『追放者達』、報告する。が……
無事に誰も欠ける事は無く、霧から脱出する事に成功した『追放者達』のメンバー達。
襲い来る『傀儡』は従魔達を優先的に狙って来ていた、とは言え彼らのみを狙って攻撃していた訳でも無く、当然防御や反撃といった行動も積極的には行っていた事もあり、全員が小さくは無い負傷をする事にはなっていたが、幸いな事に大事に至る様なモノは無く、セレンの治療によって瞬く間に回復して行った。
当然、従魔達だけでなく、橇の方にも大きく傷が付いていた。
が、流石は名工として名高いドヴェルグの手による作品である、と言えるだけの頑健性を持ち合わせており、表面にこそ多少大きめな傷が入ってはいたが、内部にまで到達するモノは一つとして存在しては居らず、使用に対して不安を感じさせる要素は欠片も在りはしなかった。
それらの状態を確認したアレス達は、即座に行動を開始する。
いち早く事の顛末を国へと報告し、星樹国を挙げての警戒と対策を練り、実行に移して貰わないと下手をしなくともこの国が滅びかねない、と判断を下したからだ。
幸い、証拠としては確保はしてある。
撃破した『傀儡』の内の大半は逃走の際に置き去りにせざるを得なかったが、最初の一体を含めたタイミング的に回収が可能であった個体の残骸は、回収して魔力庫にしまい込んで在る為に、ソレを提出すれば動かざる証拠として機能する事だろう。
それに、自分達の証言も在る。
他国人にして異種族であるアレス達だが、この国の出身であるセレンも居るし、ここにまでは冒険者ギルドも進出は出来ていないが、それでもその規模と存在を知っていれば彼らの持つ『Sランク冒険者』の肩書の信頼性と重みは多少は通じるハズであるし、その発言とて全く無視される事も無いだろう。
多少の焦りを抱きつつ、それでも最終的には国がどうにかするだろう、と安堵感を抱いていたアレス達。
取り敢えず、現在地を確認して、と周囲を探っていた時はそんな思いを抱いており、道を見付けて最速にて飛ばしながら周囲を警戒している最中には、終わった後にはどうしようか?との会話すら出て来ていたのだが…………
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「…………はぁ、そうですか。
それで?
それが、どうかしましたか?」
「「「「「「……………………は???」」」」」」
あれから、最速にて星樹国の首都へと向かったアレス達『追放者達』一行は、程なくして到達する事に成功していた。
幸か不幸か、探し出せた道の近くに街があり、そこから伸びていた道が首都へと直通しているモノであった為に、後先考えない速度にて走り通す事が出来たからだ。
そうして、僅か一日程度にて首都へと到着したアレス達は、流石にスタミナ切れにてダウンしている従魔達を尻目に、首都機能を管理運営している役所、の様な所へと駆け込んだのだ。
当然、アポイントも無く、また本来この国にはいないハズの種族の集団が、戦埃も落としていない殺気立った状態にて駆け込んで来れば多少なりとも混乱が発生し、下手をすれば話すら聞いては貰えない状態となっていただろう。
そんな中、正式に『聖女』として出国した記録が有り、この国の人間である、と証明されたセレンが同行していた為に、取り敢えず話は聞いておこう、との流れになった。
なので、自分達と身分と経歴を軽く明かし、その上で何が起きてどうなったのか、どんなモノが証拠として提出出来るのか、を後から出て来た上役と思わしき森人族相手に一通り説明を終えた段階で、彼らへと向けられた言葉が先のモノであったのだ。
…………てっきり、重大に受け止めて即時決断して行動を始めるか、もしくは齎した情報を活用する方向で検討するか、最低でも調査位はする、との言葉を聞けると思っていた彼らは、思わず唖然として間の抜けた呟きを零す事になってしまう。
が、そんな彼らの反応を、何を当然の事を、と言わんばかりの視線にて冷たく見回した上役の森人族は、掛けていた眼鏡を外して懐から取り出したハンカチで拭きながら、まるで愚かで仕方のない存在に対して言い含めようとしているかのような口調にて、語り始める。
「…………はぁ。
良いですか?
貴方達が齎した情報。
それは、大変に貴重なモノで、今後のこの国の行先を左右しかねない程に重大なモノだと言えるでしょう。
えぇ、ソレは私も保証しますよ」
「!?
だったら!!」
「ですが!!
それは、あくまでもソレが事実であったのならば、の話です」
「…………つまる所、貴殿は当方らが虚偽の申告をしている、と申したいのか?」
「えぇ、ご理解頂けた様で何より。
この様な御大層な『証拠』まで捏造しておられる努力は認めますが、ソレを持ち込む先を間違えましたね」
小馬鹿にする様に、鼻を鳴らして『証拠品』を目の前の机へと放り投げる上役の森人族。
ドゴッ!と鈍い音を立てながら落下し、確実に机に凹みを作った『傀儡』の一部をつまらなさそうに眺める彼の姿に、アレス達は開いた口が塞がらない様な心持ちとなっていた。
耳にした情報が国の今後を左右する可能性が在る事を理解しながら、ソレを虚偽だとして頭から否定して掛かる?
重要度が理解出来ていないならまだしも、何故ソレを理解しながら調査もせずに否定出来るのか??
アレス達の脳裏に『?』が飛び交う中、そんな事も分からないのか、と言わんばかりの嫌味な表情と仕草で銀の長髪を払いながら、再び口を開いて行く。
「はぁ……良いですか?
先ず、貴方達の言葉が信じられないのは、貴方達のみからしかこの報告が齎されてはいないから、です。
多方面から見た、信頼性の高い情報以外は信じられない、だなんて事は、説明しなくても分かりそうなモノですが?」
「…………だったら、アンタの言う所の『信頼性の高い情報』とやらかどうかを確認する為に、調査の一つでもやったらどうなのよ?
そうすれば、白か黒かハッキリするでしょうに」
「それが、無駄な事、だと言っているのですよ。
貴方達の様に信頼性の低い者が齎した情報を、何故わざわざ精査せねばならないのです?
それに掛かる費用も手間も小さくは無いと言うのに、本当かどうかすらも曖昧で、仮に本当だったとして再現性があるのかどうかも不明な事柄をわざわざ調査する暇も費用も、私達には存在しないのですよ。
お分かりかね?」
「で、ですが!
こうして私達は霧に呑まれて魔物に襲われ、少なくない命の危機を経験しました!
そして、ソレと同等の経験をした方々は多く、人々の間で噂話として定着しております!
ならば、ソレを払拭する意味合いでも!!」
「……………はぁ〜、偶に居るんですよねぇ。
貴女みたいに、外の世界へとフラフラと無責任に出て行って、勝手に戻って来たと思ったらそれまでの仕来りを色々と否定して、勝手にアレコレと広めようとする輩が」
「…………ちょっと、ソレは流石に言い方が酷過ぎるんじゃないのです?」
「事実ですが?
外の世界で何を見てきたのかは知りませんし、知りたくもありませんが、ここでそれまで続いて来た事はそれなりに意味があって続いていた事です。
ならば、自称『画期的な事柄』を強引に導入し、それまでのモノを無理矢理に変えて不手際が起こって大惨事になるよりは、元来の事柄を続けている方が余程建設的で効率的だとは思いませんか?
せめて、我が国の国民の証言が在れば話も変わったでしょうが、所詮は異国民の報告と噂話、でしょう?」
「…………その噂話の通りに襲撃された、って事なんだけどねぇ。
それでも、取るに足らない下作な情報、って切って捨てるつもりかぃ?」
「えぇ、寧ろその言葉によって、確信が持てましたからね。
貴方達の言葉に、信ずるだけの重みはありません。
大方、騒ぎを起こして貴方達が所属する組織をこちらに置かせよう、との魂胆だったのでしょうが、残念でしたね。
さぁ、話は終わりました。
御退席を、お願い致します」
そうして、ほぼ一方的に、名乗りもせずに言い切った森人族の男により、アレス達は追い返される羽目になってしまったのであった……。