途半端に上層に流して、それで自分達の実行部隊ならばどうにでも出来る程度である!だなんて啖呵を切ってくれちゃったみたいでさぁ?

 おまけにその上層も、碌に調査も何もせずにソレを鵜呑みにしてくれちゃったらしくてね?

 結局、そいつが部隊率いて来て攻撃、からの交戦。

 そんで、下手に刺激してくれちゃったお陰で流れる様に壊滅、で現在に至る、って感じらしいよぉ。

 因みに、そいつはまだ死んだ所は目撃されていないみたいだから、どっかで死んで無ければまだ生きてここに居るハズ、だってさぁ」



「あぁ、ソレに関してはもう見付けてある。

 街のど真ん中の一番安全そうな場所で、小便漏らしながら頭抱えて震え上がってたよ。

 んで、ちょっとばかり『痛い目』に遭って貰って、全部吐かせた結果、こんな事を仕出かした原因は『上層への媚売り』と『セレンの身体』だそうだ。

 どっちも、今回の件を見事に解決して自身の有能さをアピールすればそれで片が付く、って間の抜けた理論で始めて、その結果がコレだから自称策謀家ってのは手に負えないってモンだよな、全く……」




 そこで一旦言葉を切り、深く深く溜め息を吐いたアレスは、覚悟を決めた鋭い目付きにて仲間達をグルリと見遣ると一言




「仕方無い。

 皆、やるぞ」




 と号令を下す。



 ソレに対して、応えは無い。


 何を?どうやって?なんて下らない質問は一切出る事は無く、ただただ現状を打破する為に必要な事として、彼ら本人による戦線への出撃が決定したのであった……。




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