槍術士、再会する
男性陣の策略(?)により、促される形にて移動を再会した一行は、遂に目的地へと到着する。
当然の様に、この『サンクタム聖王国』の最重要地点であり、首都にして聖地『セントユーディズ』の中心に聳える、首都機能を一手に担っている大聖堂『カテドラッセ』へ、である。
宗教としての『教会』にとっても、あらゆる意味合いに於いて最重要なモノである、と言える場所だが、実際の『実務的な国家』としての最重要地点でもある、と言えるだろう。
何せ、宗教としてのトップである教皇が、そのまま国王としても就任するシステムとなっているのだから、その『王』が常に身を置く場所である、と決められている所でに機能が集中するのは当然の事だ、と言える。
その為に、彼らが今いるこの大聖堂は、祈りの場であると同時に執務の場でもあるのだ。
故に、と言う程の事でも無いのだろうが、その門戸は広く開かれており、特定の行政を司る様な場所以外であれば、一定の権限を持っているか、もしくは権限を持っている者の同伴があれば大抵の場所には入れる様になっているのだとか。
そんな事情(?)も手伝ってか、他国で言えば『王城』に値するハズの大聖堂には、多くの人々が押し掛けていた。
通常であれば、限られた人物が限られた時間のみしか訪れるのを許されない場所であるハズが、こうして人の波が途切れる事無く押し寄せている、と言うのはかなり異様な光景であると初『聖国』組には感じられたらしく、一様に『こちらで本当に合っているのか?』と言った様な、訝しむ表情を浮かべて行く事となる。
が、いざ大聖堂内部へと到着し、その上で祈りを捧げる偶像の置かれた広場を抜けて幾つかの扉を潜り抜けた先、衛兵によって塞がれていた通路をセシリアの顔パスによって通過した辺りになると、基本的に人の通りが無くなって行き、イメージしていた通りの『王城』内部、といった雰囲気へと変わって来る。
そして、大聖堂としての立地から鑑みるとかなりの奥地へと至った頃合いにて、彼らは重厚な扉の前へと到着する事となる。
その扉は、それまで通り掛かったモノとは異なり、ピッシリと閉ざされていた。
部屋として機能している場所ですら、個人的なスペースへと通じる様なモノ以外は開け放たれていたにも関わらず、だ。
そして、それまでと異なる点としては、衛兵の質と動作、も挙げられるだろう。
何せ、それまでは雑兵、とは言えないながらも、彼らを案内するセシリアよりも格上と思える様な力量を持っている者は見受けられず、彼女の顔を見るや否や、同伴者の身分を確認する事すらもせずに道を開けていた。
が、現在彼らの目の前に立っている衛兵達は、下手をしなくとも一つの騎士団を任されており、その上で自ら最前線へと赴くセシリアよりも手練れである雰囲気を放っており、アレス達をしても、彼らを突破するのは片手間には難しいだろう、と思わされざるを得ない状況となっていた。
更に言えば、その衛兵達はセシリアの顔を確認した上で手にしていた長物にてこちらの進行方向を塞ぎ、視線と表情にて所属と目的を明らかにした後に、アレス達の身元も開示する様に、と迫って来た。
…………恐らくは、その扉の向こう側に居るのであろう存在を鑑みれば、当然の対応であり、寧ろ誰何せずに排除しに掛かって来られても仕方無いのでは?と言われても納得出来てしまうであろう状況だけに、アレス達としても自身の情報を開示する事に躊躇い等は特に無い。
なので、率先してギルドタグを提示しようとした時に、セシリアは若干ながらも緊張した面持ちにて胸元から一巻の手紙を取り出すと、その蜜蝋の封印に使われている印章を二人の衛兵へと向けて、誇示する様に掲げて見せた。
「妾は、第二遠征騎士団を預かる、セシリア・トゥ・クオンサム。
此度は、任務を終えた報告を為すべく、ここに参上致しましたわ。
本来であれば、妾程度の功績と身分では、至尊の御方に御目通り願う事は叶いますまいが、こうして彼の御方からの召喚状、並びに辞令書がございましてよ。
よろしくご確認の程、お願い致しましてよ?」
「…………拝見しよう」
セシリアの名乗りを受けた衛兵の内、片方が得物を下ろして彼女が差し出した書簡を受け取る。
ソレを確認している間も、もう一人の衛兵は得物を斜めに掲げて通路を塞いでおり、視線も油断無く彼らへと向けて注がれている状態となっていた。
無言のままで確認が進む事、暫しの間。
封蝋印の確認と、内容の確認を終えた衛兵は、心無しか丁寧にも思える手付きにて受け取っていた書簡を元の状態へと巻き直すと、ゆっくりとセシリアへと差し出して返却してから元の位置へと戻り、もう一人へと目線で軽く合図を出してから、二人同時に得物を引き戻して通路を開く。
「…………内容、確認致しました。
至尊の御方は、この先の執務室にて政務に勤しんでおられます。
無いとは思いますが、くれぐれも無礼の無い様にお願い致したい。
よろしいですね?」
「当然、妾が着いているのですから、その様な事は致しませんわ。
まぁ、彼の御方がソレをお許しになられたならば、妾には最早関係の無い事柄で御座いますが、ね?」
「…………通られよ」
口数少なく告げた衛兵達は、表情を変える事無く手振りで奥の扉へと促す。
鍵を開いたりする素振りを見せないのは、単純に鍵を掛ける習慣が無かったのか、それとも自分達の実力であれば掛ける必要は無い、と思っているのか、はたまた無くとも最低限の時間は確実に稼いで見せる、との意気込みと誓いの果ての事であったのかは不明だが、取り敢えず動かない事には何も始まらない為に、躊躇いと緊張を見せているセシリアに変わってアレスが無造作に取っ手へと手を掛けて扉を開いて行く。
「…………ようこそ、冒険者パーティー『追放者達』の皆さん。
私が、今回貴方達をこちらへと招聘させて頂いたグレゴリオ・ディ・ガルシアと申します。
まぁ、世間的には、『グレゴリオⅦ世』か、もしくは『教皇聖ガルシア』の方が通りの良い名前となっているかも知れませんが、取り敢えず扉を開けて入室する際にはノックをお忘れ無きように。
マナーですよ?」
「これは失敬。
特に強制される事も無かったので、了承済みかと。
それと、名乗られたのでしたら、こちらもせねば無作法、ですかね?
取り敢えず、冒険者パーティー『追放者達』のリーダーをやってます、アレスと言います。
姓を名乗らないのはご容赦を、無いモノでして。
それと、自分達を直接的な方法にてこうして指名し、依頼を投げたい、との事でしたが、ズバリお聞きしますがコレに書いてあったのは本当ですか?」
扉の中には、それまで通って来た道からは考えられない程に質素で、かつ実用的な作りとなっている執務室と思われる部屋と、その中央にて仕事を続ける一人の老人の姿があった。
真っ白に染まった髪と髭は長く、それでいて艶を保ちながらも前線を後退させていない様子からは、一部の人間から怨嗟の叫びを挙げながら血走った瞳を向けられて然るべき状態となっていたが、アレスの不調法に対しても怒りを向ける事無く悠然と佇み、平然と自己紹介まで熟してしまうその姿は、やはり一大勢力のトップに収まるべくして収まった傑物なのだろう、と思わせるに足る雰囲気を放っていた。
そんな相手に対してアレスは、特に物怖じする様子も素振りも見せずに、極々平素と変わらぬ振る舞いにて言葉を交わす。
元より、一国の主であるガシャンドラ王と個人的に友誼を結んでいたり、様々な依頼や盤面にて様々な人物と言葉を交わして来た経験が在るが故に、そう言った立場に在る者の中には必要以上に畏まられる事を嫌う者が一定数おり、かつ目の前の人物がソレに当たる、と見抜いていたのも大きな要因と言えるだろう。
敢えて飄々とした振る舞いを見せるアレスに対して軽い微笑みを浮かべたグレゴリオは、彼の促すままに依頼書として送った手紙の内容を口にする…………よりも先に、彼の肩越しに見えていた、草臥れた中年にしか見えない人物へと視線を向ける。
そして、その瞳と表情に、出来ればこの人にはこんな形で頼りたくは無かったな、と言いたげな苦笑いを浮かべると、外見からは考えられない程に若々しく、それでいて軽い口調にて言葉を放つのであった。
「やぁ、久しぶりですね、『オジサン』。
こうして直接会うのは、相当ぶりじゃないですか?
ねぇ、例のあの時に、呪われていた可能性を考慮して、是非ともウチで解呪の試みをさせて欲しい、と送った手紙をわざわざ無視して、結局落ちぶれる所まで落ちぶれた自称『オジサン』?」
「………………その一件は本当に反省しているので、どうか勘弁して下さい『ガルシア君』……」
AC楽しい、PS5凄い!
(虚ろな目をして漸くPS5に手を出した元狩人兼褪せ人)