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『追放者達』、星樹国を歩く

 


「────と、こんな所か。

 これで、一通りの確認は終わったが、何か質問はあるか?

 …………それと、こちらの頭にクモか何かでも付いていたか?

 矢鱈と、視線を向けられている様にも思えるが、何か面白いモノでもあったか?」



 そう言われて、慌てて視線を逸らす一行。


 彼の指摘の通りに、アレス達の視線は彼の頭部、より正確に言えば髪型へと固定された状態となっており、説明の形であったとしても会話していれば嫌でも何処を見られているのか、は理解出来ていた、と言う事だろう。



 そんな彼らの様子を目の当たりにして、眉間にシワを寄せる森人族の男性。


 一応、入国に当たっての説明は聞いている様子であったから最後まで特に指摘する事は無かったが、それでも視線が一点に集中していれば嫌でも気付くのだから何事か?と問い掛けてみれば、一様に視線を逸らされてしまった為にどうしたのだろうか?と訝しんでいたのだが、不意に何かに気が付いた様に自らの頭部を指差すと




「何だ?

 諸君らは、そんなにこの髪型(コレ)が気になるのか?」




 とアレス達へと問い掛けて来た。



 咄嗟に腹筋へと力を込めて、吹き出さない様に堪える一行。


 奇抜かつ奇妙な格好をして注目を集めていた人物が、自ら『コレが気になるかね?』と問い掛けて来たのだから、最早コントかコメディの類いである、としか言い様が無いのだから仕方が無いだろう。



 そんな彼らの状態を目の当たりにして、森人族の男性は不機嫌になる……どころか何故か微笑みを浮かべる程に上機嫌になっていた。


 何故その様になっているのかは不明だが、無理矢理にでも理由付けて考えるのであれば、恐らくはアレス達の反応を『好意的』『肯定的』なモノとして受け取った結果、と言う事なのだろう、多分。




「…………ふふっ、そうかそうか!

 コレが、そんなに気になるか!

 いや〜、確かにやってみた当初は違和感も無くはなかったが、それでも慣れるとそうでも無い上に、()()()()()()()()()()()()()()だったからな!

 まぁ、内々とは言え、流行りに乗るのには多少勇気は必要だったが、ソレはソレとして中々に『良いモノ』だろう?

 どうだい?

 諸君らも、試しに一つやってみないかな?」




 その証拠、といえば良いのかは少々アレだが、上機嫌な様子にて髪型について語りつつ、良ければ君達も、と同じ髪型を勧めて来る森人族の男性。


 その段に至って、最早彼らの腹筋に耐えられる道理は無く、思わず顔ごと背けて吹き出すのを堪え、肩を震わせながら俯いて行く。



 唐突過ぎる程に唐突な反応に、不思議そうな表情を浮かべる彼であったが、まぁ良く知らない国の人達なのだからそう言う風習もあるのだろう、と分からないなりに納得してか、一つ頷いてから手続きを終え、アレス達へと入国の許可を告げて来る。


 その際、自分の様な格好をしている者は結構多いがソレがユグドレミニアの最近の流行りだから気になるのならば諸君らもどうかね?と言う耳を疑う様な誘い文句を受ける事となり、第二次腹筋大崩壊事件が発生しかける事となるが、寸前で離脱する事に成功し、その場は何とか難を逃れる事に成功する。



 …………そんな経緯で星樹国へと入った一行は、またしても森の中を数日の時間を掛けて進んで行く事となる。


 他の国とは異なり、国境線が敷かれて他国との窓口となっている場所であるにも関わらず、現地に町の類いが築かれてはいなかったから、だ。



 元より、半ば鎖国めいた封鎖を敷いている国。


 故に、人の往来、と言う最も商機が高まる事が発生せず、ソレ故にそこを目当てとして人が集まる事も、需要が発生して自然と築かれる事も無く、ただただ最低限の人員と設備とが設置されて終ってしまった、と言う事なのだろう。



 ……とは言え、ソコに泊まれたから、と言っても彼らが泊まったかは不明だが。


 何せ、近くに確実に例のモヒカンの彼が存在しているのだから、何かしらシリアスな話題を話し合っている時にでもチラリと見掛けてしまえば、まず間違いなく笑い袋と化し、腹筋が崩壊して雪崩を起こす事間違い無し(?)だったからだ。



 そんな事情もあって、彼らは星樹国を満喫するべく宿泊出来る場所を探して森を進んでいた。


 幸いな事に、既に国内へと入っていた事もあってか、木々の間を適度に開いて作られた道が続いており、ソレに沿って進めば余程ちゃらんぽらんな事をしない限りは町か街へと辿り着ける様にはなっていた。



 その手伝いもあってか、多少時間は掛かったものの、無事に街へと辿り着く事に成功したアレス達。


 …………しかし、彼らはそうして到着した先にて、笑撃(誤字に非ず)の事実を目の当たりにする事になった。



 別段、何かしらの特別な催事が開催されていた、と言う訳では無かったとは、後日知る事となった。


 故に、彼らの目の前に広がる光景は、この国では至極当然で、ありふれた日常の一コマである、と言う事なのだろう。



 建物、と言って良いのかは少々議論の余地が残されているであろうが、取り敢えず家屋の類いに関しても、別段変な部分は無かった。


 ヒギンズ曰く『笑うか驚くか』と言われていた星樹国の建築様式は一様に樹上に作られたツリーハウス的なモノであり、ソレは鍛冶や調理といった火を扱う事柄を行う設備に関しても同様であり、そこまで木に拘るかね!?と驚きはしたし若干笑いもしはしたが、別段それだけで行動不能に叩き込まれると言う程では無く、一応は無事に済んでいた。



 また、食事は野菜と言うよりは野草が中心で肉も出て来たり、服装も多少傾向が変わっている様にも見えたが受け入れられる範疇に収まってはいた為に、同族であるセレンが共に付いていた事もあってそれらを満喫する事すら出来ていた。


 …………では、何が彼らの腹筋を崩壊させ、窒息と痙攣によって冥界へと引きずり込む手前まで行かせる事になったのか?





 それは、道行く彼ら彼女らの頭部、髪型にあった。





 彼らは、当然の様に整った容姿をしていた。


 仲間であるセレンと同様に、輝かんばかりでありながら、それでいて画一的では無いそれぞれで特徴の在る美貌を誇り、かつ体型もそれぞれでありながらも確実に『美』を感じさせるモノとなっていた。



 …………いたのだが、何故かその頭部に関しては、外から来たアレス達にとっては非常にアンマッチなモノとなっていた。


 そう、国境線にてアレス達が遭遇した彼の様に、整ったイケメンフェイスや輝かんばかりの美女の美貌の上に、モヒカンヘアーやアフロ、極太で精緻なドレッドや何かの脂で固めた様な天を突くツンツンヘアーに、最早何かの角にしか見えないモノが無数に生えている様な髪型が乗っかっているのだ。



 それは、流石に笑う以外の選択肢は存在していなかった。


 しかも、そういう髪型をしている人々に限って、この星樹国では珍しい他国人他種族である彼らに興味深々で近づいて来たり、親切にアレコレと説明してくれたりするのだから、そのギャップで一段と笑撃力は高まっており、彼らの腹筋は容易くぶち抜かれる事となった。



 勿論、彼らとしても堪らえようと努力はしたし、セレンから『この手の髪型は定期的に変なのが流行るから余りイジらずに……』と注意も受けていたのだが、アレやコレやと近付かれたりもして、時折宿の部屋や仲間内だけでの場で発散(爆笑)するのでは追い付かず、不意に暴発してしまう事も多くあった。


 その度に心配されたりもしたのだが、セレンが間に入って上手く説明(この国の文化はかなり独特で外から来た彼らには面白く映ってしまう等々)してくれ為に、今度は逆に彼らの方が自国の面白い文化に付いて語る事になり、結果的に異文化交流を深める事態となったのであった……。




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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして いつも楽しく拝読させていただいております。 流石に、エルフと髪型の組わせは・・・ あの堅物のズィーマ君の腹筋も貫通しそうですねぇ((笑))
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