『追放者達』、活動を開始する
アレス達は取り敢えずの方針を固めた翌日、早速、とばかりに行動を開始した。
とは言え、流石に最初から魔族を探し出して撃破し、根本から物事を解決してハッピーエンド!とは行かないし、そもそも出来る様な事でも無い、と認識している為に、初動は至極地味なモノとなっていた。
「…………んで、アレがそっち側で調べた『該当者』って訳で?
随分と、羽振りも血色も良さそうなモノだけど?ついでに言えば、下半身の方もかなり元気そうに見えるけど」
そんな発言の飛び出した口の持ち主であるアレスの視線は、とある聖職者(仮)へと向けられている。
金糸銀糸によって派手に装飾を施された、最早原型を留めてはいない僧服を纏ったその男は、昨日彼らが目の当たりにした一行と同様に、様々なタイプ・種族を持つ美女達を両手では足りない数侍らせながら歩いていた。
その堂々たる様と、恰幅も羽振りも良さそうな姿からは、正にこの世の春の到来と共に、自らこそがこの世界の主である、とでも言いたげな程に尊大なモノとなっていた。
本来であれば、節制と程良い禁欲とを戒律として掲げている『教会』としてはあるまじき行動として、公衆の面前であるにも関わらず、左右の腕の中に閉じ込めている美女達の豊満な胸元を弄り、頬を赤らめさせて辱めながらも自らは満足気な表情をしている事からも、その好色ぶりは明らかなモノとなっていると言えるだろう。
最早生臭坊主ここに極まれり、と言わんばかりの様相を呈している男の後ろ姿を指差しながら、先の言葉を溢したアレスは、視線を隣へと移して行く。
するとそこには、顔を赤く染めたセシリアの姿が在った。
取り敢えず情報の収集と現状の把握の二つを柱として行動する事にしたアレス達は、手分けして別行動を取る事にした。
実験も兼ねてセレンが状態異常を解除してみたり、どの程度の層まで洗脳が広まっているのかを探ったりするのに必要だと判断したからだ。
そして、その組み合わせとしてアレスはセシリアと行動を共にする事となっていた。
勿論、アレスとしてはある意味で最も危険であり、かつ恋人でもあるセレンに着いていたかったのだが、本人の隠密性並びに情報の収集能力から外部調査に割り振られる事となってしまったのだ。
更に言えば、土地勘や人物像に対しての理解が無い彼に、案内役が必要という事になり、役割や追跡がバレた際の言い訳が立ちやすいから、との理由で相方として彼女が選ばれる事となった、と言う訳だ。
尤も、初日かつ『過去との態度や行動に最も大きな差が出ている人物』を指定しての調査であった為か、初っ端から凄まじくアレな絵面を見る羽目になってしまっており、顔を真っ赤に染め上げる事となってしまっている訳なのだが。
「…………なぁ、流石にちと初心過ぎないか?
幾らお固い騎士団長様とは言え、過去に恋人の一人や二人、居た事くらいはあるだろうよ?
それともアレか?結婚するまでは純潔のままで〜とか言うヤツか?お貴族様も大変なんだな」
「そ、そう言うそちらはあんな破廉恥なモノを見て、何故そこまで平然としていられるのでして!?」
「破廉恥も何も、あの程度でどうこう言われても、ねぇ?
相手が居て、同意があって、って事なら別段良くないか?と言うか、相手が居ればもっと『凄い事』位する訳だし……」
「なっ!?な、ななななななっ……!?!?」
「あ、ちなみに俺は既にセレンと結婚も約束している間柄だし、行く所まで行ってるしやる事もやってるから、考えてもいないだろうけどどうこうなろうとか思わない方が良いぞ?
多分、俺の方はお仕置きと称して『搾られる』程度で済むとは思うけど、そっちは文字通りに『挽き肉にされて元に戻される』を繰り返す可能性が否定出来ないからな?」
「なんなのですか、そのバイオレンス過ぎる描写は!?
と言うか、え?
お相手は、セレン様ですわよね?あの、聖女と名高いセレン様が?セレン様と??」
「どの『セレン様』の事を言ってるかは知らないけど、ウチのパーティーメンバーのセレンの事ならそうだぞ?
『教会』の連中に嵌められて、一応は信頼していたパーティーメンバーにも裏切られて、追放された結果流れ着いた先で出会ってパーティーを組んだ、セレンがそうだよ。
尤も、俺はそれ以外のセレンを知らないけどね」
「…………そんな、かつては清廉にして崇高なる聖女としてその名も高かった聖女セレン様が、その様な淫蕩に耽けり悋気を顕にする様な方であったなんて……」
「ちなみに言えば、大酒飲みで肉の類いも喜んで食ってるぞ?
それと、何故かショックを受けてる様子だけど、そもそもその『聖女様』を追放したのは他ならぬお前さん達『教会』なんだが、その辺忘れてないよな?
なら、その後彼女がどんな心境の変化を遂げようとも、お前さん達に慮る必要も、配慮する必然も無いって事に気付いて無いなんて事は言わせんよ?」
「…………そ、それは、そうなのですけれど……。
その、なんと言いますか、イメージとして聞き及んでいたモノと、現実に相対した時の乖離が凄すぎたと言いますか……」
「有名人との遭遇なんて、そんなモノじゃないのか?
あと、ぶっちゃけた話をすれば、セレンが今色々と開放的(意味深)になってるのだって、多分『教会』とかの戒律?だとかで色々と抑えつけられる生活を長く続けて来た上に、普段からして『これぞ聖女様』って立ち振る舞いを強制されていたからじゃないか?
で、それからほぼ完全に開放された状態となってる為に、ソレまでの反動で現在に至る、と。
…………うん、やっぱり悪いのは『教会』の方では?」
「妾も、そんな気がして来ましたわ……」
ケロリとしているアレスと、何故かゲッソリした様子を見せているセシリア。
同じ内容の会話をしていたハズなのに、結果的には対照的な状態へと行き着いた二人の視線の先にて、例の『該当者』が豪奢な建物の中へと引き連れていた女性達と共に入って行ってしまう。
流石に建物の中にまで着いてゆくとバレる可能性が高まるし、そもそも建築様式が国によって異なる為に、重要な施設であった場合言い訳の仕様すら無くなってしまう。
そんな思いからセシリアへと再び視線を向けたアレスであったが、頬を赤らめながら両手で顔を覆い、俯いている様子から目の前の建物が『そう言う宿』であろう事が察せられてしまった。
「…………なぁ、幾ら洗脳されてる可能生が高い、って言っても、まだ日の高いうちからあれだけの人数引き連れてしけ込む様な、下半身で生きてる絶倫野郎は生かしておかなきゃならない理由でもあるのか?
サックリ粛清しちまった方が、色々と面倒が無くて良くないかね?」
「………………それ以上、仰られないで下さいまし……。
妾も、丁度同じ事を思っておりましたので……。
しかし、卿があそこまで堕落させられるとは、如何程に強力なモノを掛けられたと言うのでしょうか……。
厳格に自らを律する方であり、その信仰心と徳の高さはサンクタム聖王国でも有数のモノである、と言われておりましたのに……」
アレスからの問い掛けに、思わず、といった様子にて肯定の意を返してしまうセシリア。
半ば反射的にそう返してしまう程に、酷い状態へと成り果てていたらしい『該当者』の一人に対して若干ながらも憐れみの感情を抱いたアレスだったが、まぁ操られる方が悪いやな、と思考を瞬時に切り替えると、先に渡されていた『該当者』のリストを捲りあげ、次なる監視対象を確認してから俯き嘆くセシリアへと移動を促して行くのであった……。