『追放者達』、第二の都市を歩む
取り敢えず執筆速度が上がったみたいなので三日に一回更新で行こうかと思います
通用門でのやり取りを終えた『追放者達』のメンバー達は、現在アルゴーの内部へと足を踏み入れていた。
カンタレラ第二の都市として名高いアルゴーは、その規模と居住人数によってその名を獲得しているだけの事はあり、純粋な活気や経済状況と言った面から見た場合、王都であるが故に首都としての機能を得ているアルカンターラのソレと並ぶ処か、下手をすれば上回っている側面すら在ると言えるかもしれない。
当然、そんな規模の都市であれば、冬季の真っ只中であり、周囲を積雪によって閉ざされた状態となっていたとしても、大通りともなれば人通りも多く在り、気温と曇天と道行く人々の服装にさえ目を瞑れば季節さえ勘違いしそうな程であった。
そんなアルゴーの通りを、人々の注目を集めながら『追放者達』が進んで行く。
多くの従魔を従えた一団である、と言う事も在るのだろうが、何よりこの季節にほぼ見覚えの無い顔ぶれをした武装集団、と言う存在が居たとしたのなら、流石に冒険者が一般的に認識されていたとしても、自然と視線を集める事となっただろう。
とは言え、それも視線を集めている原因の一部でしか無い。
その内の大部分の一つとしては、やはり彼らが『Sランク』と言う高みに在るから、と言える。
流石に、冒険者とほぼ関わりも興味も抱く事無く過ごしていた一市民であれば知らずにいたとしても不思議では無いが、一般的には『Sランク冒険者』とは超が付く程の有名人なのだ。
それこそ、下手な貴族なんかよりも余程名前が通った存在であるし、何よりこのアルゴーの近隣に於いて発生した大事件を解決してその座に収まった冒険者パーティー、と言う事もあり、彼らの顔ぶれや名前と言った情報を知っている者も、決して少なくは無いだろう。
そう言った、名の通った存在に対する憧憬や、偶然とは言え遭遇する事の出来た驚愕と言った視線以外で大きな割合を占めているのは、やはり『嫉妬』の籠った視線だと言える。
主に、それらの視線は女性からのモノはタチアナやナタリアに向けて放たれ、男性からのモノはアレスへと向けて放たれている状況となっていた。
タチアナやナタリアへと向けられているそれらは、彼女らの『立場』を羨むモノであった。
同年代として見れば発育も良く顔立ちも整っているタチアナや、端から見るとほぼ子供としか見えないナタリアは、どうやら実態を知らない第三者からすれば『与し易い相手』であり、かつ『居ても居なくても変わらない存在』として写っている様子。
その為、そこに彼女らが居なければ、自分達こそがそこに居る事が出来た、その席に座っている事が出来たかも知れないのに、『Sランク冒険者』と言う高みに登り、強く逞しい仲間を伴侶として周囲から注目と名声を集めながら優雅に生きて行く事が出来たハズなのに、と言う欠片も根拠の無い妄想を、さもそれが事実である、と言わんばかりの制度で嫉妬して見せている、と言う訳なのだ。
尤も、そうして集まる視線の中には、純粋に二人に対しての憧れが込められたモノも混じっていたのだが、二人の肢体や容姿に起因しての欲望が込められたモノもソレなりの量含まれており、それぞれのパートナーがその肩を抱き寄せたり尻尾を絡めたり、と言った一種の『アピール』をする羽目になっていたりもする。
翻ってアレスに集まる視線の種類を見てみれば、その大半はやはり『嫉妬』となるのだろうが、こちらは彼の『現状』に起因している、と言えるだろう。
何せ、彼は元々あまり良い噂が無く、その上で能力的にもイマイチ、と言うのが定評であった為に、こうして『Sランク冒険者』として仲間と共に歩んでいる、と言うだけで多くの嫉妬と憎悪を集める形となるのは、ある意味仕方の無い事だと言えるだろう。
が、しかし、それらの誤情報は、既にアルカンターラでの一件を情報として知っていれば払拭出来たであろう事であるし、噂の大本となっていた『連理の翼』も積極的にそれらの情報は偽りであった、と公言していた為に、事実彼は『Sランク冒険者』として相応しい実力と能力を持ち合わせている、と知っている者も少なくは無い。
故に、今彼に対して負の感情を込めた視線を、穴を開けんとするばかりに注いでいるのは、全てそう言った情報を持ち合わせていない種類の人間である、と言う訳では実は無い。
…………では、どう言った人間で、どの様な理由にてそんな事をしているのか?
その理由を説明するのは、至極簡単。
彼の腕に、満面の笑みを浮かべながらセレンが抱き着いている、と言う一言にて説明が付いてしまうからだ。
元々、他の種族的に見て『森人族』と言うのは大変に容姿の整った、美しい種族であると言える傾向がある。
その『森人族』の中でも一際飛び抜けた美貌を誇り、その上で弾けんばかりのスタイルと聖女としての高い能力を兼ね備えたセレンは、言ってしまえば『触れられざる天上の存在』であり同時に『極上の女』と言ってしまえる対象なのだ。
そんな、通常であれば見る事すら叶わず、触れる事は当然としてましてや男女の仲に発展するなんて有り得ない、と断言出来てしまうであろう程の謂わば『高嶺の華』とでも表現するべきセレンと触れ合っている、と言えば、周囲の男性諸君が向けている視線の種類は自ずと特定出来る事だろう。
しかも、ソレを男性側であるアレスから行っているのであれば『強引に迫っている』と解釈して多少は鎮静化もしたのだろうが、実際の処として彼女の方から頬を染めつつ口元を緩めながら腕を絡ませ、分厚い防寒着の上からでも分かる豊満な膨らみをグイグイと押し付けて誘惑している、と言う場面を見せ付けられてしまっては、先に挙げた様な自己防衛を図る事すらも出来ず、憎悪と嫉妬心に身を焦がしながらも視線を注ぐ事しか出来ていない、と言う訳なのだ。
とは言え、流石に『Sランク』とまで行けば否応なしに視線が向けられているのかそうでないか、それがどんな種類なのかはなんとなく察する事は容易く出来るし、職業として『暗殺者』を持っているが為に気配の機敏にも鋭くなっているアレスとしてはほぼ完全に針のむしろ状態であったが為に、やんわりと腕に抱き付くセレンの説得を試みる。
「…………なぁ、セレンさんや?」
「あら、なんでしょう?
もしかして、もう我慢出来なくなりましたか?」
「そうね。
我慢出来なくなりそうなのは、多分君が予想してるのとは別の『何か』だけど、確かにそろそろ限界が近いかもね」
「まぁ!
でしたら、早めに宿を取ってしまわないと!
出来るだけベッドが大きくて、それでいてお風呂が付いている部屋が在って、かつ空き部屋が三部屋以上在る宿が残っていれば良いのですが」
「いや、さっきも言ったけど、そう言う意味じゃないなから……」
「…………え!?
では、宿も取らず、お風呂にも入らず、このままの状態で愛し合いたい、と!?
………………あの、アレス様がソレをお望みなのでしたら、私としては吝かでは無いのですが、その……数日間とは言え、道中で身を清めてはおりましたが、汚れだとか匂いだとかが色々と……私も、女なので、気になるのですが……」
「…………別段、そう言う催促じゃ無いし、そう言う特殊な趣味も……興味無い、と言えば嘘になるけど、ヤるつもりは今の所無いからね?
あと、セレンさんに汚い場所は無いし、いつも良い匂いしかしないから、そこまで気にしなくても良いのでは?」
「もうっ!
先程も言ったでしょう!私も女なのですよ!
想いを寄せた、愛した殿方相手には、一片たりとも汚れている場面なんて好んで見せたくは無いのです!
………………でも、そう言って頂けると、個人的にはとても嬉しいです♪お礼にキスして差し上げます♥️」
「…………だから、その……嬉しくない訳じゃないけど、周囲の視線が厳しいので今はちょっと……。
それと、そろそろもうちょっと離れて貰えると……」
「あら?こうして抱き付かれるのは、お嫌いでしたか?」
「柔らかくて気持ち良いし凄く良い匂いもするので正直興奮するので大好きです!
………………はっ、俺は今何を!?」
「まぁ!なのでしたら、なおの事早く宿を取りに行きませんと!
さぁ、さぁさぁさぁ!」
「ちょっ、待っ……!?
なんでそこまで乗り気で……!?」
…………が、結果的にはセレンの勢いに押し切られる形で彼の望みが叶う事は無く、苦笑を溢したり生暖かな視線を向けてくる仲間達と共に、足早に通りを歩んで行く事となる。
そして、その後には、積極的に攻め込んで行く事すらも厭わない程に聖女であるセレンがアレスへとベタ惚れ状態である、と言う事実を突き付けられた野郎共が、血涙を流しながら地面へと崩れ落ち道端に退けられていた雪塊を悪鬼のごとき形相にて殴り続ける姿のみが残されるのであった……。
…………こいつら爆発しねぇかなぁ……(血涙)