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暗殺者、説得する

 


 一人、ニヤニヤと口元を歪めて腕を組み、自身は一応中立だ、と嘯き(うそぶき)ながらも、その瞳は仲間に対する許容量を越えた事実無根な罵声と嘲笑に対する赫怒によって縦長に狭まっており、確実に事と次第ではその手を汚す事を何とも思ってはいないのだろう、と予感させるヒギンズに対して、事の中心であるアレスは溜め息を一つ吐いてから前方へと向き直る。


 そこには当然、アレスがリーダーを務める『追放者達(アウトレイジ)』の残りのメンバーと従魔達が佇んでいるのだが、そちらから向けられる視線は揃って非難の色が滲んでおり、その身体の周囲には不自然な輝きが時折見えていた。



 彼ら彼女らの身体を、アレスが強制的に『繰糸術』によって拘束し動きを止めていたが為に先程の事態に落ち着いてのだが、流石にその仕打ちには恋人であるセレンだけでなく、仲間として大切に思ってくれているタチアナやナタリア、そして完全に身内としてのカウントであったらしいガリアンとしては、目の前でへたり込んで失禁している警備兵は無礼討ちに値していたらしく、何故止めるのか!?と言葉にはしないながらも視線にて厳しく問い掛けて来ていた。


 おまけに、ガリアンに至っては、自身が拘束されている、と言う事を認識した上で無理矢理動いて警備兵を処そうとしており、アレスが身体能力強化を全開にしながら抑え込もうとしていたにも関わらず、ソレを振り払う直前の状態まで行きかけており、どれだけ本気で目の前の彼を殺そうとしていたのかが窺える。



 ついでに言えば、中立を明言しているヒギンズにしても、その手は背にした得物の柄に延びているし、未だに金色の瞳は縦長になったままな状態である為に、殺意としてはガリアンと同程度か、もしくは上回っている状態だと言えるだろう。


 彼の様に激発していないのは、長く生きてきた経験と、一応はリーダーであり事の中心であるアレスの事を立ててくれているから、と思われる。



 が、しかし、中立として手は出さない、全部任せる、としているがモノは言い様。


 ヒギンズはアレスに対して、言葉にはしていないながらも『この場をどうにか収めて見せろ』と言っているのだ。



 彼のリーダーとしての資質を試して、と言う訳では無い。


 それらは、既にこれまでの冒険の中で裁定済みであり、ヒギンズにとってアレスとはリーダーとして仰ぐに足る存在である、と認められているのだ。



 では、何を問い掛けているのか、と言えば話は単純なモノである。


 この『アルゴー』に少しの間とは言え滞在する以上、これからも起きるのであろうこう言った事態に対して、どの様な対応を、答えを出すのかを見せてみろ、と言っているのだ。



 もし、万が一にも有り得ないだろうが、ソレが出来ないのであれば、自身を案じる仲間達を安心させる為にも、制限(首輪)を着けずに自由にさせる(解放する)か、もしくはこのまま立ち去ってしまう他に無いぞ?と無言で訴えて来るヒギンズと視線を交わらせたアレスは、苦々しく表情を歪めながらも、取り敢えず妨害の類いは無い様だ、と僅かながらに安堵の籠った吐息を溢す。


 元より、下手をすればこうなるかもなぁ、とは思っていたとは言え、速攻でこうなるとは流石に予想外であったアレスだが、正直な処を言えば嬉しくは無い、とは口が裂けても言えそうには無い心持ちではあった。



 正直な話、このアルゴーに入れば大なり小なり似たような事態になるのだろうな、とはアレス本人は覚悟していた。


 何せ、以前は本拠地として活動していた街なのだから、当時の扱われ方や負の方向性での実績等を、自分達の肌感覚や記憶として覚えているであろう連中は沢山居るし、そう言った連中と遭遇したのであれば確実に絡んで来るだろう、と予想してはいたのだ。アレスとしては、だが。



 故にあくまでもこの場に於いての予想外は、ガリアンを筆頭とした仲間達の激発具合のみであり、似たような流れになるであろう事自体は、彼としては折り込み済みであったりする訳なのだ。


 なので、と言う訳でも無いのだが、取り敢えず女性陣は落ち着きを取り戻した、と判断してか、糸による拘束は手首や肘等の関節部に最低限で留めていたが、それらも解除して自由にしてしまい、未だに抗い続けているガリアンへとリソースを集中してしまう。



 それにより、半ば唐突に拘束を解かれて放り出される形となった女性陣であったが、皆その場で一歩よろける程度に体勢を崩したものの、影響としてはその程度で済んでしまったらしく、僅かに恨めしそうな視線を送って来るのみであった。


 また、そんな彼女らに対して羨ましそうな視線を従魔達が送っていた為に、主であるナタリアからちゃんと制御する事を条件にそちらも解除してしまうと、耳をペタンと倒した状態でキュンキュン鳴きながら順番にアレスの足下に頭を擦り着けて来ると言う、大変可愛らしい姿を目の当たりにしてしまい、流石にシリアスな場面であった為に彼も堪えたが、そうでなければモフり倒していた事間違い無しな状態であったと言えるだろう。



 斯くして、持てるリソースの全てを一人に集約出来る様になったアレスは、それまでよりも若干ながら余裕を感じさせる様子にて腕を組みつつ、その場で仁王立ちとなりながら、今度は逆に身動きの取れない程に拘束を強められてしまっているガリアンへと声を掛け始めて行く。




「…………で、俺が言うのも何だが、いい加減落ち着いたか?

 もしそうなら、こいつも解除した上で、暖炉の効いた暖かい部屋で冷えた酒片手に過去の愚痴やら馬鹿話やらの暴露し合い、って素敵なオチを着けてやれるんだが、そうするつもりは在るかよ?」



「…………ふっ、確かにそれは、素敵な提案だと言えるであろうな。

 なら、目の前のゴミを挽き肉にした上で適当に外に撒き散らし、魔物どもの餌に加工してからでも遅くは無かろうよ」



「いやいや、普通に犯罪だからね?それ。

 流石に、本拠地でも無いのに誤魔化し切れるハズが無いでしょうよ?」



「寧ろ、本拠地では無いからこそ、誤魔化しも利く、と言うモノよ。

 それに、人間の一人や二人居なくなったとして、大した問題では無かろうよ?それこそ、こやつ程度であればなおの事、な」



「だから、だよ。

 こいつ程度の敵意の向け具合で一々処してたら、この街の人間全員挽き肉にした上に、今では『勇者パーティー』に所属してる現況二人もぶち殺しに行かなくちゃならなくなるんだが、その辺どうするつもりだよ?」



「なれば、そうすれば良かろう。

 お主の実力を見誤り、扱いを軽んじ、その上で『自らの方こそが上であり、そう扱われる事こそが当然である』と言わんばかりの態度で振る舞い、いざ事が窮地に陥れば平気な顔をしてすがり付いて事態を解決して当たり前、と言った顔をする様な輩を、生かしておく事の方こそが無益と言うモノであろうよ」



「気軽に虐殺を提案するでねぇよ。

 流石に、そこまで殺っちゃったら『Sランクだから』と言っても世間からお目こぼしされる様な事態で収まってはくれないからな?

 それに、元々言ってただろうがよ。思い出してもクソみたいな思い出だが、だからと言って未だに気にしている訳でも、心に刺さりっぱなしになっているトゲって訳でも無い、と」



「…………しかし……!」



「…………あのな、ガリアン。

 お前さんが、そうやって怒って、憤ってくれるのは正直嬉しいよ。

 でも、その張本人たる俺が『もう良い』って言ってるんだから、もう良いんだよ。

 それに、こんな無駄な遠吠えしか出来ない雑魚相手に一々キレてたら、切りがないだろう?

 だから、もうこれはここで終わりにして、さっさと宿とって酒場にでも繰り出そうぜ?なぁ『兄弟』?」



「………………ふっ、お主にそこまで言われてしまっては、流石に我を張る理由も無い。

 なら、ここは矛を収めて魅力的な提案に乗るとしよう。

 実際に住んでいたのであれば、ある程度は行き着けもあるのだろう?そこまで、案内は頼んだぞ?『兄弟』よ」



「よろしい」




 アレス自身の言葉が確りと届いたのか、それとも過去の彼の言動と彼の放った単語によって心が揺さぶられたのか、それまで滲ませていた殺意や敵意の類いを収めて行くガリアン。


 その様子を目の当たりにして、漸く苦笑を浮かべながら自身もガリアンを拘束していた糸を解き、手元に回収しながら筋肉の緊張を解す様に肩やら腰やらを回して行く。



 そうして二人の間に和やかな空気が流れ、ソレに対して嫉妬したのかセレンがアレスの腕へと絡み付いて豊満な膨らみをこれでもかと押し付けたりする光景を目の当たりにさせられた警備兵は、いつの間にか近寄って来ていたヒギンズが耳元へと囁き掛けた




「…………取り敢えず、本人は気にしてないみたいだなら()()()()()()()()()()()()()()、もし似たような事をオジサン達の目の届く範囲でしたのなら、次はどうなるか……流石に分かるよね?」




 囁かれた言葉に込められた殺意と本気具合に戦慄し、必死に首を縦に振って見せる。


 その下半身は既に端から見ていても濡れそぼっていたが、カウンター越しに従魔達が顔をしかめる程の悪臭も同時に放ち始める事となった。



 それに伴い、勝手に必要とされていたらしい手続きを終えてしまったヒギンズが、これまた勝手にギルドカードの類いを回収して仲間と揃って通用門を後してから暫くの間、様々な要因にて動くことすらままならなくなってしまっていたのだが、ソレはまた別のお話……。




ガッデム……思ってた以上にページ食っちまった……(--;)


あ、それと思ってた以上に貰った応援が効いたのか執筆速度が上がって来ているのでもしかしたら更新ペース上がる、かも?

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