『追放者達』、森を進む
次なる目的地を確認した『追放者達』一行は、一路森の中を駆けて行く。
ソコを通り抜けて行くのが、聖王国から森人族の国へと向かうのに最も近い国境線が在るから、と言うのが理由の一つであったが、それ以外にも当然の様に理由は存在していた。
「ところで、以前に少しだけ聞いた事もあったとは思うんだが、本当に森人族の国って森の中に在るんだよな?
流石に、ちと不便に過ぎないか?」
「あぁ、ソレは当方も思っていたのである。
聞く限りでは、森を拓いて、と言う訳でも無いのであろう?
であれば、どの様にして生活圏を確保しているのであるか?
食料の確保であるとか、流石に一国の規模では狩猟と採取では賄い切るのは難しいのではないであるか?」
「あ、それは確かに。
偶々出来た森の空き地に畑を作って〜とかならまだ遣り様も在るかも知れないけど、それだって高が知れてるものね。
それに、鍛冶だとか加工だとかの類いもどうするのよ?
あれらなんて、文字通りに火と設備に頼ってる技術なのだから、森なんて大規模に拓かないと無理なんじゃないかしらね?」
「なのです!
それに、家だとかもどうしているのです?
流石に、普段の振る舞いから火も使わず肉も口にせず、なんて半分揶揄した噂話とは違うのは知っているのですが、だからと言ってソレが可能な環境なのですか?
流石に、森の中で木々に囲まれながらテントと焚き火で、なんて事にはなっていないのです、よね?」
未だ森人族の国を直接訪れた事の無いメンバー達が、口々に期待と不安の入り混じった言葉をセレンへと向けて投げ掛ける。
何故その様な事になっているのか、といえば、彼らの言葉からも分かる通りに、森人族の国は森の最中に存在している、からであり、彼らがこうして森の中を突き進んでいる最大の理由でもあった。
…………実際に、パーティーメンバーとして活動し、共同生活すらも行っている彼らはその実態を知っているが、そうでない者にとって森人族の生活形式は割りと謎に包まれているモノだ。
美しい外見と長命な寿命に豊富な魔力、と来れば、裏の世界で違法な奴隷として求める者が引っ切り無しに現れる程度には人気な『商品』としてカタログに載せられおり、余り周囲の国々や種族を大っぴらに国内へと入れる事に寛容では無い傾向が強い。
それに加えて、セレンの様に必要に駆られて、と言う事情が無い限りは基本的に自分達の国から出ようとしない傾向が種族的に強い。
なので、基本的には偶々外に出ていた者や、好奇心が強く腕に自信が在る者のみが少数で国外へと出てくる程度となるので、色々な意味合いにて情報が周囲へと出回らないのだ。
となれば、彼らについての情報は、基本的には『噂話』となる事になる。
曰く、肉を食べず鉄を纏わない。
曰く、森の中で自然と一体になりながら生活している。
曰く、火を厭い木々を傷付ける事を嫌う為に家を作らない。
等等の、眉唾物で人間としてどうやって生きているのか分からなくなる程に、アレなモノも多く囁かれていたりする。
尤も、そう言いたくなるのも分からなくは無い。
何せ、こうして実際に交流を持っている彼らとてセレンには不思議な雰囲気が在るのは否定出来ないのだから、個人の事を良く知らない相手から見れば、さぞや神秘的かつ超自然的な空気を纏った存在、として目に映る事だろう。
とは言え、それはそれ。
実際に接していたハズの彼らの口からその様な言葉が出た事に苦笑を隠せないセレンと、実際に行った事が在るらしく実態を知っているが故に笑いを堪えている様子のヒギンズが、口々に質問を投げ掛けてきたアレス達へと応えを返して行く。
「もう、皆さん分かって聞いておられますよね?
確かに、便利とは言い難いですし、他の国々よりも食料の確保、といった点での苦労は多いとは思いますよ?
でも、産まれた頃からその環境で、ソレ以外を知らないソレこそが当然の環境ならば、最早『当たり前』となりうるのですよ?」
「そうそう。
オジサン達は、幸いにも至極快適な環境も知っているし、こうして野外での夜営だとかの経験にも慣れているけど、そうでも無い人達にとってはどっちに振れていたとしても、結構違和感やらストレスやらを感じるモノなのさぁ。
それと、彼らの家屋やら設備やらに関して不思議に思ってるみたいだけど、アレはかなり凄いよぉ?
ネタバレしないで直接見たほうが良さそうだから、敢えて直接的な外見には言及しないけど、オジサン多分君達は『呆ける』か『笑う』かのどっちかになると思うんだよねぇ!」
「ヒギンズ様?
流石に、その選択肢はどうかと思いますよ?
素直に関心し、喜んで下さる可能性だって在るのですからね?」
「いや、まぁ、確かにソレはオジサンも否定はしないよぉ?
否定は、ねぇ?
でも、可能性としては、やっぱりそっちの方が高いんじゃないかなぁ、って思うんだよねぇ。
セレンちゃんは生まれ故郷の事だから感覚がちょっと鈍ってるかも知れないけど、アレは中々にインパクトが強い光景だからねぇ~」
「………………いや、まぁ、その……。
見慣れていない方々からすれば、多少はその、外見的に衝撃を受けられる、可能性は否定出来ない、とは思いますが、それ程、でしょうか?
そうでしょうか?
…………そう、かも?」
「押し切られた!?
いや、セレンさんや?
そこは自分の故郷の事なんだから、もうちょっと自信持ちましょうよ?
と言うか、出身者からしても、良く考えて見れば……的な外見になってる訳なんです?それらの建物って」
「…………え、えぇ、そう、ですね……。
これまでもあった、普通の街並み、の様なモノを期待なされているのでしたら、まず間違いなく驚かれる事になるかと。
ですが、その……」
「それだけ、特徴的な外見をしている、と言う事であるか?
しかし、それ程に奇特な見てくれをしているのであれば、既に外部からの見識を持ち帰った者達に指摘されているハズでは……?」
「その、私達森人族は、寿命が長い分古くからの伝統や文化を大事にする傾向の人々が多く、また実際にソレに立ち会って来た方々も少なくは無い、と言う種族でして……その……」
「…………あ〜、ソレってもしかして、アレ?
世代交代が鈍いから、価値観の代謝が行われ難くて、権力やら権威やらを握ってる老人勢が『変えたくない』『良くわからない』の鶴の一声で、結局どうやって持ち込んでも頑迷に昔のままでいさせようとしているから変わらずに続いている、ってオチ何じゃないかしら?」
「いやいや、流石にソレは考えすぎじゃないのです?
多分、ボク達からすれば多少ヘンテコに見える生活様式だったとしても、そこに魔法的な意味が込められているモノであったりだとか、生活が儀式の一部になっている、だとかの意味合いがちゃんと込められているハズなのです!
きっと、多分、恐らくは?」
「…………そこは、元住民としましては、せめて擁護して下さるのでしたら、ちゃんと最後まで擁護して欲しかったですね……」
そう口にしたセレンは、苦笑ではあったが屈託の無い笑みを浮かべており、彼らの口からどの様な言葉が出てきたとしても、特に気にした様子は見られなかった。
それも手伝ってか、更に彼らの会話は進み、非常に和やかな雰囲気のままで、目的地である森人族の国との国境線へと近づいて行くのであった……。