『追放者達』、対策を検討する
「…………あそこでは随分バッサリ言い切ったが、結果的にはどうなると思ってる?
結局、俺達の方に尻拭いさせられる羽目になる可能性とか、どの程度在るか分かるか?」
「そう、ですね……。
先程の彼で話が止まっているのでしたら、恐らくは無いでしょう。
あの世代は無駄にプライドが高いので、一度自ら虚仮にした相手に頭を下げて、だなんて事は絶対にしませんし、参加させてやる、だなんて言われた所で私達が参戦する義理は無い訳ですし、ね。
ですが、それよりも上、からの要請が出される可能性は、否定出来ないかと」
「それよりも上、であるか?」
流石に、アレ以上役所の前で立ち止まってアレコレと話しているのは体裁が悪い、と判断したアレス達は、一旦移動する事に決定した。
そして、その途中にてアレスは再びセレンへと今後の流れに付いての問いを放っていた。
アレスからの問い掛けに、素直に応えるセレン。
だが、その最後の言い分に引っ掛かる所があったのか、ガリアンが反応して会話に加わって来る。
「確か、この国には便宜上『王』と呼ばれるような存在は居ても、あくまでもそれは名誉職の様なモノであり、実権の類いまでは持ち合わせていない、と聞いているのである。
であれば、その指示を出して来る『上』とは、どの辺りの存在であるのだ?」
「ガリアン様の懸念されている通りに、とは言えませんが、概ね他国に於ける『王』に当たる方の補佐、宰相や参謀と呼ばれるような地位に在る方々から、でしょうか。
あの方々は、様々な世代から色々な能力を持つ方々が選抜されてなる議会を形成しておられますので、その判断は過去の諍いを基準とせず、種族の違いで天秤を傾けず、最良の結果を齎す者にのみ微笑む、と言われております。
ですので、そちらから私達に直接的に要請が下される、と言う可能性自体は、否定出来る程に低くは無いかと……」
「成る程ねぇ。
さっきの小役人だか小悪党だかとは違って、自分達の利益のために目の前の極大の危険を放置して対処すらしない、って考えでは無いって事で良いのかなぁ?
なら、オジサン達の評判が耳に入ったら、こっちまで降りてくる、なんて事も有り得そうではあるみたいだねぇ」
「その場合、流石に正式な依頼として下される、って事で良いのよね?
先の教皇サマの一件以外だと、権力側からの依頼って基本的に『騙される方が悪い』とでも言うみたいに平気で裏切ってくれちゃってるんだから、報酬が出るかどうか以前の問題として、アタシ的には結構心配なんだけど?」
「なのです!
最悪の盤面としては、ここにまで攻め込まれた状態で半ば無理矢理に徴兵され、その上でゴライアスの前に放り出されて強制的に戦わせられる羽目になる事、なのです?
で、最終的には『国を守った英雄』とか言う、欠片も有り難く無い『名誉』とやらを押し付けられて無理矢理国に縛られて、無給で面倒事を片付けさせられる様な立ち位置に置かされる、って感じになりそうなのです!」
「いや、流石にソレは……………微妙に有りそうなラインなのが嫌ですね。
正直、この国の特性を鑑みると、私以外が他種族にて構成されているこのパーティーを無理矢理にでも国に取り込む、と言うのは国民からの反発が強まる可能性の方が高いので、悪手と言えるかも知れません。
ですが、ここに森人族である私が加わっている以上、リーダーを私である、として発表してアレコレして、と言うのは考えられなくも無い、かと」
「………………その程度で、国民としては納得するのか?
確実に反発されるだけだろう?
少なくとも、『王』に関しては名誉職でしか無いんだし」
「寧ろ、アレじゃない?
他国の蛮族を従えて凱旋した英雄が、この国の窮地に立ち上がり、難事を退けてくれたのだ!とか大々的に宣伝すれば、案外とイケるんじゃないの?
ポジションが云々って事を除けば、強ち間違った事も言ってないんだし」
「あぁ、確かにタチアナ嬢の言う通りであるな。
セレン嬢の言葉であれば、仲間として幾度も命を救われている当方らが従わぬ理由は無いし、同時に見当違いな指示も出さないであろう、とも理解出来ている以上、やはり指示されれば動く事には間違いは無いであるからな」
「だからといって、セレンさんを外す、だなんて事は、逆に命取りになりかねないのです!
セレンさん程の回復役、探したとしてもそうそう居るハズも無いですし、今から交流を深めつつ連携を、だなんて悠長な事も言ってはいられないのです!」
「そもそも、外側からどうこう言われて『はいそうですね』と従う位なら、当の昔に勇者様のパーティーに入ってるハズだしねぇ。
その手の想定をアレコレするのなら、寧ろセレンちゃんはソレを仕掛けて来た相手をリーダーが壊滅させないかどうか、を心配するべきじゃないかなぁ?」
「まさか、そんな事…………しません、よね?」
「…………………………シナイヨ?」
「「「「今の間は何!?」」」」
セレンからの問い掛け、にもなっていない確認の言葉に、絶大な空白と棒読みなセリフを以て返答としながら視線を逸らしたアレス。
彼のその様子に、大方そんな処だろう、と予測していたらしいヒギンズを除いた四人が総ツッコミを入れるが、彼としてはその言葉を例え冗談であっても引っ込めるつもりは無いらしく、顔を逸らして決して目線を合わせようとして来なかった。
しかし、ソレはアレスとしては当然の考え、と言うモノ。
何せ、彼の中の優先順位として最上位に位置しているのは『セレンの安全』であり、そこから微妙に下がって『パーティーメンバーの安全』『パーティー全体の行動指針』『依頼の達成』と続き、その次位に『自身の安全』が入ってくる程である。
なので、アレスとしては、先に挙げられた様な状況になるのは到底許容出来るモノでは無い。
寧ろ、そうなりそうだ、との兆候を見てしまったのであれば、例え国が混乱し、結果的に落とされる様な状態に陥ったとしても、ソレを許容し実行しようとした相手を確実に抹殺する為に動くであろう事は間違い無いと言えるだろう。
そんなアレスの心情を理解しているからか、雰囲気からして嬉しそうにしながらも、何処か複雑そうな表情を見せるセレン。
そして、未だに状況は好転していないにも関わらず、甘ったるい空気を醸し出す二人を視界に収めざるを得なかった仲間達は、決して想定した様な事態には陥らせまい、そうでないとこの国に血の雨が降る事になる、と確実に訪れるであろう末路に戦慄にも近しい想いを抱く事になる。
「…………まぁ、取り敢えず、最悪の場合は何やら碌でも無いことに駆り出される可能性が在る、って分かった事だし、そろそろ行動を始めないか?
まだそこまで派手に侵攻されてる訳じゃないから猶予は在る、と思うけど、時間は有限だから動くなら早い方が良いだろう?」
「…………凄まじい勢いで誤魔化された気がしますが、早く動く事には賛成致します。
それに、先程の予想はあくまでも私達がこの街に留まった場合、の想定ですので、他の街へと移動してしまえば、幾分か干渉も和らげられる事になるのは間違い無いかと」
「なら、決まりだねぇ。
じゃあ、さっさと道を見付けて、セレンちゃんの実家の在る街に向かっちゃうとしましょうかねぇ〜」
最年長としての年の功にて、その場を締めるヒギンズ。
方針が決まり、行動の目的が定まった彼らは、ソレを果たす為に情報を集めるべく動き始めるのであった……。