『追放者達』、巻き込まれる
アレス達による『打ち合わせ』と言う名目での会議から、数日の時間が経過していた。
アレ以降、何度か話し合いの場が持たれたが、結果としてはまともに案が出る事も無く、皆内心でジリジリとしながらもその焦りを表面化させる事も無く、そのまま街へと滞在を続けていた。
当然の様に、その間にはセレンの母親であるカリンとの交流は続けられていた。
以前より画策していた、セレンとの二人きりでの語らいの場も提供する事が出来た為にカリンによる『秘伝』なアレコレの継承も実行されたし、彼女が望んだ『女性陣による裸の付き合い』もセレンだけでなくタチアナとナタリアの二人を含めて行う事も出来ていた。
その際に、セレンとカリンとのスタイルの相似形に歯軋りしたり、これでも以前より体型が崩れてきていて〜といった話を聞いて憤死しかけたり、二人して巨峰に埋もれて溺れかけたりしたそうだが、それらはあくまでも女性陣達による報告、にて齎された情報に過ぎず、アレス達が直接目にする事は無かった。
が、やはり健全な男性陣としてはそれらの話は毒であったらしく、若干気まずそうにしながらも耳元を赤らめていたり、若干前屈みになっていたりしたが、翌日にはパートナーと同じテントから出て来たり、女性陣も利用していた街の共同温泉へと共に向かったり、としていた事もあって、女性陣諸共に上機嫌になっていたのはここだけの話だ。
そうして滞在していれば、当然の様に周囲からは好奇心の対象として見られ、色々と話し掛けられたりもする。
勿論、例の世代もこの街には居る為に、全員が全員、と言う訳では無いが、アレス達がここに来た理由と仲間にセレンが居る、との話が広まるに従って、彼女の父親に対して引け目があった者達からは、消極的ながらも話し掛けられたり外の様子を聞かれたりする様になっていた。
古い世代すらも交流を持っている、と言う事実はどうやら彼ら森人族の中では一定の評価として機能するらしく、ソレを堺として更に話し掛けられたりする事も増え、家に招かれたりする事も増えていた。
当然、一番話し掛けられるのは同族たるセレンであり、かつての知り合いが昔を懐かしんで、との事も多かったが、一番多かったのは彼女の美貌とスタイルに惹かれた独身の男性陣が、外の世界も知っていて気立ても良いのだから是非結婚を!と迫るモノであった。
勿論、セレンはそれらの申し込みの尽くをバッサリと
「お断りします」
の一言にて斬って捨てる。
元より、生涯を共にする、と誓っている上に身体まで重ねている相手であるアレスが既に居るのだから、後から出て来た相手に興味すら持つ余地が在るハズも無く、今後の望みを残すよりは、と敢えて一刀の下に斬って捨ててみせていた。
しかし、それでも食い下がる相手は食い下がる。
それは自分を知らないからだ、相手の事を思うなら先ずは知り合う所から、そんな他種族の男よりも自分の方が良いハズだ!と言って聞かず、本来ならば一番言葉を交わす必要が在るハズのセレンの言葉にすらも耳を貸さない者も、中には現れる事となった。
そうなれば、当然現在の彼女のパートナーたるアレスが黙っているハズも無く、事の前面へと顔を出す。
すると、一応整ってはいるが割りと何処にでも居そうな風貌をしているアレスを見た相手は、森人族特有の整った外見を振り翳して彼を扱き下ろし、自分の方が全てに於いて優れているのだから早く切り替えて嫁入りするべきだ!と何処ぞで見た事の在る様な理論を振り回し、彼らの話を聞くことも無くセレンを勝手に賭けの対象にして決闘を申し込んで来た。
当たり前に、それらを全て受け、片手間に瞬殺するアレス。
一応、事前に彼自らの肩書は名乗っていたりもするのだが、曰く『外界の凡人にして他種族が到れる程度の地位なら自分達ならば容易く至り、踏破できる程度に決まっている!』と言って聴かず、最終的に決闘開始の合図と同時に飛び込んで来たアレスによって喉元へと切っ先を突き付けられ、即座に降参する結果となる訳であった。
他にも、外界の知識や、森人族には見られない魅力(基本的に森人族は男女共に細身で見た目は整っているが、その分外見のパターンが少ない)、持ち得ている財産と言った点から、アレスを含めた他のメンバー達も、軽い気持ちでの一夜の誘いから割りとガチでの結婚の誘いまで、様々な声が掛けられる事になった。
が、当然の様に既にパートナーの居る面々からすれば、その手の誘いに乗るハズも無く、時にはやんわりと、時にはバッサリとその場で断りを入れていたら何故か好感度自体は高まったらしく、特に誘いの多かったガリアンとヒギンズは、片や子供から大人気なガチムチモフモフキャラとして、片や愛されイケオジ枠としてそれぞれ親しまれる様になり、両者共に無数の住民達に群がられながら首を傾げる事になっていたりもした。
そうして、過ごすこと暫しの間。
議題は踊り、されども進展せず、と言う状態を体現してしまっていたアレス達がどうするのか、を考えて頭を悩ませていると、俄に周囲が騒がしくなって来る。
普段であれば、周囲の住民達は成人している者はそれぞれで割り振られている作業を行っている時分であり、あまり出歩く者も多くは無くなる様な時間帯。
すわ何事か?何かしらの事故か事件か?と彼らが身構えていると、不意にドタバタとした無数の足音と共にここ数日にて馴染みが深くなって来ていた気配が、彼らの貼っているテントへと近付いて来ている事が察知出来ていた。
ただならぬ雰囲気に、得物を手にしてテントから出るアレス達。
そのままの勢いにて突っ込んで来そうな程の気配であった為に、そのままだとテントを破壊されかねない、と思ったのもそうだが、やはり何かしらの重大な事態が発生しているのだろう、との判断からの行動であったが、どうやら大正解であったらしく、彼らの目の前へと数名の森人族の若者達が転びそうになる程の勢いで駆けて来ている所であった。
「…………あ、アレスさん!!
た、大変で!大変な事に!?!?」
先頭を走っていた若者が、アレスに気付いて声を上げる。
彼は『追放者達』の中でも一際アレスに懐いていた者であり、その特徴的なまでに前へと迫り出された髪型、俗に言う所の『リーゼントヘア』によってアレスの記憶にも鮮明に焼き付いており、似たような外見の者が多い森人族の中でもバッチリと個人の認識が出来ている者であった。
「おいおい、そんなに慌ててどうしたよ?
普段はもうちょっと落ち着いてたハズだろう?
なんだ?
例の噂話の、霧の中の化け物でも襲って来たか?」
「えっ!?
あ、アレスさん、どうしてそれを!?」
「は?え?
マジ???」
半ば冗談のつもりで、アレスが口にした言葉。
どうやら正鵠を射抜いているモノであったらしく、若者も驚いて急ブレーキを掛けていたが、ソレを口にしたアレスがこの場で一番驚いていた、と言っても良いだろう。
そんな彼の事は置き去りにして、聞き逃す事が出来ない単語が出て来た為に、他のメンバー達がメインとなって情報を聞き出して行く。
「例の化け物が出た、と言うが、それは本当なのであるか?」
「は、はいっ!
本当です!
今、街の外壁の向こう側に、霧が立ち込めていて!!」
「では、実際に化け物を目にした訳では無い、と?」
「それは、はいそうです。
でも、実際に被害が出ていて!」
「落ち着きなさい!
それで?
被害って言っても、どの程度なのよ?」
「外に出て作業してた皆が、大怪我して逃げ帰って来たんです!
それだけじゃなくて、他から来てた部隊?って人達が、何人も、し、死んだって……!」
「…………ん?
つまり、この街の人達からは、怪我人は出ているけど死人は出ていなくて、他の所から来てた人達にはそういった被害が出ている、って事なのです?」
「は、はい、そうなります。
それと、チラッと聞いた事になるんですが、その、他の所から来たその部隊?の人達って、例の化け物を退治する為に来てた人達だ、って話らしいんですけど……」
「……………………ねぇ、オジサン一つ凄い嫌な予想が立てられちゃったんだけど、そいつ等ってその部隊の人達が連れて来ちゃったんじゃないかなぁ?
任務でこの辺に来て、見付けて攻撃したは良いけど返り討ちにあって、偶々近くに在ったこの街に逃げ込んで来た、って感じでさぁ。
まぁ、ただの予想でしか無いけど、ねぇ?」
何気無くヒギンズによって齎された一つの予想。
その一言によりアレス達は、否応無しにこの物事へと巻き込まれたのだろう、との嫌な確信を抱く事になってしまうのであった……。