『追放者達』、星樹国を進む
謎の勘違いをしていたセレンに必死に釈明し、それは誤解である、と説明するアレス。
それにより、まぁアレス様はお尻よりもお胸派ですものね、とある種の爆弾を投下し、彼の尊厳を一定量粉砕して上機嫌に戻ったセレンを不思議そうに眺めていたヴィヴィアンともまた一騒動あったのだが、無事に食事に有り付き部屋へと案内されて一夜を明かす事になる。
なお、当然の様にそれぞれのパートナーとの相部屋を女性陣が希望した事によってカップリングが全バレしたり、部屋でナニするつもりだったのかもバレたりした為に、急遽ヴィヴィアンを含めた女性陣にて『女子会』が開かれる事になった。
その際、当然の様に蚊帳の外へと置かれる事になったアレス、ガリアン、ヒギンズの三人は、軽く顔を見合わせてから『どうせならこっちはこっちで『男子会』でもやろうか』との流れとなり、それまでの街や国にて個人的に溜め込んでいたツマミや酒を持ち寄って、一室にてプチ宴会を催す事に決定していたりもした。
そうして、女性陣はそれぞれのパートナーとの馴れ初めやらナニやらについて赤裸々に姦しく語り合い、男性陣は男性陣で時折猥談や下ネタ等を挟みながらもワイワイと楽しく呑んで行く。
普段の通りの振る舞いである、といえばその通りなのだが、それでも同性同士のみでの集まりにて、周囲に対して遠慮したり憚ったりする事無く色々と語り、吐き出す場が在るかどうか、といった事はやはり大きな差になると言っても良いのだろう。
そうして一夜を明かした一行は、ヴィヴィアンの勧めもあって滞在している街を巡ってみる事にした。
基本的に鎖国に近い状態となっているこの星樹国では、当然の様に他の国の人間が足を運んで来る、だなんて事は想定されていない為に、宿泊業や飲食業が発達していないだけでなく、それらの人員を立ち寄らせる事を考慮しての、謂わば『観光地』であったりだとか『目玉』と呼ばれるようなモノが作られる事は無かった。
が、それはあくまでも『作られはしなかった』と言うだけの話。
現地の者が知っている名所、とでも呼ぶべきモノは自然と出来上がっており、ソレをヴィヴィアンからの説明を元にセレンが先導する形で巡って行ったのだ。
星樹国でしか採れず、しかし星樹国では比較的簡単に採る事が出来る薬草や素材の群生地であったり、野菜と言うには品種改良も育成に手を出す事もしておらず、定義的には『野草』と呼ぶしか無いが、アレス達が昨夜も口にした食材が生えている空き地であったり。
星樹国としては『当たり前』の常識的な光景であるが、外から来た者からすれば『不思議』でしょうがなく、只管に『珍しい』と感じるであろうスポットを、星樹国の内外双方に所属した経験から把握していたヴィヴィアンによるツアーの構築は大成功を納める事となった。
一行には、かつては住民であったセレンや、既に訪れた事の有るヒギンズも参加している。
が、両者共にこの国に対してそれなりにブランクが在る為に、それなり以上に新鮮さを味わう事が出来ていたのと、他の面々が思った以上にはしゃいだり純粋に楽しんだりしている姿を見て、彼らも楽しく嬉しくなっていた為に、やはりプロデュースした側としては『大成功』と形容するのが妥当な結果と言えるだろう。
そうして滞在を伸ばしたアレス達は、更に一夜をヴィヴィアンの宿にて過ごし、翌日ニヤニヤ笑いを浮かべた女将に見送られながら出立する事になる。
何故その様な対応になったのか、と言われれば、やはり今回取った部屋が三つで、翌日起き出して来た女性陣の肌がツヤツヤとしており、とても上機嫌になっていたからだ、と言えてしまうだろう。
気不味そうな空気を発するセレンと共に足早に出立したアレス達であったが、その段に至って漸く彼から今回の方針を打診される事となる。
が、ソコに至ってから彼らは、とある問題に直面する事となったのだ。
…………そう、なんと、彼ら星樹国の国民は、上層部に至るまで、街の名前を付ける、と言う習慣すら持ち合わせていなかったのだ。
そんな事が有り得るのだろうか?
そう思われてしまうかも知れないが、しかし彼らにとってはそれで十二分に通用してしまう事なのだ。
そんな馬鹿な、と思われるかも知れないが、そもそも彼らはあまり大きく移動する事を習慣として持っていない。
故に、街一つで生産も採取も消費も大体が完結してしまい、時偶用事があって街の間を移動する者が居たとしても、大概が隣の街へ、程度のモノで終わってしまうのだ。
その為、基本的に『自分の住んでいる街』『隣の街』『親戚の住んでいる街』『〇〇が在る街』等にて認識が完結してしまう傾向が強い。
なので、わざわざ街毎に固有の名前を付けて区別したり、遠方の街の位置や特徴を覚えたり差別化を図ったり、といった事をしないしする必要性を感じていない様子であった。
一応、国としての体裁を取り繕い、その上で運営している組織が在る関係上、維持や管理、整備や徴収等に関連する諸々としては、最悪に近しい環境かも知れない。
が、聞くところに依れば、代官として派遣されている官吏の名前で『〇〇の街(代官の名前)』的な呼称が仮的に付けられており、それでそれぞれの街を認識している状態になっているのだとか。
それで本当に大丈夫なのだろうか?と思われるだろうし、アレス達もそう思っていたのだが、コレが割りと安定している状態なのだとか。
何せ、代官を務めるのも長命な森人族なので基本的に何百年に一度程度でしか代替りしない為に名前なんて、管理する台帳の上でも殆ど変わらないし、そもそも他国から入ってくる者に関しては最初から考慮に入れていないので、自分達で不都合が無ければほぼ大丈夫な構造になっているのだ。
仮にも、国として立つ事になったのだから、と当時森人族の人々が身を寄せ合い、一つの集落を作る際に寄り代として仰いだ『大星樹』の名前から国の名前も付けた程である。
誰かしら当時の指導者が、自分の名前を付けて権威を誇る為に〜、とか言う事態でも無く、あくまでも自然と流れでソレに決まったとの事であり、必要が無ければ名無しのままで来たんじゃないの?とはヴィヴィアンの言であり、セレンもそれに賛同していた。
なので、具体的な条件、例えば『絶景が見れる街』だとかのアレコレを付けたとしても、住民であったセレンですら具体的な街の名前や位置を挙げる事が出来ないのだ。
一応、かつて住んでいた街や、ソコを起点としての周囲の位置関係等はまだ覚えているそうなのだが、ソレを活用するにもまずはその範囲に掠る程度には近付かないと役に立たない、ある種の無用の長物と化してしまっている、とは言い得て妙な状態かもしれないが。
それであっても、流石に首都としての機能が在る所と、そこへと至る道筋には、一応心当たりが在る、との事。
そして、一度そこに辿り着けさえすれば、極端に色々と変化してさえいなければ、自分の記憶を頼りに色々と案内が出来る、ハズ!とセレンも気合を入れて立候補してくれていた為に、当面の目的地として星樹国の真ん中であり、名前にも付いている星樹の麓に存在する街へと向かう事に決定し、ソコを目指して出立する事となったのであった……。