『追放者達』、第二の都市でも絡まれる
アレスとセレンによる白昼堂々かつ大通りにて行われた公然プレイ(健全?)の少し後。
彼らの姿は、とある酒場へと移動していた。
既に時刻は昼時を少し過ぎている辺りとなっているが、基本的に仕事としてであれそうでないモノであれ、都市の外へと出て何かをする、と言う事が出来なくなってしまっている季節である事もあり、必然性と娯楽性からその酒場『バッカスの鼾亭』は未だに中々の客入りを見せていた。
そんな『バッカスの鼾亭』へと足を運んでいた『追放者達』のメンバー達であったが、特に理由が在ってこの店を選んだ、と言う訳では別段無かったりする。
偶々、セレンが大通りで公言していた通りに、早めに宿を確保しに行って、取れた所から程近く、かつガリアンの嗅覚的に『それなりの味が期待出来そうだ』と思えた店に昼食を兼ねて入ってみた、と言うのが彼らにとっては正直な話。
なので、彼らとしてはそこそこに暖かい料理と、季節柄な『良く冷えた酒』(雪を利用して冷やしている)を楽しみつつ、先程までのアレコレに関して口を開いて行く。
「さて、セレンさんや。
そろそろ、答え合わせと行こうじゃないか」
「はい?なんでしょう?
それに、答え合わせ、とは?」
「いや、惚けなくても分かってるから。
君、二人きりの時は、確かにさっきみたいなテンションで接してくる事も多いけど、人目が多いときにあんな風になるのなんて殆ど無いでしょう?
しかも、意図的にそうしている、だなんて事は今まで一度も無かったよね?その辺、自覚は在るんだろう?」
「…………そんな訳、無いじゃないですか。
流石に、先程のアレは昼間から多少やり過ぎたか、と思わなくも無いですが、それでも通常運転の範疇なのでは?
少なくとも、私としましてはそう自己判断出来ておりますよ?」
「本当に?
普段なら、パーティーハウスのリビングであったとしても、他の面子が居る場合、精々が指を絡める程度までしかしてこない上に、実は腕を絡めているだけでも耳が赤くなる程には羞恥心が強く残ってる君が、公衆の面前でキスまでしようとしていたのに?」
「…………な、ななな、何の事、でしょうか?
も、もしお疑いなのでしたら、この場でキス、して差し上げても、私は構いません事よ!?」
「はいはい、強がりはそこまでにしておきなさい。
もう顔まで真っ赤だから、恥ずかしいのならそう言いなさいな。
別段、俺としても嫌だったからこうして指摘してる訳じゃ無いんだから、な?」
「…………ふ、ふぐぅ…………」
アレスからの諸々の指摘により、顔を赤らめ頭から湯気を上げながら、目の前のテーブルへと突っ伏すセレン。
恋人たるアレスと二人きりの時は驚く程に積極的になり、他の面子が居る場面であっても言葉こそは多少過激な事も口にする彼女であったが、その実としてスキンシップの様な肉体的接触に関しては人目を避けている傾向が在るらしく、基本的に腕を組む、までが最上級のモノとなっていた。
その為に、行為自体を口にするのならばまだしも、実際にして見せようと顔を寄せていたのもさる事ながら、自らの双丘をグイグイと押し付けて来る、と言う露骨なアピールまで行うのは流石に違和感が大きくなっていた、と言う訳なのだ。
とは言え、アレスも男であった為に、そこまでしてアピールされているのは正直気分が良かったし、既に隅々まで味わっている身体とは言え、それで興奮しなかったか?と問われれば『正直した』と言うのが偽らざる本音であったりもするのだが。
そんな訳で、普段とは異なる行動を取っていた彼女に対して、ある程度理由の予想はしているものの、それでも実際には違う可能性も考慮して、こうして答え合わせをしようとしているのだ。
尤も、彼女の反応を見るからに、ただ単に『そう言う気分』が高まり過ぎて露骨なアピールを繰り返していた、と言う訳では無いのだろう、と言う事は明白であったが。
「…………もう、そこまで分かっておいでなら、こうして皆様の目が在る時に問い詰める様な真似は、止めて頂いてもよろしいでしょうか……?
流石に、らしくない行動をしていた、との自覚はございましたので、これでも結構恥ずかしかったのですよ……?」
「だからって、わざわざ俺の評判書き換える為だけにそこまでしなくても良いんじゃ……」
「良くなんてありません!」
「…………お、おぅ……っ!?」
基本的に声を荒げる事の無かったセレンが、珍しく大声を出した事により、思わず呆気に取られて気の抜けた返答をしてしまうアレス。
アレス本人としては、言われて煩わしい思いが無いでもないのは事実だが、だからと言ってセレンが恥ずかしい思いをしてまで自分の評判を払拭する必要は無い、と本気で思っていた為に、驚きが強く出てそんな反応を返す事となってしまったのだ。
「……アレス様。
貴方は、私を自身を囮にしてでも守ろうとし、最後には間一髪とは言え私の心も身体も救って下さいました。
その事実だけでも、私が貴方に想いを捧げ、心を寄せるのに、理由としては十分です」
「………………」
「そんな貴方が、私の恩人にして恋人、何時かは伴侶として隣に立ってくれると信じている仲間でもある貴方が、事実無根な風評にて謗られている様を、何故黙って見ていなくてはならないのですか?
私は、貴方が、何も知らない他人に馬鹿にされているのは、正直我慢がなりません。貴方とて、私や仲間達がそう言われていれば、我慢出来なくなるのでは無いでしょうか?」
「………………分かった、分かった。
俺の負けだよ。降参だ。
確かに、そう言われてしまえば、全く以てその通り、としか言い様が無いよ。悪かったな」
セレンの真摯な態度と言葉に、降参の意を表明するアレス。
かつて、ガリアンの弟に対して激発した過去を思い出してか、それとも言葉の通りに『仲間との思い』とでも呼ぶべきモノの存在を確かめたからかは本人にしか判定出来はしないのだろうが、ソレは確かにそれまでの受け身に徹していた自身の否定と、仲間達の思いの肯定を示す言葉であったのだ。
漸く、彼らが望んでいた言葉が出たからか、セレンだけでなく他の面子からも歓声が挙がり、テーブルの雰囲気が急上昇して行く。
とは言え、男性陣はジョッキで酒を流し込みながら得物に手を掛けてニヤニヤしているし、女性陣は女性陣でセレンへとお祝いの言葉を掛けながら、同時に今後来るであろう似た様な事態に対し、どうやってアレスの判定を掻い潜って最大限被害を出す方法にて報復するか、について話し合っており、若干ながらも当の本人たるアレスを置いてけ堀な状況にしてしまっていた。
そうして、酒も進み、肴として注文していた料理のその大半が皆の胃袋に収まって、そろそろ勘定を済ませて店を出ようか、と言った空気になり掛けていた正にその時。
唐突に店の扉が、まるで爆発でもしたか!?と思わんばかりの勢いにて開かれて自然と客の注目が集まるのと同時に、全身を煌びやかな装備にて武装した一団が店内へと踏み込んで来たのだ。
完全武装状態で、唐突に押し入って来た事に対して困惑によるざわめきが店の中に生じるが、そんな事は知った事ではない、とばかりに店の中を見渡すと、何かを見付けたのか何故か『追放者達』が使っていたテーブルの方を指差しながらズカズカと歩み寄って来る。
そして、一団の先頭を進んでいた全身甲冑が被っていた兜を取って小脇に抱え、その中に納めていたのであろう長髪を気障な手付きで振り広げると、まるで隣に座っている者の事なんて最初から見えていなかった、と言わんばかりの態度にて目当てであった人物の前へと跪くと、当然の様にその手を取ろうと手を伸ばしながら口を開く。
「おぉ、正しく貴女は、私にこそ相応しい『女神』だ!
さぁ、共に行こう!我が『華麗なる猟兵』はいずれ『Sランク』にも達するのが確定しているが、貴女を迎え入れる事が出来れば、その道中に転がる不要な障害を一蹴し、一足飛びで約束された栄光を掴み取る事が出来るだろう!
そして、私こそが、強く美しい私こそが!貴女の様な強く、美しく、清らかな女性に相応しい!
『聖女セレン』!今こそ古い柵を捨て去り、私の手を取る時が、約束された時が来たのだ!
躊躇う事は無い、さぁ!!」
そして、突然過ぎる程に突然に、予想外過ぎる程に予想外な展開に当のセレンが呆気に取られている隙に、彼女の手を取りソコに指輪を無理矢理にでも嵌めようとする誰か。
が、ソレが成されるよりも前、その伸ばされた手が彼女へと触れるよりも前の段階にて、その横から伸ばされた手が割り込みを掛け、その手首を握り絞めながら告げるのであった……。
「…………おい、こら、テメェ。
いきなり出て来て、他人の女に手を出そうだなんて、良い度胸してやがるじゃねぇか。
それなりに『覚悟』の方は、当然出来てるんだろうな、あぁ?」
おっと何やら不穏な雰囲気に(ニヤニヤ)