『追放者達』、待機する
アレスの閃きにより、事の規則性(仮)を発見するに至った一行。
ならば早速行動を!と事が起きているサンクタム聖王国の所属であるセシリアは言いたかったのだろうが、現状はその真逆の様相を呈していた。
……………そう、彼らが現在行っているのは、『待機』であったのだ。
何故、待機なんてしているのか?
規則性が見付かったのならば、その正確性を確かめ、残っている部分を補う様に調査すれば良いだけでは無いのか?
当初、当事者としてアレスと共にその法則を見付けたセシリアはそう主張したのだが、ソレに苦渋を嘗めた様な顔をしながら待ったを掛けたのは、彼らの依頼主であり、誰よりもこの事態を憂いているハズの教皇グレゴリオ当人であった。
事を最も推し進めているハズの本人に、この様に事を進める事を止められなくてはならない理由が思い付かなかったらしいセシリアは驚愕を顕にして、あわや狂乱一歩手前、といった所まで行ってしまうこととなったが、当事者の一人であり規則性の発見者でもあるアレス本人としては、特に驚いたり愕然としたりする様な素振りは見せず、まぁそうなるよな、と寧ろ納得した様子すら見せていた。
…………そう、彼としては、こうなる事は半ば織り込み済みであり、故に先の『ここから先はそっちのお仕事だろう?』との発言にも繋がっていたのだ。
では、何故その様な運びとなっているのか?
それは、彼らが『冒険者』であり『異国人』であり『無実績』であるが故に、である。
「まだ見付かっていなかった規則性を見付けたかも知れない、って言っても、ソレを根拠に無理矢理にでも捜査する、だなんて事が通るハズが無いでしょうよ。
寧ろ、常識的に考えれば、俺が事の混乱を拡大させようと企んで、わざと適当な事を言って捜査を撹乱しようとしている、とか思われるのが妥当ってヤツなんじゃないか?」
「だよねぇ〜。
幾ら仕事として依頼されて調査してたら見付かった、って言っても、ソレが本当の事なのか判別出来ないと動く事なんて出来ないよねぇ。
最低限、リーダーが作ったヤツが本当に正確な情報の元に作成されたモノなのかどうかを確認してから、その上でほぼ関わって無い人達に残りの部分の調査をさせて、それで符合すればまぁ信じても良いかな?って感じじゃないかぃ?
んで、魔法陣云々に関して調べるのはその後になるだろうし、例の魔族とどんな関係性があって何をさせたくてそんな事していたのか、を調べるのは更にその後になるだろうねぇ〜」
「…………まぁ、国の存亡の瀬戸際である、と国の頭が理解しており、ソレに際して時間がどれだけ残っているのか分からない、と理解している以上、そこまで長々と待たされる事は無いのであろうよ。
流石に、その様な事態に於いて、当方等の様な使い勝手の良い『大駒』を切らず、温存するつもりで腐らせて試合終了なんてオチには早々なりはしないであろうからな」
「でも、流石に使えるモノはさっさと使って事態を好転させないとヤバい、って事を理解していてコレな訳なんでしょう?
なら、国を動かしてる連中って相当頭悪いんじゃないかしら?
少し前の街の領主もそうだったけど、目先の決まり事やら利益やらに気を取られ過ぎてる上に、ちょっと頭硬すぎない?それで滅んでたら、笑いも出来ないんだけど?」
「それは確かにそうなのですが、コレでも割りと対応としては素早い方なのですよ?
全体的な危機に陥っている自覚があり、その上でトップが直々に対応を決めている、ってだけでも、ボクは初めて聞く事態なのですよ?
まぁ、とは言っても、ボクには皆と違ってお偉い知り合いなんて欠片もいないので、その辺の機微には全く理解が及ばないのですけどね?」
「そうでしょうか?
私達は、産まれや育ちやらの過程でそれらの縁に恵まれましたが、言ってしまえばただの偶然に過ぎません。
現状を正しく理解出来ていて、ソレを誤り無く認識出来さえすれば問題は無いですし、必要となれば仲間である私達が間を取り持つ事も出来ますからね。
それと、私達を使わずに事を進めている現状に関しても、ある意味では当然では無いでしょうか?
何せ、以前はどの様な経歴であり、かつどの様な技能を持っていたとしても、今の私達は荒事専門の『冒険者』なのですから、ね?」
「ははっ!確かに確かに、そいつはそうだな!
そもそも、俺達は『冒険者』なんだから、魔物倒して来い!っていうなら兎も角として、本格的に調査して情報も精査して来い!なんて言われても、そりゃ出来る訳無いわな!」
「うむ。
確かにその通りであるのだが、こうして出来てしまっているのであるがな。
尤も、こうして裏取りに時間を取られるのであれば、最初から信頼の置ける専門家に依頼するべきであったのでは?とは思うのであるよ」
「そう言われちゃうと、耳が痛いねぇ〜。
まぁ、でも、それだけ国としてかなりギリギリの所に追い詰められている、って事なんだろうけどねぇ。
そうでもなければ、流石にグレゴリオ君が、幾らオジサンと面識が在る、縁が在るとは言っても、ほぼ一方的に被害者にしてしまったセレンちゃんが在籍しているパーティーに依頼を出して呼び寄せる、だなんて事をするとは思えないし、それだけ追い詰められて後が無いって事なんだろうけどさぁ」
良く言えば忌憚の無い、悪く言えば配慮や遠慮が見られない言葉が、宿の一室にて飛び交って行く。
下手な立場に在る者に聞かれれば、それこそ騎士団長であるセシリア辺りにでも聞かれれば、即座に激昂して斬りかかって来るか、もしくは顔を青褪めさせながら口を閉じさせようとするかの二択になるであろう言葉の応酬が繰り広げられるが、ソレを止める者はその場に無く、止まる事無く繰り返されて行く。
それだけ、彼らの中に不満として募っている、という事ならばまだ理解はしやすかったのかも知れないが、事実としては少々異なる。
何せ、彼らは今の所、自分達の扱いに対して不満を覚える様な事にはなっておらず、寧ろ妥当だろうな、と納得すらしていたのだから。
とは言え、その様な遠慮の無い言葉が飛び交う羽目になる程度には、暇を持て余しているのもまた事実。
身体が鈍らない様に鍛えたり、従魔達を弄って遊んだり遊ばれたりとはしているものの、何時確認が取れて行動制限が解除される事となるのかも分からない現状、パートナーと共に部屋に籠もって女性陣が狙っていた『爛れた冬籠り』を決行する訳にも行かず、徐々にギラついた視線を向けられる事が増えてきたアレス達は背筋を震わせたりもしていたが、それでも暇な事には暇であったのだ。
そんな訳で、娯楽といえば食事かゴシップ位しか無い環境で、時折女性陣に誘われたり、自分達で誘ったりしながら別室へと消えて行き、女性陣は肌をツヤツヤとさせながら、そのパートナーは若干窶れた様な状態にて退出してくる様な生活を続ける事数日の間。
漸く、待機を続けていた彼らの下へと、アレスが立てた仮説が正当なモノであった様だ、との確証が取れた、との連絡と共に、教皇グレゴリオの元への招集が掛けられたとの知らせが齎されるのであった……。