『追放者達』、依頼を終える
アレスの奮闘と、セレンの献身により、六魔将を名乗ったテンツィアが撃退されてから数日が経過した。
その頃には、それまでテンツィアによって【魅了】を受けていた者全てが洗い出されており、それぞれで対処が為されていた。
元々の功績と解除された後に示した後悔や懺悔の内容から、軽い罰や無罪放免とされた上で、それまで以上の奉仕や活動を命じられた者。
それまで積んだ功績や実績を鑑みたとしても、その後の行動や解除された後の言動からして最早『手遅れ』と判断され、未だサンクタム聖王国内外の付近各地に残されている、テンツィアによってコントロールされて『坩堝』の状態で待機させられていた魔物の群れへの対処を命じられた者まで、様々な処分者が出る事となった。
それにより、『教会』内部としても以前よりも風通しの良い状態へと持ってゆく事が出来たらしく、仕事量自体は増えたものの結果的には良い方向へと転べそうだ、との話を教皇グレゴリオ本人からアレス達は受けていた。
当然、場所はいつもの執務室であり、彼らの他には案内役として同行していたセシリアのみであり、何時ぞやはいた高官や重鎮達は廃されての、ほぼプライベートに近しい状態での対面であった。
「────そんな訳で、私としましてはほぼ最上に近しい結果を得られる事になりました。
これは、感謝してもし足りない位です。
また、例の魔法陣に関しても、『特定の魔力を帯びた物体が移動した事によって残存する魔力残滓にて刻まれていた』事が判明しましたので、更に出力を上げた全く別の魔力を無秩序に横行させる事で元々在った残滓を撹乱し、構成を破壊しておいたので、また同じ事を仕掛けようとした場合は最初から、と言う事になるかと。
こちらに関しましても、貴方達には感謝してもしきれません。
本当に、ありがとうございます」
「いや、まぁ、依頼されていましたし、あそこで止めてないと、自分達もやばかったので、仕方無く、って面もありましたから……」
「いえいえ、ここまで大きな功績を作り上げているのですらから、そんなに謙遜されずとも誰も貴方達を貶めたり等は出来ませんよ。
寧ろ、誇って頂かなくては我ら聖王国としましては立つ瀬が有りませんからね。
…………所で、今の今まで気になってはいたのですが、敢えて質問せずに居りましたが、その……どうかなされたのですか?」
「…………あぁ、まぁ、何と言うか……。
単純に落ち込んでいるだけみたいなので、暫くそっとしておいて下さいな……」
彼らの功績を称えるグレゴリオの言葉が終わると同時に、それまで意図的に視線すら向けずにいた方へとチラリと目線を切ってから、思い切った様子で問い掛けて来た。
それに対してアレスは、苦虫を数匹纏めて噛み潰した様な顔をしながら、あまり気にしてやるな、と言葉を発しながらも、自身でもそちらに対して視線を向けて行く。
するとそこには、アレスの隣に腰掛けて彼の腕に抱き着いた間々離れなくなった上機嫌なセレン、を除いた、『追放者達』のメンバー達の姿が在った。
そして彼らは、従魔達であっても一様に雰囲気を暗く、重いモノにしており、手早く表現するのであれば、沈み込んで落ち込んでいる、と言うモノが最も近しい表現となるだろう。
…………何故、その様な状態となっているのか?
それは、彼らがテンツィアとの戦闘にまるで参加する事が出来ず、寧ろ足手まといになりかねない様な醜態を曝す羽目になってしまっていた、と認識しているから、である。
当然、アレスとしてはそんな事は微塵も思っていはしない。
寧ろ、謎現象によって自分がテンツィアの放った【魅了】に抵抗し、それに成功してしまったが故に発生した事例であった事から、セレンに躙り寄っていた従魔達には多少のお仕置きをしはしたものの、何らかの隔意が在る訳では無く、逆に申し訳無い気持ちすら抱いている程であったのだ。
…………勿論、彼とて事が終わってから想定した事が一度も無い、とは言わない。
あの時、全員が最初から、或いはある程度戦闘の途中からでも参戦して、全力でテンツィアと闘う事が出来ていたら、といった益体も無い妄想の類いは。
その場合、今回の様にさっさと見切りを付けられて、逃走を選ばれる確率はかなり高い、と言えると思われる。
彼女の戦力判断とソレを支えた戦略眼はかなり的確なモノであったし、自己判断も低く見積もる事はあってもプライドから驕り高く見積もって失敗する、だなんて事はしないタイプであろう事も予測出来ている為に、流石に見誤って引き時を逃す、だなんてヘマはしないだろう。
しかし、仮にそうなったとしても、むざむざ逃走を赦す様な事にはならなかった可能性も高い。
あの時は、何かしらの置き土産の類いが仕掛けられていた可能性が高かった為に追撃も出来ずに見送る事になったが、それでも他のメンバー達が動けていればまた別の仕掛け方も出来たハズだし、最悪耐久力を前面へと押し出してのゴリ押しでの追撃も不可能では無かったハズだ。
ならば、そのまま討ち取れてしまった可能性も、無視出来ないレベルで存在出来ていた、と言えるだろう。
無論、机上の空論に過ぎない事柄であるし、そもそもの話としてその手の栄達や英雄としての祀り上げを厭ったが故に現在の里帰り巡り(と言う名目での逃避行?)へと発展している為に、確実かつ死にものぐるいにて行ったか、と問われれば、アレス本人にも些か肯定する自信は持てないが、それでもセレンとの二人組での戦闘よりかは圧倒的に可能性は在った、と言ってしまえる。
そして、ソレが分からない彼らでは無く、自分達が参戦出来る状態を保てていれば、とこうして後悔しきりな現状となっている訳なのだ。
一応、セレンに関しては自力で【魅了】をどうにかして正気に戻って参戦出来たし、その後にたっっっぷりとアレスを『堪能』していた事もあり、特に落ち込みを見せる事も無く、寧ろよりアレスに懐いている(?)状態となっているので、彼女に関しては結果オーライと言えるかも知れないが。
そんな彼ら彼女らの内心を察してか、それとも珍しく人目も憚らず落ち込んでいるヒギンズが珍しかったからかは不明だが、まるで『面白いモノを見た』と言いたげに目を細めながら、グレゴリオが口を開く。
「さて、事も終わりましたし、報酬の支払い、と参りましょう。
事前にお約束していた通りの金額を、冒険者ギルドを経由して振り込ませて頂くのは先ず前提条件と致しまして、他にも何かご希望はお有りですか?
今でしたら、『教会』内部の地位でも、このサンクタム聖王国内での爵位や領地でも、お好きに与える事が可能ですよ?」
「…………まぁ、色々と空席が出来たが故のお誘いなんでしょうが、流石にそちらはお断りさせて頂きますよ。
一所に留まるのはまだ遠慮したいですし、何よりドサクサに紛れて宮仕えを強要されるのは遠慮したいですからね」
「おや、バレてしまいましたか。
折角の機会だから、と思ったのですが、残念です」
「残念だ、と言って頂けるのでしたら、追加報酬の枠では是非とも『情報』を頂きたい」
「情報、ですか?
それは、何についてのモノでしょうか?
それとも、何かしらの見当が付いているモノに関して、と言う事でしょうか?」
「えぇ、例の魔族と交戦した際に、気になる事柄を口走っていたので、ね。
この国、サンクタム聖王国の成り立ちと『勇者』についての情報を、可能な限りお願いしたい」
何せ、何故か向こう側からは『勇者』認定されているみたいなので、と言う言葉は、結局彼の口から出る事は無かったのであった……。
そろそろこの章も終わって次に行く予定です
まだ暫くの間お付き合い頂ければ幸いですm(_ _)m