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『追放者達』、問い掛ける

 



「六魔将、ねぇ……」




 テンツィア、と名乗った魔族に対して視線を向けながら、アレスが呟く。


 これまで、何度か魔族と遭遇した経験の在る彼らだが、その尽くにて同様の名乗りを耳にしており、逆に困惑させられる様な心持ちとなってくる。



 …………恐らくは、幹部級の存在のみが名乗る事を許されている称号の類いなのだろう。


 それは、理解出来る。



 …………が、こうまでして高い頻度にてそう名乗る者と遭遇してしまうと、本当にそうなのだろうか?と思えて来てしまう。


 もしかすると、結構御大層な名乗りをしているが、実の所としては中間管理職的な立ち位置であり、中隊長程度の役職から名乗る事を許されているモノであった場合、彼ら程度の実力では『そこまで』止まりのモノであり、この後から本当の幹部級が出て来る事になる、だとかの事態は正直勘弁願いたいのが彼らの本音である。



 内心での苦々しさや猜疑心といったモノを極力面には出さない様に注意しつつ、アレスは再度問いの言葉を口にする。




「まぁ、何度か聞いた覚えの在る名称だが、取り敢えずソレは置いておくとして、何故こんな事を仕掛けたんだ?

 何故、この国なんだ?

 何か、理由でもあるのか?」



「あら、ソレをワタシが素直に応えなくちゃならない理由が、何処かにあるのかしらぁ?

 …………それと、ソレを置いておかれると、お姉さんとしては結構立つ瀬が無くなっちゃうんだけどなぁ〜。

 アレ?でも、貴方達よね?

 オルク=ボルクやスルトにゴライアスと戦った『特異点』って」



「…………名前としては覚えがあるが、その『特異点』とやらは一体何の事だ?

 いつぞや、そんな呼ばれ方をした覚えが有るような無いような気もするが、そんな変な呼び方をされなくちゃならない覚えは無いんだがね」



「あらぁ?もしかして、人間側は貴方達の事を把握していないのかしらぁ?

 だったら、もしかしたらもしかしちゃう事態になる、そんな可能性も無くは無いのかしらぁ〜」



「…………独りで納得してないで、そろそろこっちの質問にも答えて欲しい所なんだがね。

 よもや、そんな身体をしていながら、完全に持て余して独りで慰める方が好き、だなんて事を言うつもりは無いだろう?」



「あらぁ?

 そうやって、挑発とは言え露悪的な言葉遣いは貴方には似合わなくてよ、ボウヤ?

 ワタシ、良く言われる事だけど、こう見えても一方的に事を進めるのは好きじゃないの。

 お相手を務めてくれる方とは、ちゃんと互いが良くなれる様に段階を踏んで事に及ぶのが好きなの。

 あんまり独り善がりな行為は、相手に嫌われちゃうわよぉ?」




 色気たっぷりな流し目と共に、唇に指を添えながら放たれた言葉に内心舌打ちを零すアレス。


 外見を揶揄して露骨に下品な言葉まで使い、どうにか情報を引き出そうと試みての発言であったが、どうやらその意図は既に見抜かれてしまっていたらしく、格上からの余裕に満ちた『助言』を賜る羽目になってしまっていた。



 この手の腹の探り合い、と言う点に関して言えば、目の前で余裕綽々でセクシーポーズを決めている、テンツィアと名乗った魔族に勝てる要素はアレスには殆ど無かった。


 自身の実力や地位から来る自信や自負、余裕、技術としての会話に言葉使い、そして事前に集めた情報量のどれもが上回られている状態である為に、自らが誘導して情報を引き出す、といった事はほぼ不可能に近いだろう、と判断してのモノであった。



 ならば、最早実力行使しか手段は残されていないだろう、と決断したアレスは、静かに腰の得物の鯉口を切って行く。


 先程の体捌きを見る限り、一筋縄で片付けられる程に容易く相手に出来る訳では無いのだろうし、この国に掛けていた様に何かしらの能力を行使されたら厄介だが、それでも直接武力を扱う事に関しては自分達に分がある、と見ての決断であった。



 そんな、開戦一歩手前、とでも呼ぶべき雰囲気を放っていたからか、それともコッソリと出していた仲間へと向けたハンドサインを覗かれたからかは不明だが、それまでは薄く浮かべていた口元の微笑みを深くすると、頬に指を添えて何かを考える様な仕草をし始める。


 それと同時に胸を下から支える形で腕を組んでもいた為に、元々『巨大』としか形容の出来なかった立派なモノが更に強調される形となった為に、再度二人が発狂しながら突っ込もうとしていたり、何故かセレンがアレスの視界の隅の方で、まるで対抗するかの様に腕を身体に巻き付けてボディラインを強調したりしていた為に、先制攻撃を仕掛ける機を逃してしまっていたが、その代わり、とでも言う様なタイミングにてテンツィアが再び口を開いて行った。




「…………そう、ねぇ……。

 別段、この国を狙った理由位は、教えて上げちゃっても良いかしらねぇ?

 流石に、このままだとワタシ達が本当に幹部なのか、って疑われ続ける事になるのは、お姉さん的にはあんまり嬉しく無いし、ここは『それ相応の風格』ってヤツを見せて上げちゃうのが一番良いかしらぁ~?」



「………………何を切っ掛けにして心変わりしたのかは知らないが、教えてくれるなら喜んで聞くから教えてくれよ。

 ……後、そのセクシーポーズそろそろ止めて貰って良いか?

 流石に、これ以上煽られたらもう止めようが無いんだがな?」



「ブッコロッシャー!!!」



「アノバケチチヲモギトッテヤルノDEATH!!」



「あら、ごめんなさいねぇ?

 お姉さん、大き過ぎて重いから、こうやって楽な姿勢を取ろうとすると、ほぼ無意識的にこうなっちゃうのよぉ。

 でも、仕方無いわよねぇ?

 実際に大っきくて、魅力たっぷりなんだから、ねぇ♡」



「「ア″ア″ア″ア″ァ″ァ″ァ″ァ″ァ″ッッッ!!!!」」




 今度こそ意図的に煽られ、マウントを取られたタチアナとナタリアの二人が激昂し、発狂する。


 二人の恋人であるヒギンズとガリアンは、どうにか二人を宥めて落ち着かせようとするのに精一杯で最低限の警戒を向ける事しか出来ていないし、セレンはセレンでテンツィアの言い分に何かしらの共鳴する部分があったのか、一人深く頷いている為に、最早全てがどうでも良くなって来たからさっさと終わらないかな、とすら思えだして来ていたアレスのみが警戒を続けていたのだが、そんな状況下であっても変わらずにテンツィアは言葉を続けて行く。




「先ず、何故この国を狙ったのか、だったかしらぁ?

 その理由としてはかなり単純よぉ?

 この国が、かつて魔王様を討った『特異点』が興した国だから、その腹いせに、ってところかしらねぇ」



「…………え?それだけ?

 ここを潰しておけば人類側に多大なダメージが〜、とか、この土地に特別な『何か』が在るからそれを使われる前に〜、だとかの理由じゃなく?」



「まぁ、前者的な理由は無くは無いけど、それでもやっぱり一番大きなモノとしては、ワタシ達の認めた『特異点』、貴方達の言葉で言う所の『勇者』が作った国だから、さっさと潰してやりたかった、って程度よぉ?

 それと、後者が本当の理由だったら、わざわざそれを教えてあげなくちゃならない理由ってお姉さんに無くなぁい?

 もう対処しちゃって、役に立たないガラクタにしてあります、って場合は別かも知れないけどぉ」




 そうして告げられた情報の数々に、思わず頭が殴られた様な衝撃を受ける『追放者達』。


 よもや、比較的小さいとは言え、一つの国の存亡を左右しようか、と言う出来事の発端が、単なる私怨であった、と明かされたのだから、衝撃の一つや二つは受けて当然、と言うモノだろう。



 そして、何より。


 時折アレスへと向けて魔族の口から放たれていた、『特異点』なる単語の意味を知ってしまったが故に、彼本人としては激しく抗議したい気分にさせられる事となってしまっていたのであった……。




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