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『追放者達』、星樹国を堪能する

 


 最初に行き着いた街を出て更に進んで行ったアレス達『追放者達(アウトレイジ)』の一行は、同じ様に森の最中の道を進んで行く。


 一応、聞いていた限りではその範囲では無いらしいが、例の噂話の霧が出て来ないか、と周囲を警戒しながらの移動となったが、結局遭遇する事も無く、普段の通りに時折襲い掛かって来る魔物を蹴散らしながらの道程となり、それ程しない内に次の街へと到着する。



 何故、そこまで近い街へと急いで移動する必要があったのか?


 友好的では無い層もあったとは言え、ソレはあくまでも一部の者であり、そうでは無い友好的な者も多く居たにも関わらず、何故そうしたのか?



 ソレは、先の街に、宿泊施設や食事処が殆ど無かったから、である。



 そもそも、星樹国自体が外からの者を殆ど受け入れてはいない。


 なので、人が移動する、と言う概念と需要がほぼ国内に存在しない為に、国民は仕事をしては家に帰り、そこで食事をして家族と団欒し、偶に友人や知人の家へと遊びに行く、といった行動様式となっている。



 その為に、街であろうと宿泊可能な施設は殆ど存在しておらず、また飲食店の類いも滅多に建っている事は無かった。


 また、彼らの生活様式の習慣として、毎日行う作業が変わる、といった事もあった為に、それらの『長期的に同じ職業として就き続ける』様な事柄は、あまり国内で発達しなかったのかも知れない。



 尤も、そんな生活習慣を持つ彼らも、多少の得手不得手や得意苦手の意識はあっても、大体は皆『どの作業もまぁまぁ出来る』程度に落ち着くのだとか。


 通常の人間種よりも長く永い寿命を持つが故に時間が多くあり、職務に就いたばかりの頃ならばともかくとして、大体は余りある時間に有無を言わせて『それなり』のレベルにて習得する事を可能とするのだとか。



 そんな彼らに珍しく、固定で宿泊施設と飲食店を経営している人物が、彼らが今到着した街に住んでいる、のだとか。


 曰く、外の世界の話を聞いて、非日常的なちょっとした贅沢、を提供出来る様な場所を作りたくなった、のだとか。



 時折、自らの家ではない場所にて寝泊まりし、自分や家族では無い者が作った料理に舌鼓を打つ。


 他の国では当たり前でありながら、自国では誰もやろうとはしなかった事を実現出来たなら、との思いでやってみたのだとか。



 最初こそ、奇特な事をしているな、と思われる程度で、普段の職務を免除される事も無かったらしいのだが、徐々に利用する人々が増え、広く認識され利用する者も多くなる様になると、ソレが固定の仕事、として周知される様になっていたのだ。


 先の街では無かったが、今では他の街にも似たような施設を作って運用したり、作ろうとしている動きが在るらしい、とアレス達は交流を持った若者達から聞き及んでおり、ならば近いのだからそちらを取り敢えずの拠点としてしまおう、と考えてさっさと移動する事に決定し実行していたのだ。



 そんな訳で速度に任せて移動をサクッと終わらせた一同は、聞いていた店の場所へと向かって行く。


 街の中央部に見える一際大きな巨木……からみて東側の外周付近、との事であり、開店した際の不遇具合が透けて見える様な心持ちとなるが、まぁ何事も第一人者の扱いとしてはそんなモノか、と若干の憐れみと共に聞いた特徴を元に探して行く。



 すると、そこまで時間を掛けずに目的の宿を見付ける事が出来た。


 表の看板は外へと出されており、簡単なメニューと共に店のエンブレム的なモノであろう大きな枝を広げた木の印象と、店名であろう『ヴァヲバヴゥ』の文字が印象的であり、暖簾を潜る前に『どうやって発音するモノなのか?』で一議論起きた程であった。



 とは言え、彼らも空腹を抱えた状態であった為に、然程時間を掛ける事無く暖簾を潜る事となる。


 幾ら自炊が出来、その上で食料も未だに潤沢に抱えている状態である、と言っても、やはり野営で手作りするのは手間であるし、支払い能力が欠けている訳でも無いので、手軽で暖かく、その上地元色が強い美味しい食事にありつけるのであれば、やはり彼らも店を使う事に否やは無いのだ。



 内装は、アレス達にとっては当然の様に見慣れないモノとなっていた。


 何せ、ツリーハウスである以上、当然の様に建物のど真ん中を樹木が貫いている状態となっており、内部はそれなりに広く造られてはいるものの、見慣れぬソレの存在感はかなりのモノとなっている様に感じられていた。



 ソレに物珍しさを覚えながら眺めていると、メニューと思わしきモノを手にした森人族の女性が近寄って来る。


 流石に、飲食店を経営しているからか、もしくはセレン曰く『アレは若い世代に流行っているだけですから』との事であったので、ソレから外れているからかは不明だが、美しく長い金髪を後ろで一纏めにしており、整った相貌や清潔で簡素な服装と相まって、セレンと並んで『The・森人族(これぞエルフ)』と言った感じの見た目をしていた。




「いらっしゃいませ!

 皆さん、見た所他の国からいらっしゃった方々ですよね?

 慣れてないでしょうから、メニューの内容等の説明もさせて頂きますね!

 こちらは宿も併設されておりますので宿泊も大丈夫ですが、如何なさい…………って、え?

 もしかして、セレン……?」



「…………?

 確かに、私はセレンですが、何故私の名を……?

 って、え?もしかして、貴女、ヴィヴィアン!?」



「そう、そうよ!

 貴女の友達だった、ヴィヴィアンよ!

 凄い偶然!久し振りね!!」




 接客業に慣れ親しんでいる者特有の明るさにて、笑顔で話し掛けて来た森人族。


 どうやら、こちらが不慣れであろう、と慮った結果の親切心によって寄って来た容子であったが、その言葉は途中で途切れて視線はセレンへと固定される事となる。



 そして放たれたセレンの名前。


 最初こそ、何故自分の名前を?と不審そうに眉を顰めていたセレンであったが、かつての顔と声とが記憶にて結び付いたらしく、驚愕に顔色を染めて着いていた席から飛び上がった。



 自らの事を思い出して貰えた事で、喜びの感情を爆発させるヴィヴィアン。


 立ち上がったセレンへと飛び込む様に抱き着いた後、互いに手と手を取り合って軽く跳ねながら、身体全体にて嬉しさを表現するその様子は大型犬を彷彿とさせるモノがあり、どちらかというと『可愛らしさ』よりも『怜悧さ』を感じさせる美人さんであった為に、とても大きなギャップが発生する事となっていた。



 ……確率としては、確実に高いモノでは無かっただろう。


 だがしかし、この国はセレンの出身国であり、成人の儀の結果によって出る事となったとは言え、それまでに関係を結んでいた人々との縁が切れた訳では無かったのだろうし、彼女とて望んで行った訳でも無かったのだ。



 なれば、知り合いの一人や二人は居て当然であるし、再会できれば喜びも一入、と言うモノであろう。


 幸いにも、この国の住民は基本的に森人族であるのだから、彼女がどれ程前にこの国を出る事となったのかは知らない(聞こうとすると背筋を寒気が貫く為に誰も聞けていない)が、それでもまだまだ健在でいる可能性の方が高いと言えるのだから、目的の一環として狙って訪ねてみるのも良いだろう。



 そんな風に、わちゃわちゃと和やかに絡む二人の美女を眺めながら思っていたアレスは、その後に仲間でありパーティーリーダーであり婚約者である、とセレンから紹介され、驚きと好奇心の視線を一身に受けながら、セレンと共にアレやコレやと色々な話をせがまれる事になるのであった……。




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