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『暗殺者』と『聖女』、撃退する

 


 前へと飛び出したセレンが、手にした杖を振りかざす。


 その左腕は未だにダラリと下げられており、その捻れ方から確実に、最低でも骨が折れた状態となっている事が窺えた。



 唐突過ぎる程に唐突な事態に、思わずテンツィアもその美麗な顔を驚愕に染めて歪めさせ、若干ながらも間の抜けた表情を浮かべる事となる。


 が、流石にそのまま無防備に攻撃を受け入れるのはあまり宜しく無い、と咄嗟に判断する程度の思考力は残っていたらしく、アレスによって付けられた傷もそのままに、大急ぎで腰から生えている翼をはためかせると、その場から大きく飛び退って行く。





 ────ゴッッッッ!!!!





 テンツィアの脳天目掛けて放たれたセレンの一撃が、空振った勢いのままに地面を強打し、周辺へと轟音を響き渡らせる。


 ソレは、これまでの戦闘にて発生したモノを遥かに凌駕する程のモノであり、敷かれていた石畳が砕け散るのは当然、とばかりに大きなクレーターを制作し、周辺の建物が倒壊するか、もしくはしかける程の地揺れを発生させる程のモノとなっていた。



 …………最早、何かの冗談だろうか?との期待が高まり、目の前の光景が信じられなくなった心持ちを等しくするアレスとテンツィアであったが、それ以外に関しては真逆に近しいモノとなっていた。


 片や、セレンの腕や先程まで影響下に在ったハズの【魅了】の影響はどうなっているのか、大丈夫なのだろうか?と心配するアレスと、何故【魅了】の支配下からから逃れられたのか、弾かれた余波によるモノとは言え容易く逃れられる程に甘い掛かり方はしていなかったハズなのにどうやって?と疑念を覚えるテンツィア。



 それらの疑問に答える様に、自ら破壊した、と思われる左腕へと忌々しそうに視線を送りながら、セレンが口を開いて行く。




「私が自由になったのが、そんなに不思議ですか?

 確かに、貴女の【魅了】に掛かって無力化されていた私は、最早誰でも良い、何でも良い、と言う気持ちに無理矢理されていましたし、身体もソレに沿った状態にされてしまっていたので、正直下着が気持ち悪くて仕方無い状態になってしまっています。

 …………ですが、それこそが原因にて私はこうして自由を取り戻す事が出来ました。

 要するに貴女、やり過ぎたのですよ」



「…………もしかしてぇ、もうすぐ最愛の人の目の前で獣に犯されそうになっている、って状態に激怒して、瞬間的に支配力を上回る感情の出力を発揮した、って事かしらぁ?

 だとしたら有り得るかも知れないけどぉ、ソレちょ〜っと普通じゃありえない位に昂らないと基本的に起こり得ないハズなのだれけどぉ?」



「でしたら、その『ありえない域』にまで昂った、と言う事でしょう。

 何せ、挫けかけた私の姿を目の当たりにして、咄嗟に駆け寄ろうとしていた旦那様の背中から、貴女は追い打ちを仕掛けようとしていましたよね?

 バッチリ、私からは見えていましたよ?

 そんな状況下で、我が身可愛さで震えながら犯されるのを待つのみが、女のするべき身の振る舞いだと、本当に仰られるつもりですか?」



「…………それで、そうやって一時的に自由になった瞬間に、自傷してその痛みで無効化した時間を伸ばして、その間に自分の状態異常を解除した、ってことか?

 なら、もうその腕治した方が……」



「いえ、そうしたいのは山々なのですが、そうは問屋を卸してはくれない様でして。

 まだ、状態異常が完全には解除出来ていないのです。

 半ば無理矢理、恒常的に状態異常解除の術式を発動させているのですが、ソレを解除しないと骨折まで行ってしまっている負傷を癒やす様な術式は使えませんし、何よりコレの痛みで正気を保っている面も御座いますので、当面はこのままの方が都合が良いかと」



「…………そう、か……。

 しかし、必要なこととは言え見ていて痛々しいし、出来る事なら自分のパートナーには何時でも健全に居て欲しい、って思いもあって、な……。

 それと、そんな事情なら俺の回復は期待出来そうに無いな……」



「まぁ!

 そこまでご心配頂けるとは、私としてもとても嬉しく思います♡

 それと、回復に関しましては、心配無用です。

 体力や怪我を癒やす程度までであれば、この状態でも問題無く使えますので!」




 その言葉と同時に、アレスの身体に治癒魔法の光が宿る。


 彼の身体に無数に刻まれていた傷が立ち所に癒やされて行き、同時に激戦によって消耗を強いられていた体力も賦活化して四肢に力が漲って来る。



 コレが、強大な一撃により負傷、と言う訳では無く、トータル的なダメージであった為にどうにかなっただけで、喪った血液等は未だ戻って来た訳では無い。


 が、それでもこれからの戦闘に於いて不足無く行動できるだけの活力が齎された事には、大きな意味があると言えるだろう。



 そうして態勢を整える事に成功した二人に対してテンツィアは、何を仕掛けるでも無く黙ってソレを見守っていた。


 回復を邪魔する訳でも無く、攻撃を仕掛けるでも無く、ただただ彼らの行いを眺めつつ、腕を組んで何かしらを考えている素振りを見せているのみ。



 そんな彼女の姿と振る舞いに、アレスは大きな違和感を覚えはしたものの、豊満にして勝ち気な上向きのバストが丸出しに近い状態でその様な仕草をされていた為に、思わず視線を逸らす羽目になってしまう。


 流石に、戦闘の真っ最中で殺し合いの最中であれば気にもしないのだが、こうして一度手が止まる様な状況であり、かつ自身の隣に恋人が居る様な状態で、そんな相手に視線を固定する、といった勘違いされてしまいそうな行いは、出来る限り避けたいのが正直な男心と言うモノだろう。



 なんて事を考えながら、いつ仕掛けるか、と視線とハンドサインにてセレンとやり取りをしていると、唐突にテンツィアが組んでいた腕を解き、溜め息を吐きながら




「なんだかダメそうだからぁ、お姉さんもう諦めて帰る事にするわぁ」




 と告げる。




「「………………は?」」




 それには、流石に驚愕を隠せず、意図してはいなかったが二人の声がシンクロしてしまう事になる。


 ここまでやっておいて、今更全部放り出して逃げるとか何を考えているのか!?と問い質したい気持ちで一杯であったが、既に彼女はこちらに背を向けており、大きさと形の良さを兼ね備えた臀部を揺らしながら歩み去ろうとしてしまっていた。



 慌ててアレスは、その背に言葉を放つ。




「…………ちょ、ちょっと待て!?

 お前、一体何のつもりだ!?

 さっきまで殺し合いしてた相手が、やっぱり止めて帰りま〜す!とか言い出したからって、見逃さなくちゃならない理由にはならねぇぞ!?」



「ん〜、そうねぇ。

 貴方に言っても納得してくれるかは分からないけどぉ、ワタシ無駄だと分かってる事はしたくないのよねぇ。

 貴方一人相手なら、まだ勝てる目が残ってたから戦ったけど、こうして回復役と兼任出来る前衛がもう一人増えちゃった訳でしょぅ?

 なら、ワタシ一人だとほぼ勝てない訳なんだから、止めて帰る事にした、って事よぉ。

 お分かり?」



「…………理屈としては理解出来なくも無いですが、はいそうですか、と私達が通すかはまた別の問題では?

 少なくとも、私には貴女を離脱させなくてはならない理由も、取り逃がす理由も有りませんよ?」



「あら、そうかしらぁ?

 これでもワタシ、直接やり合うのよりも、足止めとか撹乱とかの方が得意なの。

 だ・か・ら、少なくとも生きたままで逃げ出す位は、なんて事は無いわよぉ?」




 だから追いかけて来ないでね?と言外に放つテンツィアは、そのまま夜闇の中へと溶けて行く。


 追撃に移ろうとした二人であったが、彼らの勘がこのまま進めば只では済まない、と告げて来た為にその場で立ち止まり、少し離れた場所から翼のはためきが聞こえてくるまでその場で佇む事になるのであった……。




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