表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/220

『追放者達』、次の国を目指す・2

予定通りに新章開始します

 


 サンクタム聖王国を出立したアレス達『追放者達(アウトレイジ)』一行。


 季節は進み、若干ながらも寒さは緩みを見せており、最早厳冬期、とは呼べない様な気候に代わりつつあった。



 だが、それでも『常時氷点下で雪が解けずに残り続ける』状態から『氷点下付近を行き来しながら微妙に雪が減りつつ在る』状態へと変化したに過ぎない為に、やはり寒いモノは寒いままであるし、融けた雪によって地面が泥濘み、移動だけでなく野営する場所を探すのにも一苦労する様になってしまう。


 故に、寧ろ旅をするには更に厳しい状態となっている、と言えるだろう。



 吐く息すら、未だに昼間であっても白く染まる様な気温の中。


 彼らの乗る橇は、ナタリアの従魔達によっていちろう道無き道を爆走していた。



 当然、そんな人の行き来も途絶えて久しい道(普通は冬季に移動はしない)を爆走していれば、何事か、と興味を持ってしまった魔物が寄って来る事となる。


 最近、魔王が復活し、魔族による襲撃が各地で続いている影響からか、厭に魔物もその数を増やしており、各地で被害の報告と冒険者に対する対策と駆除の依頼が引っ切り無しに貼り出されている状況となっていた。



 そんな状態になっている場所が、更に冬だから、と基本的に手を入れられる様な事にもなっていなかった場所が、都合好く『魔物は居ませんでした(てへっ!☆)』なんて事になっているハズが無く、当たり前の様にウジャウジャと湧いてしまっていた。


 数だけを見れば、先の『暴走』の前段階である『坩堝』の集合数にも匹敵しており、いつ周囲へと溢れ出てもおかしくは無い様にも思えるが、あくまでも本来『暴走』とは特殊な事例として発生するモノであり、通常の状態のままの魔物がただただ集まっただけ、と言うのであれば、普通に殺し合いや縄張り争いによって勝手に数が減っては増えてを繰り返す事となる。



 が、それはあくまでも『生息する魔物の総数の管理』と言う面で見た場合の話。


 こうして、外から人が入って来ない時期であり、かつ食料として狩る事も出来ない環境になってしまっているタイミングで、基本的にはか弱い人間が魔物犇めく地域に足を突っ込んだ場合どうなるのか?は、別段説明しなくても自明の理、と言うヤツであろう。



 尤も、それは一般人であった場合だが。


 そして、今回ソレを為している者達が、その『一般人』の定義に当て嵌まってくれるのか、と言われれば、当然出る答えは『否』一択となる訳だ。




「おいおい、流石にちょいと多過ぎないか?

 普通、この手の森ってもう少し穏やかなモノじゃなかったかよ?」



「…………ふむ?

 確かに、ちと多い様にも思えるのであるな。

 何時ぞや、パーティーを結成したばかりの頃の遠征で訪れた森を思い出す心持ちであるよ」



「確か…………アンドレアルフス大森林、でしたか?

 何やら物騒な二つ名が付いていた場所、と記憶しておりますが、あの時は大変でしたねぇ」



「そう言えば、あの時位じゃないかしら?

 アタシ達が奇襲を仕掛ける、んじゃなくて、相手に奇襲を仕掛けられた、って経験は」



「そう言えば、そうなのです?

 あの時は、ボクの従魔達もまだ未熟で接近されないと気付けなかったのですし、あれだけの巨体があんなに静かに動けるだなんて、普通は想像出来ないのです!」



「なっはっはっはっ!

 まぁ、ソレはそうだよねぇ。

 多分、アイツは何らかのスキル、多分『気配遮断』とかを身に着けていた特殊個体だったんだろうけど、アレは流石にオジサンも慌てた覚えがあるねぇ。

 今となって良い思い出だし、その気になれば深層への探索も不可能では無いんじゃないかなぁ?

 こんど、機会があったら潜ってみるかぃ?」



「あぁ、それも良さそうだな。

 それぞ冒険!って感じで。

 まぁ、里帰り巡りが終わってからになるけどな」




 当然の様に、周囲から注目を集めてしまっているが故に、魔物からの襲撃を受ける事となる一行。


 しかし、彼らが会話を止める気配は無く、引き続き和やかな雰囲気のままで言葉が交わされて行く。



 一見、油断し、無抵抗ですらいる様にも見える彼らに、これ幸い、とばかりに魔物の群れが襲い掛かって行く。


 だが、至極当たり前の話ではあるが、そんな気の抜けた人間がこの様な季節にこの様な森の奥まで踏み入って来るハズも、ましてや魔物が犇めいている、と分かっていて入って来るハズも無く、極々自然な振る舞いとしてほぼ片手間に迎撃され、返り討ちになって行く。



 魔法で撃ち抜かれ、矢を射掛けられ、手斧や短剣を投擲され、糸で括られて断ち切られ、そのついでに回収される。


 その手順や動作に澱みは無く、寧ろそれらこそが当然の事である、と言わんばかりに滑らかに、自然に行われたそれらによって、彼らへと群がっていた魔物は瞬く間に数を減らし、その上で多少持ち合わせていた知性によって様子見を決め込んでいた様な魔物でさえ、片手間に殲滅し、その死体を素材として回収されてしまう。



 それには、流石の魔物達も予想外であったらしく、襲撃の勢いが目に見えて衰えて行く。


 元来、この時期に冬眠をしていない、と言うのはそういう習性が無い種族か、もしくはソレが出来なかったが為に腹を空かせているか、のどちらかである為に、こうして襲い掛かって来るのは『縄張りを荒らされた』が故の侵入者の排除、よりも寧ろ『餌として捕食する』事を目的としている面が強かったりもする。



 そんな中で、簡単に腹を満たせる様な相手では無く、寧ろ掛かって行くと殺されかねない相手である、と認識してしまった、と言うのも大きいだろうが、最大の理由としては()()()()()()()()()、だろうか。



 魔物同士、同種となれば多少は違うのだろうが、基本的には食って食われてする様な関係性しか持ち合わせてはいない存在だ。


 故に、捕食目的で襲い掛かって来たとしても、そこに別の『喰えるモノ』が在ればそちらへと簡単に矛先を向けてしまうし、そちらの方がより楽に、確実に腹を満たせるのならばそちらを主に狙うようにすらなったりもする程だ。



 しかし、今回はそのどちらもが望めない状況となっている。


 侵入者は倒せそうに無いし、先に掛かった連中は皆殺しにされてはいるものの死体が残っている訳でも無いので喰える訳でも無く、正しく骨折り損の草臥れ儲け状態。



 魔物とて、食って生きる為に獲物を襲っている。


 故に、どう足掻いても食えそうに無く、また自分達が死ぬ可能性の方が高い、と見積もれば、当然の様に手を引いて撤退する、といった選択肢を選ぶ事もあるのだ。



 そんな事情もあってか、暫くして周囲が静かになった中を変わらずに進み続ける『追放者達』。


 その橇の上で、アレスは聖王国にて手に入れていた地図を広げ、これまでの移動距離や方角、そして周囲の特徴的な目印等から現在の位置を割り出し、口を開いて行く。




「そろそろ、国境線に近い場所まで来てる、ハズだ。

 となると、次の目的の国に近付いてる訳なんだが、次の行き先ってどこだったっけか?」



「…………おいおい、リーダー。

 その歳で、早くも呆けているのであるか?

 流石に、ちと早過ぎるのでは無いであるかな?」



「そうですよ?

 終の介護どころか、下の世話とて喜んでさせて頂く所存ですが、ソレはもっともっと後に、二人の思い出を数え切れない程に作ってから、のお話なのですからね?」



「いや、流石に本気で忘れた訳じゃ無いでしょうよ。

 行き先なんて、戻る以外なら一つしか無いんだし」



「なのです!

 精々、国の名称がど忘れして単語が出て来ない、程度のモノじゃないのですか?」



「まぁ、だとしても目的地の再確認は必要な事だからねぇ。

 何度やったとしても、不要、って事にはならないさぁ」




 そういったヒギンズは、鱗に覆われた指先にてアレスが広げていた地図の一点をトントンと叩いて行く。


 そこには一言、『森人族(エルフ)国』と書き込まれていたのであった……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ