『追放者達』、集合する
どうにかルビコンから帰還する事に成功しました
与えられたリストの上から順番に尾行し、行動と現状を確認して行くアレスとセシリアの二人組。
しかし、どの対象であっても行動に大差は無く、総じて下半身に素直になっており、複数の見目の良い異性を従えて周囲へと自慢する様に散財しているか、もしくはまだ日も高い内から一室へとしけこんで『お楽しみ』になっているか、の二択となっている事が殆どであった。
「…………なぁ、コレもう最後まで監視しなくても良いんじゃないか?
ここまで見てきた限りだと、多分他の連中も似たような事しかして無いんだろう?
なら、もう戻って報告しても良いんじゃないのか?」
「…………そんな事、仰られないで下さいまし。
妾も、そうしたくて仕方無いのですから」
うんざりとした顔にてそう呟いたアレスの手には、先程も出てきたリストが握られていた。
その半ばを幾らか過ぎた所にチェックを入れた彼は、最早ここまで行動が統一されているのならば確認の必要すら無いのでは?と呆れを多大に含んだ言葉を漏らす事となっていたのだ。
それに相槌を打ったセシリアも、表情仕草共に彼と同じ事を考えているのであろう事が見て取れた。
が、それでも騎士団長として活動もしている彼女としては、自らが仰ぐ至尊の存在からの指令であるとの事もあり、例え意味が無かったとしても、例え自身が既にうんざりしていたとしても、取り敢えずは確認するだけはしておかないとならない、と考えていた。
とは言え、流石にここまで無数に堕落した相手の観察を強要され、その結果に最初こそ顔を赤らめたりしていたが、最早慣れを通り越して心が半ば死んでしまっている様な状況にある為に、正直な事を言えば中断の一つもして休憩を取りたい、というのが偽らざる彼女の本音。
そんな状態でアレスから齎された提案には、正しく天上から垂れ下がって来た蜘蛛の糸の如き衝撃と、思わず肯定して現状の調査を放り出してしまいたくなる程の魅力を放っていたが、彼女は鋼の如き精神力と信仰心によってどうにか耐える事に成功していたのだった。
とは言え、これまでの成果を軽く報告したり、他の面々が得た成果を照らし合わせたり、といった事が有益であるのは間違いが無く、時刻も既に夕闇が忍び寄る刻限へと差し掛かりつつあった。
なれば、どうせ対象の家等は既に判明している尾行の類いは一旦切り上げて、他の面々と合流を図るのも悪い選択肢では無いだろう、と思考を改める事となる。
…………彼女とて、こんな寒空の下でただただ淫行に励む背信者達を観察するよりも、何処か暖かなカフェにでも逃げ込み、アレスやその仲間が辿って来た冒険譚でも聞いていたい、との思いくらいは当然在る。
その際に、紅茶と甘い菓子でも付いていれば最高に楽しめるのだろうな、と思う程度には、やはり彼女も『女子』だと言う事だ。
そんな内心を隠しつつ、切りの良い所までリストを進めた段階にて一度戻る事をセシリアが提案し、ソレをアレスが同意したことによって二人は一旦帰還するのであった……。
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寒空の下から宿へと帰還したアレスとセシリア。
どうやら、戻ってきたのは二人が最後であったらしく、他のメンバー達は示し合わせた様に会議室として使っていた部屋へと集合していた。
「…………おん?皆、集まってたのか?
別段、そう言う取り決めなんてしてなかったと思うんだが、俺の気の所為じゃ無いよな?」
その事に対して、不思議そうな声を挙げるアレスであったが、返ってきた反応は様々。
しかし、そこに浮かべられていた表情は一様に草臥れたモノであり、最早うんざり、と如実に語っている様なモノが色濃く刻まれてしまっていた。
「…………いや、当方らとしても、もう少し詳しく調べてから、とは思ってはいたのであるぞ?思っては」
「……だけど、アレはちょっと『無い』わよねぇ。
アタシはこの国に関して詳しく無いけど、アレがこの国の考え方のスタンダードだ、って言うのなら、一層の事このまま滅んでくれちゃった方が良いんじゃないかしら?って思えて来ちゃったのよねぇ……」
「かつて所属していた私が口にするのは些か憚られますが、流石に苦言を呈したい心持ちではありますね……。
よもや、教皇猊下から治療の為に、と派遣された者に対して姦淫の誘いを掛けてくるとは思いませんでしたよ」
「しかも、ソレを知らなかった、のならまだ救いもあったかも知れないのですが、行く先々でバッチリ把握されていたにも関わらず、普通に手を出そうとしてきていたのです……。
おまけに、セレンさんだけでなくタチアナちゃんにまで、ならまだ若くて可愛らしくてスタイルも良くて、と理解出来るのですが、ボクにまで、となるともう理解が追い付かないのですよ……」
「それはまぁ、ほら?
相手は若ければ若い外見をしている程〜って連中も居る事には居るんだし、そこはまだオジサンとしては理解出来るから、良くは無いけど良いんだけどさぁ。
何故かオジサンも結構な割合で『お誘い』されちゃったんだよねぇ……。
しかも、異性からだけなら兎も角として、かなりの頻度で『同性』から、しかも本格的なヤツを、さぁ……」
「それはまだ、人としての扱いをされているが故にマシな方ではないであるか?
当方が受けた『お誘い』だと、ペットとして、とか言うふざけたモノが大半であったのであるよ……」
「………………仮にも、自身が所属していた組織の元聖女に対して、真正面から『愛人になれば〜』なんて古臭い誘い文句を垂れ流して来るとは思いませんでしたよ……。
しかも、一様に自分の言葉に逆らうなら仲間がどうなっても良いのか、だなんて脅しも付けてくれるだなんて、もしかして事前に打ち合せてでもあったのでしょうか……?」
「そう言う人達に限って、状態異常を解除したら一時的にとは言え謝罪したり自罰したりしようとするから、まだマシなのです。
ボクなんて、飴玉で誘われて苦笑いしていたら『おじさんの『飴タマ』も舐めてくれないかい?』とか訳の分からない言葉を投げかけられたのですよ?」
「その手の変態に限って、正気に戻った時に否定するのよねぇ。
そんなつもりじゃ無かった、ただ単に可愛らしい幼子を愛でたかった、勝手にそう受け取ったのは向こうの方だ、だったかしら?
まぁ、アタシの場合は普通に買われそうになったけど。
もしかしたら違ったかも知れないけど、成金感満載の脂ぎった面と体型で、財布目の前に放り出されたらそうとしか思えなくなるのはアタシだけじゃないハズよねぇ……」
調査中に遭遇したらしい『災難』について、口々に言及して行くメンバー達。
その瞳からは、一様に光が失われた虚ろなモノとなっており、彼ら彼女らが経験した事柄の壮絶さを物語っていた。
流れる様なセクハラに、性的な交渉を仕掛けて来る要求所対象。
苛立ちのままに処する事も出来ず、殴り飛ばす事も身体能力的に躊躇われる(恐らくは一撃で天に召される羽目になる)が故に手も出せず、その上で一時的にとは言え正気に戻せば自身の行動を顧みて謝罪や反省を意を表する者が大半を締める事となる。
そうなってしまえば『じゃあ歯を食いしばれ!』と言う事も早々には出来なくなってしまうが故に、必然的に怒りやストレスといった類いの感情は蓄積して行く事となる。
そして、その結果としてこうして死屍累々な現状が生み出された、と言う訳なのだった。
「…………まぁ、その、なんだ。
皆、大変だったな?
情報の整理とかは、もう少し休んでからにしようか?」
最早アレスによって掛けられる言葉は他に無く、半ば無意識的に伸ばされたセレンの手を労る様に握りながら、他の面々にも同様に声を掛けて行くのであった……。
まぁ、まだ3周目が残っているんですけどね(笑)